新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

らんらんらんらんひののぎとん

★登場人物紹介
政岡、喋りたがり。
アンナ、歌いたがり。独特な笑い方をする。
 
 
前回までのあらすじ?
トゥモロウはネバーにノウズだった。
 
 
ディナーイベント。
アンナ、政岡、簡易ステージに並んでいる。
 
 
 
アンナ
ほんの、小さな、出来事にー、
 
政岡
入りが優しい、優しすぎます、ターンターン、
 
アンナ
愛はー、傷ーつーいてー、
 
政岡
ああ一瞬にして、一瞬にして愛傷ついちゃった、オウマイガットですな、チャンチャーン、
 
アンナ
君は、部屋をとびだしたー。
 
政岡
とびだしちゃった、気を付けてね道路とか危ないから。ちゃんと横断歩道とか右見て左見て、チャーンチャーン、
 
アンナ
真冬のー空のーしたーにー、
 
政岡
あったかい格好して出てったか、マフラーちゃーんとしましたか?心配だなあ、いや本当、
 
アンナ
編みかけーていたー、手袋とー、
 
政岡
おおーい、そんなん残してかないで、持ってっていや本当マジで、
 
アンナ
洗いーかけの洗濯物ー、
 
政岡
終わらせていきなはれやー、終わらせていきなはれやああああ、
 
アンナ
シャボンのーあーわがーゆれていたー。
 
政岡
え、手洗い?
 
アンナ
君のー、香りがーゆれてたー、
 
政岡
あああああああああああああ、
 
二人
たえまなくー、降りそそーぐー、こおのー、ゆきのよーおうーにー、君を愛せばよかったー、
 
政岡
この声が枯れるくらいにこの声が枯れるくらいにきみに好きと言えばよかったとですよ、
 
二人
窓にー、ふりそそーぐー、こおのー、雪のよおーおーにー、
 
アンナ
二人の愛は、流れたー。
 
政岡
ながれたあああああああああああああ、なんで、なんでこんな優しい音楽なの、なんで、なんで流れたー、愛流れたー、って普通に事実確認してんの、この野郎、もっと、終わったんだああああー、うわああああー、って晒してくれよ、なんなんこの優しさ、異常ではないかい、編みかけの手袋とか横にあるんだろう、ひきちぎってくれよ、編みかけの手袋、引きちぎって焚き火とか入れてメラメラに燃やし尽くしてくれよ、君の香り、揺れてる君の香り、ファブリーズで台無しにしまくってくれよおう、うおおおおう、ながれたー、じゃあないんですよ、なんなん、たえまなく降りそそぐこの雪のように、君を愛せば良かったー、じゃあないんですよ、そんな一瞬で終わる後悔いらないんですよ、追いかけていってよ、まだすぐそこなんだから、まだすぐそこに、君、いるんだから、追いかけて行ったら追いつく距離だから、そんな距離離れてないのよ、洗いかけの洗濯物のシャボンゆれてんだから、おーい、雪の中、絶え間なくふりそそぐ雪の中、どこまでもーかーぎりなくー降り積もるゆーきとあなたへの思い、少しでもー伝えたくてー、届けたくてー、そばに居て欲しくてー、凍える夜ー、待ちー合わせもーできないままー、明日を探していてくれよう、ながれたー、じゃあないんですよ、愛せば良かったー、じゃあないんですよ、どうなってんですか、二番に行きたまえ。
 
アンナ
思い出つまったこの部屋を、
 
政岡
なんか嫌な予感する。チャーンチャーン、
 
アンナ
僕もー出てーゆこーおーう。
 
政岡
おおおーい、お前も出ていくんかーい、おっかけやんかったんかーい、ジャーンジャーン
 
アンナ
ドアにかーぎをおろした時ー、
 
政岡
おろした時、おろした時、なんですか、
 
アンナ
なぜかー、涙がー、こぼれたー、
 
政岡
なぜかってわかってますやないかい、理由はっきりしとりますやないかーい、
 
アンナ
君が育てたサボテンはー、
 
政岡
うーわサボテンも残していきやがったのか、手袋だけでなく、なんてやつなんですか、
 
アンナ
ちいさなー、花をー、つくったー、
 
政岡
意味深ー、
 
アンナ
春はー、もうすぐ、そこまで、
 
政岡
あー、マジで今年こそ花見したかったですなあ、チャーンチャーン、
 
アンナ
恋はー、今ー、終わったー、
 
政岡
そうそう終わっちゃいましたわー、恋、今、今、今終わったんですか?
 
二人
こーのー長いふーゆーがおわーるまーでーになにかを見つけて生きようー、
なにかをー、しんじーてー、生きてゆーこーう、この、冬がー、終わるまでー、
 
アンナ
らんららんらんらんららーらー、
 
政岡
今、恋は今終わったとはいつのことでしょうか?
 
アンナ
らんららんらんらんららーらー、
 
政岡
サボテンがちいさな花を作った今、今、恋は終わった、この今とはいつのことでしょうか。
 
アンナ
らんららん、らんらんらラーラー、
 
政岡
つまりドアに鍵をおろしてなぜか涙を流していたあの時はまだ恋は終わっていなかったってことでしょうか。
 
二人
らんららんらんらんらラーラー、
 
政岡
らんらんららんらんらんららーらー、らんららんらんらんららーらー、らんららんらんらんららーらー、らんららん、らんらんららーらー、あーすみません、本当、調子乗りました。そう言う日ってありますよね。二人の間のことに、私なんか部外者が口を突っ込んでしまって本当にすみませんでした、あいつ待ってんだよ、早く追いかけていってやれよ、ってバイクの後ろに乗せて空港に運んでやる元恋のライバルみたいなスタンスをとってしまい、誠に申し訳ありませんでした、らんららんらんらんららーらー、ただ、言わせてくれ、らんらん言ってる場合じゃないですよ、らんららん言ってる場合じゃないですよ、怖いよ、春の陽気、なんにもみつかってなくない?なにかって、なにかなんて抽象的な言葉使ってるって、なんにも見つかってないって証拠ではないですかい、なにかとかなぜかとか、もう逃げまくってるとしか思えんですよ、春の陽気にこの歌包まれてますけども、なんすか、冬でしょ、根本、君、ちゃんと冬に向き合わねばならんですよ、なにかを見つけて生きようって言ってますけど、そんな見つけようとして見つけたなにかなんて信じられるなにかになにかしらのかたちで発展することなんて滅多にないわけですよ、この主人公は多分何にも信じることもなく、らんらんらんらん言ってるだけで、冬を覆い隠してるってことじゃあないのかい、って言うかそうするしかできんですよ、去っていった彼女を追いかけることもできんのだから、事実確認しかできんのだから、らんらんらんらん、年取ってきますよ、このままだと、らんらんらんらん年取って、らんらんらんらん確定申告して、らんらんらんらんらんらんらんらん言いながら、君の育てたサボテンだけちゃんと世話してくわけでしょう、いや、花、君が育てたサボテンがつくった小さな花によって、この恋は終わったってことでしょう、偶発的に生まれた花が終わりを告げてくれたってことでしょうか、おそらくその花を彼が見つけたときに彼の頭の中ではこれまでの君との生活が浮かんでいたことでしょう、シャボンが揺れてたかもしれないし、ギターを弾いてくだらない歌を歌っていたかもしれない、セーターを編んだり、爪切りをなくしたり、部屋のカビ駆除に奔走したり、布団カバーの設置に手間取った過去過去過去が、サボテンの小さな花を見ている彼の脳内にめまぐるしく浮かんでいたかもしれない、いや、そんなことないかもしれない、だけどはっきりわかってることはこれだけですよ、小さな花が恋を終わらせたってことです。だから彼はらんらん言ってるんです、これからもらんらん言ってくことでしょう、どうなんでしょうか、彼はこれかもらんらんらんらんしてくのでしょうか、らんらんらんらんがおさまることはあるのでしょうか、教えてください、先生、うわーーーーー、先生、この主人公は俺だーーーーーー、うわあああああああーーーーー、
 
  政岡、部屋から飛び出していく。
 
アンナ
らんららんらんらんらラーラー、らんららんらんらんらラーラー、らんららんらんらんらラーラー、らんららんらんらんらラーラー、らんらんららんらんらラーラー、らんららんらんらんらラーラー、らんららんらら、ララララー。
 
  アンナ礼をする。
 
  拍手がパラパラと起こる。
 
 
終わり。

トイレットペーパーロマンス

 
●登場人物紹介
雅紀、亀おばさんという変な人を追っかけている。
あゆみ、原川あゆみ、ココナッツミルクが好き。
 
「トイレットペーパーロマンス」
 
  
  そこまで大きくないオフィス。
  大量のでかい段ボールがオフィス内を埋め尽くしている。
 
  雅紀、あゆみ、その中にいる。
 
 
雅紀
え、
 
あゆみ
すみません、
 
雅紀
あ、うん、いいけど、
 
あゆみ
すみません。発注ミスで、私の発注ミスで、
 
雅紀
うん、うん、いいけど、いいんだけど、
 
あゆみ
トイレットペーパー、六個セットって知らなくて、バラ売りかと思って、
 
雅紀
あ、それで、こんなでかい段ボールいっぱいあるんだ。
 
あゆみ
20個頼んじゃいました。
 
雅紀
あ、へー、じゃあ今この部屋にトイレットペーパー120個あるんだ。
 
あゆみ
さらに一袋に12個ずつ入ってるので、その12倍です。
 
雅紀
12×120で、1440個ね。そりゃあ部屋中段ボールになるわけだ。
 
あゆみ
え、すごい、暗算できるんですか?
 
雅紀
あ、うん、暗算二段。
 
あゆみ
へー。
 
  間。
 
あゆみ
すみません、本当すみません。
 
雅紀
いいよいいよ、トイレットペーパーなんて使うんだし、結局、なくなっていくんだし。
 
あゆみ
私、いっぱい使います、トイレットペーパー、
 
雅紀
それはいいんじゃない、そんな使わなくてもいいんじゃない。
 
あゆみ
ああああー、優しすぎます、先輩、優しすぎる。
 
雅紀
いや、うん、あるよ、そういうの、いや、ここまではないか、こんなトイレットペーパー来たのは初めてだわ。
 
あゆみ
あああああああああ、
 
雅紀
落ち着こう、そんな大したことじゃないから、一旦、落ち着こう。
 
あゆみ
あああああああああ、宮川さんに、宮川さんに、バレたくない、
 
雅紀
うん、諦めて、これをバラさないでいるのは無理よ。
 
あゆみ
宮川さん、帰ってくる前になんとかできないですかね?
 
雅紀
なんとか、無理無理、隠しようないじゃん、こんな大量の段ボール、どうしようもないよ。
 
あゆみ
捨てますか。
 
雅紀
捨てちゃだめでしょ、
 
あゆみ
せんぱーい、
 
雅紀
せんぱーい、じゃなくて、捨てちゃだめでしょ。
 
あゆみ
流しちゃうとか、
 
雅紀
捨てるのと同じじゃない。
 
あゆみ
ああ、終わった、私の3年かけて作り上げてきた、完璧すぎる、デキルキャラ造形、終わった。
 
雅紀
仕事、しようよ。
 
あゆみ
はい。
 
  互いのデスクに戻る。
  段ボール、避けながら。
 
  カタカタカタカタ、キーボードの音が鳴り響く、
 
あゆみ
先輩のせいだ。
 
雅紀
ええええ、俺?俺じゃないでしょ、
 
あゆみ
先輩のせいだ。
 
雅紀
えええええ、頼んだの原川さんでしょ、俺のせいじゃないでしょ、
 
あゆみ
私が成果品用ファイルとコピー紙の番号タノメールに書いてる時、トイレットペーパー少なくなってるから、ついでにお願いしていい?って先輩言ってきたじゃないですか。先輩がお願いしてこなければ、こんなことには。
 
雅紀
そりゃあそうかもだけど、間違えて頼んだのは、君だよ、その事実変わらないよ、
 
あゆみ
うわああああああ、
 
雅紀
うるさいなあ。
 
あゆみ
このう、
 
  あゆみ、段ボールを蹴る。
 
あゆみ
このう、このう、このう、
 
雅紀
すっげえな、デキルキャラ造形作り上げようとしていた人とは思えないな。
 
あゆみ
このう、このう、このう、
 
雅紀
原川さん、やめて、それは違う、トイレットペーパーは悪くない、
 
あゆみ
悪いのは私ですか。
 
雅紀
いや、うん、誰も悪くない、悪いのは社会よ、このクソみたいな社会がただただ悪い。
 
あゆみ
あああああああ、もうやだ。
 
  あゆみ、床に寝転がる。
 
雅紀
あのう、仕事しようよ、
 
あゆみ
もうやだああああ、ああああああ、もうなにもかもやだあああああ、もう何にもしたくないーーー、あああああああ、タイムマシーンほしいいい、全部全部、全部全部、先輩のせいだああああ、
 
雅紀
俺じゃないって、っていうか、立ちな、まず、立ちな、今のこの状況こそ宮川さんに見られたらまずいよ。本当。
 
あゆみ
彼氏に振られました。
 
雅紀
持ち込まないで、プライベート、
 
あゆみ
え、彼氏に振られた、って私、言ってるんですよ。
 
雅紀
だから持ち込まないで、プライベートって言ってるの。
 
あゆみ
え、ひどくない?私、彼氏に振られたって言ってるのに、ひど、ツイートしよ、
 
雅紀
仕事しようよ、ツイートしてる場合じゃなく仕事しようよ。
 
あゆみ
ついでにこの段ボールだらけのトイレットペーパーだらけのオフィス、インスタあげよ。
 
雅紀
仕事しようよ。
 
  あゆみ、スマホで写真、カシャア。
 
あゆみ
写真、撮って貰っていいですか?
 
雅紀
あ、うん、
 
  あゆみ、段ボールから、トイレットペーパーを1パック取り出す。
  トイレットペーパーとあゆみのツーショット。
 
  カシャア。
 
あゆみ
ありがとうございます。
 
雅紀
うん、ま、ね、毎日辛いこともあるだろうけどね、そこは、ね、社会人だし、一応。
 
あゆみ
は?
 
雅紀
は?って君ねえ、は?、はダメでしょ。
 
あゆみ
ミイラごっこ、しません?
 
雅紀
しないよ。
 
あゆみ
なんかもう、全部どうでも良くなってきた。
 
雅紀
だろうね。
 
あゆみ
飲みに行きません?
 
雅紀
原川さん、落ち着いて、一旦、話聞いて、君、トイレットペーパー発注ミスっただけ、そんな大したミスじゃないよ、何故ならトイレットペーパーはいずれにしろ使われていくんだから。人間生きてる限りトイレットペーパー使ってくんだから。ただオフィスに圧迫感をもたらしてしまってるだけなの、段ボール置く場所ないから。段ボール置く場所あったらオフィスに圧迫感ももたらさないし、トイレットペーパー今後全然発注しなくて良くなるし、なんの問題もないのよ、ただ、子会社だから、中小企業だから、オフィスパンパン感出ちゃってるけど、大丈夫よ、そんな大した問題じゃないのよ、宮川さんがきたらそりゃあ小言の一つや二つ言われるかもしれないけど、大丈夫よ、全然大した問題じゃない、聞き流せばいいんだから、川の流れのように、小言ってのはあーあー、って流れていくんだから、大丈夫、大した問題じゃないの。大した問題じゃないのに君が今ワーワー騒いでしまっているのは多分彼氏に振られたからだと思う。彼氏に振られたこととトイレットペーパーが大量に来てオフィスに圧迫感をもたらしてることが、なんだろう、君を混乱させている。混乱させて、何もかもどうでも良くしてる、飲みに行きたくなってる、けど、今就業中だから、落ち着いて、多分後悔するよ、ミイラごっことかして、騒いでるとこ宮川さんに見られるのが一番最大の非常事態だってこと、それ、わかるよね?
 
  あゆみ、段ボールを蹴る。
 
雅紀
わかってくれた、ありがとう、飲みにいくのも違うの、わかるよね。
 
  あゆみ、段ボールを蹴る。
 
雅紀
うん、おっけい、でも蹴って返事するのやめてくれない、怖くなるから。ゾワゾワしちゃうから。
 
あゆみ
おっけいでーす。
 
雅紀
うん、おっけい、おっけいなのはいいことだ、よし、仕事しよう。ちゃんと、仕事しとこう。
 
あゆみ
仕事、辞めようかな。
 
雅紀
仕事辞めなくていいのよ、そんな大した問題じゃないんだって。
 
あゆみ
大した問題じゃないなら、先輩が発注ミスったことにしてくれませんか?
 
雅紀
えええ、、、
 
あゆみ
私じゃなくって、先輩が大量のトイレットペーパー頼んでしまったってことに、ここは一つ。
 
雅紀
それはなくない、それは違くない。
 
あゆみ
大したことないんでしょ。トイレットペーパーの発注ミスなんて。
 
雅紀
だって、それは、君が、受け止めな、ちゃんとミスったってこと、君が受け止めなよ。
 
あゆみ
え、これ、私が悪いんですか?
 
雅紀
君だよ、どう考えても君だよ。
 
あゆみ
社会じゃないの?
 
雅紀
君、君がミスって、君が社内をトイレットペーパーだらけにしたの、受け止めて。
 
あゆみ
私、なんで彼氏に振られたんですか?
 
雅紀
知らないよ、彼氏に聞きなよ。
 
あゆみ
え、ちょっと聞いてきていいですか?
 
雅紀
仕事したまえよ、仕事するふりでもいいから、仕事したまえよ。
 
  あゆみ、トイレットペーパーを一つ取り出す。
 
雅紀
もう、知らない、俺、知らない、何にも言わない。好きにしな。
 
  あゆみ、トイレットペーパーを雅紀に巻いていく、
  雅紀、キーボードをカタカタしている。
 
雅紀
俺、本当、知らないから、俺、マジで本当もうなんも知らないから、っていうかマジでどうでも良くなってきた、なんで俺こんな仕事仕事言ってるんだろ、あああ、マジで、面倒、宮川さんに説明するのマジで面倒くなってきた、え、マジで飲みに行っちゃう?
 
あゆみ
振られた原因、癇癪起こすからだって、
 
雅紀
だろうね。っていうか、俺、ミイラにされてる?
 
あゆみ
癇癪起こすから?は?ふざけんなよ、癇癪起こしてナンボじゃん、ねえ、
 
雅紀
ある側面から見たら確かにあゆみちゃんの言ってることは正しいのかもしれない、しかしもう一方から見たら癇癪なんて起こされるとたまったもんじゃないよ、いや、マジで、これは一つ、あると思う、っていうか俺?ミイラにされてる?
 
あゆみ
4000年後とかに発見されてくれないかな、先輩のミイラ、4000年後もキーボードカタカタさせてるの。
 
雅紀
あ、俺、それ、聞いたことあるわ、即身仏って日本のミイラ、掘った穴にこもって、木魚打ちながら念仏唱えてミイラになってくの、俺、つまり、これね、念仏の代わりにキーボードカタカタしてるってこと?
 
あゆみ
えー、めっちゃありがたい、私のインスタ伸びまくってる、トイレットペーパーさまさま、トイレットペーパー発注ミスってマジで良かった。
 
雅紀
つまり、俺ってなんだかんだで世界平和願ってんだな、世界平和願いながらキーボードカタカタやってるわけだ。あ、レモンサワー、おかわりくださーい。
 
あゆみ
え、わたし、何飲もっかな。
 
雅紀
俺、今ミイラだけど、レモンサワーで爽やかになりたい。4000年後、俺、爽やかなミイラになっていたい。爽やかなミイラのままキーボードカタカタして、そこから入力された文字で解読されるわけ、このミイラはトイレットペーパー発注ミスったミイラですって。
 
あゆみ
発注ミスったのは私ですけど、
 
雅紀
いいよいいよ、俺のせいにしていいよ、歴史ってのは変わってしまうものなんだから。最後に、いい?
 
あゆみ
何?
 
雅紀
ミイラっぽいうめき声だけあげさせてくれない?
 
あゆみ
ミイラってうめき声あげるの?どっちかって言うとゾンビじゃない?
 
雅紀
うゔーーーーーーーーーーーー、うゔーーーーーーー。
 
  
  でかい段ボールから大量のミイラが出てくる。
 
 
ミイラ達
うゔーーーーーーーーーーーー、うゔーーーーーーーー、
 
 
  ミイラのうめき声に呼応してキーボードの音が世界を包み、
 
 
終わり。

劇作家Z氏とインタビュアー君による公開講座5〜劇作家Z氏の悲しき過去から見る劇の速度について〜

●登場人物紹介
劇作家Z氏、頭町大学でだべる人。
インタビュアーくん、囲碁が趣味、だと思ってる。
 
●前回までのあらすじ
藤子・F・不二雄の宇宙人レポートABと坪内逍遥訳のロミオとヂュリエットを比べて、変換作用を確認し、実際に学生Eくんの昨日を変換してみた頭町大学の一同。
続きは次回となっていたはずだが、案の定忘れ去られ、久しぶりの劇作家Z氏の登場、今回なんかしゃべりたいことがあるらしい。
 
 
Z氏
どうも、地位も名誉もかなぐり捨てて、ただただ劇作の愉快さを伝えるためにここ、頭町大学に今日もまた、今日もまたやってきました、劇作家Zです、よろピクミン
 
インタビュアー
あんた、かなぐり捨てる地位も名誉もないでしょ。
 
Z氏
そしてこちらは、相変わらず趣味も性格も定まらない、質問上手だけが取り柄だったはずのインタビュアーくんです。
 
インタビュアー
質問上手を過去形にしないでください、どうぞよろしく。
 
Z氏
え、何?機嫌、悪いの?
 
インタビュアー
いつも通りですよ。
 
Z氏
え、機嫌悪くない?怒ってる?
 
インタビュアー
怒ってないですよ、これがマイスタンダードですよ、
 
Z氏
ガム、食う?
 
インタビュアー
ガム食いません。
 
Z氏
ええー、板ガムだよ。
 
インタビュアー
懐かしい、懐かしいけどガム入りません。
 
Z氏
じゃ、私食べるわ。
 
インタビュアー
待って待って、あなたねえ、今から講義始めるんでしょ。
 
Z氏
だよ、だよ、
 
インタビュアー
ガム食べながら講義するんですか?
 
Z氏
ガム食べながら講義するよ。ダメ?
 
インタビュアー
え、ダメでしょ。嫌でしょ、ガム食べながら講義されたら、
 
Z氏
え、いや?
 
学生C(宝田明)
うーん、そうですね、流石にちょっと、引きますね。
 
Z氏
あ、引く?宝田明くんですら引くんだ、
 
インタビュアー
当たり前でしょ。
 
Z氏
じゃあやめよう、ガム食べるのやめよう。じゃあ、何しよう。
 
インタビュアー
講義してくださいよ。
 
Z氏
講義ね、講義講義、久しぶりだなあ、講義、っていうかこの戯曲集。
 
インタビュアー
あなたねえ、始めた時は二週間に一回書くって言ってましたでしょ、
 
Z氏
そうだったそうだった。
 
インタビュアー
一ヶ月に一回くらいならまだわかりますが、え、なんですか、年単位ですよ、年に2、3回の頻度になってきてますよ、どうですか、流石に、ちょっとサボりすぎでしょ。
 
Z氏
すんません、なんか鍼灸の学校入っちゃって。
 
インタビュアー
なんでなんか鍼灸の学校入っちゃうんですか、こちとら出番なさすぎて、私どんな人だったか忘れちゃいましたよ、合ってる?私のキャラ?
 
Z氏
ごめんごめん、以後気をつけます。ま、気をつけたところで治んないだろうけど、
 
インタビュアー
で、今日はどんな話を持ってきたんですか?
 
Z氏
そうねえ、実は頭町大学でのこの講座、僕は非常に大切なものと思っているのだよ、インタビュアーくん。
 
インタビュアー
な、なんですか急に。
 
Z氏
色々と話したいことがあるんだけど、まず、この戯曲講座の大切さに気づいたって話させてくれよ、インタビュアーくん。
 
インタビュアー
はい、じゃあどうぞ。
 
Z氏
え、どうぞはやめてよ、どうぞは流石に話始めづらいよ。
 
インタビュアー
いや、話し始めてくださいよ。
 
Z氏
え、ちょっと待って、どうぞ、はないでしょ、どうぞ、って言われて話始められる?めっちゃ、あれだよ、めっちゃ重荷全部こっち投げられたみたいな感じよ。
 
インタビュアー
え、言うでしょ、どうぞって。
 
Z氏
前々から言おうと思ってたけど、投げやりなんだよなあ、君、
 
インタビュアー
早く始めてくださいよ、
 
Z氏
始めるよ始めるんだけど、君さあ、もっといい話の振り方あるでしょ、
 
インタビュアー
ないです、どうぞ、どうぞどうぞどうぞどうぞ、ありがたいお話を聞かせてくださいませ、どうぞ。
 
Z氏
ええー、待って、そう言う感じでくる?そう言う歯向かい精神見せてくるの?じゃあ、こっちだって考えあります。
 
インタビュアー
なんですか?
 
Z氏
君がちゃんといい話の振り方してくれるまで始めません。
 
インタビュアー
性格腐ってんなー。
 
学生A
早く始めろよ、こちとら授業料払ってんだから。
 
Z氏
あー、わかる、授業料、払ってんだからって気持ちすごいわかる。
 
インタビュアー
鍼灸の学校行ってるからね。
 
Z氏
そうなんですよ、半年ごとに請求来るんですよ、あー、稼がななんないのに、たくさん稼がねばならんのになんでこんな何にもならないやり取り書いてんだ、早く講義始めてー。
 
インタビュアー
始めればいいだけじゃないですか、始めたいなら始めましょうよ。
 
Z氏
君がちゃんといい話の振り方してくれないからだよ。
 
インタビュアー
どーうすればいいのよ、
 
Z氏
あれ、あるじゃん、あの、昔の、歌謡番組のさ、歌い始める前に、アナウンサーかなんかが、なんかタラタラ喋るやつ。
 
インタビュアー
ああ、惚れた女が悪いのか、騙した男が悪いのか、今宵ナンタラなんたららとかなんとか言うやつですか。
 
Z氏
そうそう、え、うまいね、それそれ、それやって。
 
インタビュアー
え、これやるの?
 
Z氏
それやってくれたら話し始めるから。
 
インタビュアー
ええー、相変わらず面倒臭いなあ。
 
Z氏
盛り立ててくれないと、盛り立ててくれないといい授業にならないって鍼灸の先生も言ってた。
 
インタビュアー
うーん、じゃあ、いきますよ。
「真の劇作とはなんたるか、鍼灸師目指す傍らに、心身鍛えて悟りを開け、それでは話していただきましょう、劇作家Z氏で、この戯曲集について、どうぞ、張り切っていきましょうー」
 
Z氏
パチパチパチパチー、いやー、いいね、
 
インタビュアー
話し始めてくださいよ。
 
Z氏
いや、すごくいいんだけど、鍼灸師目指す傍らって言っちゃうのどうなの?イメージ悪くない?
 
インタビュアー
悪くないです、むしろ好印象です、頑張ってんだなって、早く話し始めてください。
 
Z氏
鍼灸師隠したバージョン作ってみてよ、
 
インタビュアー
いやです。話し始めてください。
 
Z氏
ええー、話し始めるの?
 
インタビュアー
え、嫌なんですか?
 
Z氏
いやじゃあないけど、いやじゃあないんだけど、何でしょうね、インタビュアーくんとの交流をさ、もっと楽しみたいじゃない、ねえ?
 
学生C
先生、流石に引いてます。早く講義をしていただきたいかと存じます。
 
Z氏
宝田明くんに言われたらなあー、するしかないなー、っていうか、そろそろするか、ええと、なんの話しようとしてたんだっけ?
 
インタビュアー
この戯曲集が大切だとかなんとか言ってましたですよ。
 
Z氏
あ、そう、そうなんですよ、思ったんですよね、つまり、僕、後藤明生好きじゃない、後藤明生が言ってるんですけどね、Aって言う小説を書くとBって言う小説を書かざるを得なくなる、そういった増殖していくのが小説だと。
 
インタビュアー
カフカがナンタラとか前に呟いてましたね、
 
Z氏
え、君僕のツイッターチェックしてるの?
 
インタビュアー
脇道逸れちゃうんで続けてください。
 
Z氏
つまり、つまりね、戯曲を書くと、その戯曲についてあーだこーだ言いたくなったり、過去の戯曲達からどうなってこうなったか、あるいは、その時影響受けたものやらを喋りたくなるのが僕の癖、といいますか、サガな訳でしょう。
 
インタビュアー
プライドも何もありゃしませんものね。
 
Z氏
これ、実はすごく重要なことだと思ったわけです。現在地の確認って言うのかね、そうそう、現在地、確認しまくった方がいいって思ったわけ、現在地確認すると、次したいことが見えてくるわけ。
 
インタビュアー
したいことってのは、書きたい内容とは別なわけですか。
 
Z氏
別なわけなのよ、書きたい内容なんてもう何にもないのよ、ただただ登場人物が動き回ってくれる方法だけでいいのよ、だから方法、後藤明生っぽいよね、方法、なんだけど、僕自身は、演劇における方法ってものにずっと違和感を持っていたわけ。例えば、昔ある劇団を見た時の、めちゃくちゃ面白い演技方法確立してて、すげーってなったわけ、で、次見た時に全然違う内容なのに同じような演技で挑んでて、え、ちょっとってなったわけ、ここが違和感の元なんだけど、その時の僕は、内容と方法がマッチしないとダメなんじゃないか、内容に合った方法論があるんじゃないかとって思ってたんだけど、最近閃きました、方法論って二つあるんじゃないかってことなんですよ。
 
インタビュアー
ほーうほう、
 
Z氏
つまり、嵌め込む方法と、起こす方法であります。
 
インタビュアー
ほーう、
 
Z氏
嵌め込む方法だとうまくマッチしないとダメになるんですよね、だけど、起こす方法ってのは関係ないですよ、ただただ、起こる方法論なんだから、
 
インタビュアー
起こすってのは、何を起こすんですか?
 
Z氏
え、起こす?起こすねえ、なんだろ、やっぱ登場人物が動き始めるってことになるのかな、喋り始めるとか、簡単に言ったらドラマが起こる方法論、的な?
 
インタビュアー
ああー、なるほど、Z氏の一貫性が見えてきましたよ、この間、っていうかめっちゃ前の講義でも、物語に当てはめてつくるのか、登場人物の動いた形跡が物語になっていくのかって話してましたね、
 
Z氏
ああー、そうそう、あ、それと同じか、おんなじ話しちゃってるか、ダメかも。
 
インタビュアー
いや、おんなじだけど、違うような、いや、違います違います、自信持って自信持って。
 
Z氏
ありがとう、君の応援が明日への僕の活力に繋がるよ。つまりね、つまり、なんだろう、そうだなあ、振り返ってみると、僕はその時その時に、こういうことしたいでしか書いてないのかもしれないのですよ、もちろん戯曲によるけど、ある時は意識の複数路線をジェットコースターのように爆速で乗り換えながら書きたいって時期もあったし、ある時は言葉の迷路をつくるように、ある時は、萩原朔太郎どハマり時期に言葉で絵を描く感覚で書いたり、ですよ、で、今は語りにまつわる諸々のことを気にしていたはずなのに、そこから、ずれてきてるかも知れなくて、え、うーん、そうだなあ、この辺について、話した方がいいのかしら、いや、待てよ、一旦この話、この戯曲集がいかに大切かって話を落ち着けておこう。つまり、つまりね、戯曲を書く。その戯曲についてなんか書く。すると新しい書きたいものが見えてくる可能性があると思ってるわけ。このこと言いたかっただけなんだけど、
 
インタビュアー
難しいとこだと思うのは、つまり新作戯曲について、書いて発表して、その戯曲についてタラタラ説明加えんのかよ、説明加えなきゃ面白くない戯曲なのかよ、って思われそうなの嫌ですよね。
 
Z氏
そこなんですよ、その辺、ナイーブなとこで、説明じゃなくて、現在地確認のための報告みたいなものだと思ってて、半分自分のため、半分誰かのために社会貢献になればいいなって、ま、誰のためにもなんないんだろうけど、そうですねえ、戯曲について、作家ってあまり自分から話したがらないじゃない、どうなんだろう、わかんないけど、僕は話まくりたい、それで見方が固定されちゃうって怖さとか、余白がなくなっちゃうって気にする人いるかも知れないけど、そんな、どういうこと考えて書いたか、どう書いたかの文章で見方が固定されちゃったり、余白なくなる戯曲なんてそもそも大したことないんですよって立場を取りたいですよ、良い戯曲なんてどれだけ喋っても足りないし、どれだけ喋っても言い当てられないんだから。ね、つまり、この場、この場を作ったってことをどんどん肯定していきたい。書いてナンボだと思ってる。書いてると道が見えてくる。で、この話はおしまい。
 
インタビュアー
唐突だなあ。
 
Z氏
で、さっき話してて、話したくなったこと、話すんだけど、つまり、現在地の話ね、今、今の現在地の話、何点か実はあるんですけど、まず、タイムリーなことを一つ、共同劇作やこの戯曲集をはじめて見えてきたことは、戯曲には、それぞれの空気感があるってことで、例えばサザエさんにはサザエさんの空気感があって、ちびまる子ちゃんちびまる子ちゃんの空気感があって、その世界から別の登場人物を登場させる時に、その世界に合うような変換させないと成立しないって話したと思うんだけど。漫画とかアニメだと絵だからさ、自然と変換できちゃうんだよね、多分、サザエさんの世界にちびまる子ちゃん出るのとか、時代全然無茶苦茶だけど、なんか出来そうな気もするじゃない、だけど戯曲は上手くいかない、戯曲は上手くいかないっていうより、僕が書いてる戯曲は上手くいかないのかも知れない、つまり戯曲ごとに空気感、スピード感、速度感、違うわけで、ああ、この話をしようと思ってたわけで、ちょいとすみませんが、過去の僕の辛かったエピソードの一端になるんですが、聞きます?
 
インタビュアー
え、うん、聞きます。
 
Z氏
僕は今まで隠してきたけど、実は座・高円寺劇場創造アカデミーって演劇の養成所出てるんですよ、
 
インタビュアー
え、Z氏って座・高円寺劇場創造アカデミー出身なんですか?
 
Z氏
実はね、実はそうなんだよ。演技コース出身。
 
インタビュアー
ええー、がっかりだなあ、てっきり頭町生まれ頭町育ちの生粋の頭町人生を過ごしてきたのかと思っていたのに、
 
Z氏
ま、そんな茶番はさておいて、ですよ。アカデミーは修了上演でエドワードボンドの戦争戯曲集三部作をやるって伝統みたいなのがあって、全部やると8時間くらいになる狂った修了上演なんだけど、そのうちの3部に出た時に、まあ、そうですね、あの時の僕は若かった、なかなか上手くいかず、ずっと何が何だかわかっていなかった、しかも早朝5時からバイトして、稽古場で上手くいかず、夜な夜な一人スラムダンクの山王戦を見て泣くことで精神保ってるような日々だった、あ、スラムダンク今なんかやってるね、面白いのかなあ、大丈夫かなあ、すごい気になってはおるんだけど、僕の場合は三井寿推しですね、三井寿は名言が固まって街歩いてるみたいな存在だからね、そんな話はさておき、そんな話はさておき、ですよ、なんでそんな辛い過去の話を掘り下げるか、ですよ、っていうのは、今になってやっと信さん、劇場創造アカデミーのカリキュラムディレクターさんなんですが、言ってたことがたまーにちょっとだけやっとこさ、こういうことかもってつながることがあって、ここで、劇の速度の話に繋がるわけ。
 
インタビュアー
なんか話ごちゃごちゃしてますね、今日。
 
Z氏
ま、簡単に言うと、その時の修了上演の演出は、俳優が即興で演技するって演出で、つまり、同じとこから入らない、昨日した演技をなぞらない、その時その時の本当に沿って動け、喋れ、嘘をつくなってことなんだけど、これが本当に僕は出来なかった。出来なかったんだよ、本当に、ずっと最初のシーンやって、延々と嘘を見抜かれる日々を過ごしてた。で、何個かルールみたいなものがあったんだけど、一つは間の演技をしないってのがあって、ここ、すごい疑問だったの、その時信さんは8時間もあって長いんだから間の演技なんて見ていられないって言ってたと記憶してるんだけど、違う人が言ってたかもだけど、そう言う風な認識してたわけだけど、なんで間の演技、ダメなんだって、思ってた。っていうか止めちゃいけないって言われてたのね。それがやっとわかってきた、やっと繋がってきた。つまり戦争戯曲集には戦争後曲集の空気感があったってことなんだと、戦争戯曲集の速度があったんだって、この速度を壊してしまうから、間の演技がダメだったわけ、だけど逆にいうとこの戦争戯曲集の速度を壊しさえしなければ間の演技もできたかも知れない、っていうかその時の僕は自分のことに一杯一杯で劇全体のことが見えてなかった。ここが一番大きな反省点であるわけよ、役者やってると、感情が出るまでちょっと間置きたい、とか、その言葉咀嚼する時間ほしいとか、役者個人の要望が出てくる時があるんだけど、ここ、僕はわかっていなかったのは、劇の速度の中でそれをしなきゃなんないんだなって戯曲を書いてきてやっとわかってきた。つまり、役者の生理の時間と劇の時間は違っちゃうことがあるわけ。でも役は劇の中にいるわけだから、役者の生理に合わせると劇の空気が潰れてしまうわけ、だから役者って難しいし、忙しいんでしょう、劇の歩行速度を常に感じていないといけない。その中で、いや、待てよ、それを感じてさえいれば、俳優のアクションで劇の歩行速度を一瞬で変えることもできるってことですよね、実際そんな役者っているよね、すごくない?っで、ですよ。歩行速度の問題なんですよ、大抵の演劇の問題ってその劇全体の歩行速度や空気感を無視することで起こるんでないかって思ってきたわけですよ。いや、でもちゃんとみんなそんなことは暗黙の了解でうまくやっているのかも知れない。僕が今言ってるのは初歩の初歩の初歩のことなのかも知れない。自信なくなってきた。もう、疲れた。
 
インタビュアー
あ、そうですか、あとちょっと、あとちょっと頑張って締めていただけば。
 
Z氏
うーん、そうねえ、つまり、今、やってるのは、歩行速度を外部から無理やり定めちゃおうと、基本的には戯曲書いてると、その歩行速度が見えてきて、あ、今自転車乗ってるなっとか、今、ゆっくり散歩してるなっとか、今高速乗ってブンブン飛ばしまくってんなって見えてくるんだけど、それって劇作家それぞれのテンポであって、自然とできてくもので、それはそれで良いと思うんだけど、そのテンポの中で登場人物が生きてる、わけでしょ。この空気の中から外れた時の登場人物が生きられるのか、みたいなことで、魚を海水から淡水に移しちゃうみたいなことなんだけど、あ、もう今自分で今何話してるのかわからなくなってきてるが、つまり独自の塩分濃度の海を作っちゃおうと、独自の塩分濃度の海をつくったら、共同劇作も可能性かも知れないって思ったわけなんだけど、ま、そんな上手くいかないかも知れないけど、ま、そんな簡単に上手く行っても面白くないとも思うんだけど、だけどだけどそんなことばっかり言うてはりますが、
 
インタビュアー
終わりますか?
 
Z氏
終わりまーす。なんかぐっちゃぐっちゃになったね。
 
 
キーンコーンカーンコーン。

頭山メモリー

「頭山メモリー
 
●登場人物紹介
・穴岩耳子、舞台俳優、魚座
・早苗、ペヤングにシーザードレッシングをかける人。
 
 
  頭山の頂上に日の出を見に山に来た早苗と耳子、
  目の前に絶景、この世のものとは思えない絶景が広がっているため、二人は感動している。
 
 
早苗・耳子
うわー、
 
耳子
絶景ですね、
 
早苗
絶景、本当絶景、
 
耳子
なんだろう、本当、生きててよかった感ある。
 
早苗
ああーーー、なんだこの場所、すんげーーー、
 
耳子
ねー、
 
  耳子、スマホで写真撮る。
 
早苗
そりゃあ撮るわな、絶景、
 
  耳子、スマホで動画撮る。
 
早苗
そりゃあ動画も撮るわね、絶景だし、
 
耳子
うわー、すんごーい、はーい、早苗ちゃんですー、
 
早苗
どうもー、早苗ですー、なにこれ、
 
耳子
動画ですー、
 
早苗
それはわかるけど。なんで動画?
 
耳子
踊って、
 
早苗
え?
 
耳子
踊って、踊って、
 
早苗
え、踊る?踊るはちょっと違うくない?
 
耳子
絶景の前で踊ってみたらどうかなって、
 
早苗
その絶景の楽しみ方なんか違くない?
 
耳子
ええー、じゃあ私踊る。
 
早苗
あ、踊るんだ、
 
耳子
早苗ちゃん、撮って、
 
早苗
うん。
 
  耳子、ロボットダンスを踊る。
 
早苗
あ、ロボットダンスなんだ。
 
  早苗、スマホで撮る。
 
  耳子、ロボットダンスに合わない曲調の歌を歌い始める。
 
耳子
ゼケイ、ゼッケーイ、ゼケイ、ゼッケーイ、オウ、霧霧霧霧霧にまみれてぽっかり薄いオレンジにもまれて、地中の果ての果ての社会で、溜まったドスドス黒い有耶無耶、ゼケイ絶景にまみれ消えてく、ありとあらゆる刹那の痛みを、ポケモンゴーとかしてた二年前、ポンポンポンポン踊った四年前の、アタシに見せつけるごとくロボットダンス、今年もよろしくガタガタのマイボディ、ゼケイゼッケーイ、ゼケイ、ゼッケーイ、ゼケイゼッケーイ、ゼケイ、ゼッケーイ、ダンス。
 
  耳子、ダンスをキメる。
 
耳子
はーい、ありがとうー、気持ちよかったー、
 
早苗
すごいね、
 
 耳子、スマホで絶景を撮る。
 
早苗
絶景の楽しみ方、独特だね、
 
耳子
え、何?
 
早苗
絶景の楽しみ方、独特だね、え、今の何?、歌?、作ったの?
 
耳子
うん、出てきちゃった、絶景効果で歌出てきちゃった、ダンスと共に、
 
早苗
すごいね、へー、正直驚いてる、絶景ってすごいね、可能性、あるね、
 
耳子
あるよあるよ、絶景には無限の可能性があるから、
 
  耳子、ねるねるねるねを取り出す。
 
早苗
え、何?、怖いんだけど、
 
耳子
 
早苗
え、ねるねるねるね、するの?
 
耳子
絶景の前でねるねるねるねしようと思って持ってきたんだ、
 
早苗
絶景の楽しみ方、独特すぎやしない?
 
耳子
早苗ちゃんの分もあるよ、
 
早苗
あ、ありがとう、
 
  二人、ねるねるねるね、ねるねるする。絶景の前で。
 
耳子
わー、見てー、ねるねるねるねの向こうに絶景があるー、おっかしー、
 
早苗
へー、
 
耳子
キャンディチップがいつもより輝いて見えない?
 
早苗
あ、このツブツブ、キャンディチップって言うんだ?
 
耳子
いやー、違いますね、絶景の味がする。
 
早苗
え、するかね?
 
耳子
山芋とオクラも持ってきたんだけど食べる?
 
早苗
ごめん、絶景ってあんまネバネバしたものと相性良くないよ、
 
耳子
え、嘘、絶景の前でこそネバネバさせたくない?
 
早苗
させたくない、家でひっそりとネバネバさせたい。
 
耳子
えー、そっか、じゃあ、UNOでもしますか。
 
早苗
もっと純粋に絶景楽しもうよー、
 
耳子
え、純粋?
 
早苗
絶景プラスして楽しむみたいな考え方やめない?
 
耳子
絶景プラス?
 
早苗
ねるねるねるねプラス絶景とか、UNOプラス絶景とか、なんだろう、すごい、いや、わかるんだけど、冒涜、絶景に対する冒涜なの、もっとなんだろう、純な絶景感じたいの。
 
耳子
どうすればいいの?
 
早苗
どうもしなくていいの、絶景全身で感じながら深呼吸するだけ、それだけでいいの。
 
耳子
へー、
 
  耳子、スマホで写真を撮る。
 
早苗
スマホで写真撮るのやめない?
 
耳子
スマホで写真くらいはいいじゃん。
 
早苗
心のメモリーにおさめれば良くない?
 
耳子
心にメモリーなんてあるの松崎しげるくらいだよ、
 
早苗
そんなことはなくない?
 
耳子
そんなことはなかったか。
 
  耳子、スマホをいじる。
 
早苗
スマホ見るのやめない?
 
耳子
見るのもダメなの?
 
早苗
え、だって目の前のこんな見ても見ても見尽くせないものあるのに、何をスマホで見るの?
 
耳子
小室圭さんが合格したらしいよ、
 
早苗
え、弁護士試験?ずっと受けてたやつ?
 
耳子
うん、
 
早苗
へー、おめでとうー、
 
耳子
ねー、めでたいねー、
 
 
  間。
 
 
早苗
って、なっちゃうじゃん。
 
耳子
何?
 
早苗
って、今、この、今この時みたいになっちゃうじゃん、
 
耳子
ん?どうゆうこと?
 
早苗
だから、スマホ見て、小室圭さんの話したら、もう、違うじゃん、もう、絶景感じる身体から遠のいちゃうのよ、小室圭さん寄りの身体になっちゃってるのよ。
 
耳子
小室圭さん寄りの身体って何?
 
早苗
わっかんないかなー、今、今ね、今絶景見ても、一瞬小室圭さんのなんか早足で歩いてそうな画像が頭に浮かぶのよ、浮かんじゃうのよ、それって小室圭さん寄りの身体じゃん。いや、いいのよ、時には小室圭さん寄りの身体になることもあっていいのよ、っていうか、恋ってそういうことだと思うんだけど、
 
耳子
え、小室圭さんのこと、好きなの?
 
早苗
ちっがうのよ、そういうことじゃなくてね、わっかんないかなー、わかった、とりあえず、黙って、なんもしないでおこう、なんもせず、じっと、絶景眺めよう、本当、なんもしない。
 
耳子
息は?
 
早苗
息はしよう、息しないと死んじゃうから、心中しにきたわけじゃないんだから。むしろ吸ってこう、深呼吸どんどんしてこう。
 
 
  二人、深呼吸。
  何度か繰り返すが、すぐにやめて、長めの間。
 
 
耳子
美しい人生よ、
 
  間。
 
耳子
限りない喜びよ。
 
  間。
 
耳子
この胸のときめきを、あなたに。
 
 
早苗
いいね。
 
耳子
びっくりした。
 
早苗
びっくりすぎるくらい、いいね、合うね、絶景と松崎しげる、相性良いね。
 
耳子
うーつー
 
二人
くしい人生ようおうー、かぎりない喜びをー、この胸のときめきを、あーなたにぃいーー、
この世に大切なのは、愛し合うことだけと、
あーなたあーは、おしえてくうーれえーるー。
 
  二人、絶景になる。
 
早苗
すごい、なんだろう、全身絶景になってる。
 
耳子
わかる、もう全身が絶景に溶け込んでるよね、しげる効果で、
 
早苗
最上級、最上級の絶景体験かもしれない、まさかの、
 
  間。
 
耳子
お願い、お願い、この今この状況で、ねるねるねるね挟ませてもらっていい?
 
早苗
、、、いいよ。
 
 
  二人、ねるねるする。
 
 
終わり。

向こう岸のラストスマイル

★登場人物紹介
頭万智、学生、御百度参りしている。
友美、学生、三度の飯よりパフェが好き。
 
 
  頭万智、友美、パフェ食べてる。
 
 
友美
わー、パフェなんて久しぶり、
 
万智
先週食べてたよ。
 
友美
先週から今までめちゃ長かったから、お久しぶりのパフェさんなのよ、お久しぶりですー、パフェさん、どうもご無沙汰してますー、いえいえ、先日はどうもお世話になりました、いただきますー、うま、
 
万智
挨拶した後に食べるって残酷じゃない?
 
友美
万智ちゃん、
 
万智
なに?
 
友美
万智ちゃんってさあ、下のコーンフレークゴリゴリ混ぜる派じゃなかったっけ?
 
万智
ああー、そうなんだけどね、最近このゴリゴリって音がなんだか嫌になってきていてね、
 
友美
え、前はこのゴリゴリて音が良いんだって言ってたのに、このゴリゴリがネトっとしたチョコとバニラと絡まり合って、低くゴリゴリ唸る様が堪らないって言ってたのに、
 
万智
そうね、そうなんだけど、そうね、元彼がね、元彼がね、好きだったの、この音、だからこの音聞くと思い出しちゃって、元彼、
 
友美
元彼って誰?
 
万智
元彼は元彼よ、君の知らない元彼よ、
 
友美
私の知らない元彼がいるの?
 
万智
友美さん、ね、人間って、ね、全部を全部知ることは不可能なんだよ、自分のことですら知らないことたくさんあるのに、別個体である私のことの全部知ってるわけないじゃないか。わかるでしょ、私には、あなたが知らない元彼がいたの。
 
友美
パフェをゴリゴリ食べる元彼?
 
万智
パフェをゴリゴリ食べる元彼よ、愛してた。
 
友美
どんな人?
 
万智
そうね、スマートな元彼だったわ、スマートで、スマートホンがよく似合う元彼だった、そのくせパフェをゴリゴリ食べるから、ギャップに惹かれたのね、
 
  間。
 
友美
万智ちゃん、
 
万智
なに?
 
友美
先月貸した、矢沢永吉のライブDVD、見た?
 
万智
うー、ん、そうね、見たよ、マジでハーハーしてたよ、
 
友美
、、、どこが良かった?
 
万智
どこがって、全体的に、熱かった、熱さよね、矢沢って、熱さじゃない、究極言うと。
 
友美
私は永ちゃんの熱さっての表面的なところじゃないかと思うの、その奥の奥にある震えこそが永ちゃんの熱さの根底にあるんじゃないかと思うの、声の震えが半端ないし、それが身体中を震わしているのがわかるもの、セクシーよ、私、もはや歌ってる時よりも歌ってない時の方が好きだもの、歌ってる時と歌ってる時の間の、歌ってた時の震えが身体に余韻として震えて、くねくねしてる時の方が好きだもの、
 
万智
すごいね、すごい好きだね、
 
友美
って言うかそう言ってたのは万智ちゃんよ。
 
万智
あらま、そうだったかしら、
 
友美
私に永ちゃんを教えてくれたのは万智ちゃんよ、
 
万智
え、私永ちゃん好きなんだ、すごいね、私、へー、
 
友美
万智ちゃん、最近おかしいよ、
 
万智
え、おかしいかしら。私。
 
友美
おかしいよ、永ちゃんのこと忘れてるし、パフェゴリゴリ食べないし、かしらかしら言ってるし、
 
万智
うーん、まあね、思春期だからね、おかしいことの一つや二つあるよね、
 
友美
万智ちゃん、私に隠し事してるよね?
 
万智
してない、
 
友美
話して、隠し事、しないって約束したじゃない、隠し事、
 
万智
え、してないよ、隠し事?
 
友美
あー、そうなんだ、どうしても話してくれないんだ。
 
万智
ないんだもん、隠し事、
 
友美
このパフェ、被っていい?
 
万智
え?
 
友美
このパフェ、私、被っていい?
 
万智
え、そんなことしたら、そんなことしたら、頭ドロドロになるよ。
 
友美
いいの、私、惨めな気持ちを視覚的にも聴覚的にも嗅覚的にも触覚的にも味わいたいの、味覚以外の惨めさを全て味わいたいの、約束したのに、彼氏ができたら報告するって、秘密はなしって、究極のズッ友って約束したのに、万智ちゃん、私に隠し事してる、してるよね?被っていい?被るよ?パフェ?パフェ被ったまま地下鉄乗るよ、パフェ被ったまま街中でカバンとかとか買うよ、サマンサタバサとか買うよ、パフェ被ったまま、
 
万智
やめてやめて、パフェ被ったまま良い買い物するのやめて、せめてパフェ被らないで良い買い物しようよ、
 
友美
じゃあ話して、私に隠してること、全部話してよ、
 
万智
いあ、だからそれはね、
 
友美
被るよ、パフェ、パフェ被ったままプリクラ撮るよ、パフェ被ったままプリクラ撮ってインスタあげるよ、頭の上に乗ってるパフェに顔とか書くよ、にっこりさせるよ、
 
万智
楽しんでない?パフェ被って出来ること満喫しはじめてない?
 
友美
パフェ被るよ、パフェ被ったまま、公園で遊ぶよ、砂場とかで遊ぶよ、アリとかすごい寄ってきそうだよ、アリとかすごい体登ってきそうだよ、いいの?パフェ、アリ登ってきても良いの?
 
万智
パフェは被らないで欲しいの。でも隠し事は本当なくて、
 
友美
被るよ、っていうかむしろ、被すよ、パフェ、万智ちゃんにも被すよ、パフェ、
 
万智
あ、私にも被すの?本当にやめて、それはやめて、
 
友美
あ、なんか私、なんかもう被りたくなってきた、むしろ被りたくなってきた、万智ちゃんの秘密とか関係なく被りたくなってきた、
 
万智
それはなんの衝動なの?あなた、変態よ、その衝動はただの変態よ、
 
友美
あ、だめ、右手動いてる、わかるでしょ、右手がパフェに向かってる、近づいてる、わかるでしょ、被りたいの、被らせて、被ったら私、なんか変われる気がする、新しい、新しい友美になれる気がするの。
 
万智
わかった、わかったから、やめよう、被るのだけはやめよう、話すから、全部話すから、
 
友美
本当に?
 
万智
しょうがないわ。これは誰にも言っちゃいけないことよ、絶対秘密ね、
 
友美
わかった、ズッ友だし絶対喋らない、
 
万智
うん、一から説明するね、二週間前にある事件が起こったのね、あの日、少し霧がかかってた早朝だったんだけど、頭万智って女の子、ね、今の私なんだけど、万智ちゃんは、大学祈願合格のために御百度参りをしていたらしいのね、その日も、阿多田舞神社のなっがーい石段を登っていったの、そしたら、酔っ払った、男が、境内のベンチで寝っ転がっていたの、それが、俺、なんだけど、早朝、そんな時間に人がいるなんて珍しいなーと思いながら、万智ちゃんはいつも通り手を清めて、いつも通り、大学合格を祈願して、いつも通り、帰ろうとしたのね。
 
何願ったの?
 
万智
そしたら急に話しかけてきて、その、俺が、酔っ払いが、
 
何、そんな一生懸命祈ることってある?
 
万智
怖いよね、見ず知らずの人がモヤモヤ霧がかったとこで不意に話しかけてきたらそりゃ怖いよね、普通、いや、俺からしたら、あれなんだけど、変なこと考えてた訳では決してなくて、普通に、やりとりを、こんな早朝に祈願にくる女の子て何を祈願に来るんだろうって、シンプルにやりとりを、朝の空気と二日酔いの気持ち悪さと混ぜ合わせた上で、なんか言っちゃった、というか、話しかけてみたくなってしまって、
 
何を願ったの?
 
万智
そしたら万智ちゃんは、ってのは今の私なんだけど、急に走り出したのね、人間、急に走り出されるとかなりショックよ、別にあれよ、別に良いんだけどさ、全然知らない女の子に変なやつ扱いされるのなんて全然気にしないんだけど、その時咄嗟に追いかけてしまっていて、ちょっと待って、
 
ちょっと待って、
 
万智
追いかけてしまっていて、気づいたら腕掴んでいて、今の私からしたら掴まれていて、離して、離して、って万智ちゃん、今の私が言ってて、
 
なんで逃げるの?
 
万智
って俺すごい腹立ってて、揉みあってるうちに、あ、あーっ、
 
え、あー、
 
二人
ああーー、
 
万智
てな具合で、なっがーい階段を転げ落ちていってしまったの、あ、死んだ、って、これはマジで死んだって思ったね、死んではなかったんだけど、入れ替わってしまって、俺と頭万智の身体がね、入れ替わってしまって、大変だこりゃ、困った困った、て、状況なわけよ、
 
友美
あー、
 
万智
だから、パフェもガリガリ食わないし、矢沢の良さもわかんないのよ、ごめんね、ただのおっさんと話してるだけなのよ、実は今。
 
友美
これは、すごい、あれですね、テレビでよく見るやつですね。
 
万智
そうだね、テレビでよく見るやつだね。
 
友美
ここから、あれですよね、お互いの学校やら会社やらを見ず知らずの関係性の中それまでの関係が壊れるのではないかとヒヤヒヤしながらなんとかやっていきながら、お互いの身体に戻れるように奔走するってやつですよね、
 
万智
そうだね、え、君すごいね、そんなすぐこの状況受け入れてくれてるんだ、すごいね、
 
友美
一人か二人くらいにはこの秘密を打ち明けたりするんですよね、絶対信用できる友達に、それが今の私、郁沢友美ってことになるんでしょうか。
 
万智
そうだね、そういうことになるね、
 
友美
え、っていうことはあれですか、もう、あれやりました、お風呂入る時に目隠しされて身体洗われるってドキドキシーンやりました。
 
万智
あ、うん、毎日やってるよ、一応、
 
友美
えー、良いなあ、そういうの一度経験してみたかったんですよね。
 
万智
良くは、ないよ、大変だよ、実際、でも、意外となんとかなるもんだなって思ってはいるよ。
 
友美
えー、良いなあ。
 
万智
良くはないよ、こっちからしたら本当、大変なんだから、
 
友美
え、今万智ちゃん何してるの?
 
万智
あ、俺劇団みたいなの所属してるんだけど、仲間内でなんか変な戯曲を読む会していて、それに今、参加してる、大丈夫かな、変なことしなきゃ良いんだけど。
 
友美
え、見にいきましょうよ、
 
万智
だめだよだめだよ、見にいくって俺と万智ちゃん元々なんの関係もないんだから、みんな、え、誰?ってなるでしょう。
 
友美
妹とかなんとか言えば良いじゃないですか。
 
万智
妹なんて俺いないんだから、そんなテレビみたいに簡単に誤魔化せるやつじゃないんだから。
 
友美
へー、あ、じゃあ、どうします?この後、カラオケ行きます?
 
万智
カラオケ?俺万智ちゃんじゃないのよ?っていうか、本当信じてる?
 
友美
信じてる信じてる、信じてる上で、カラオケ行きましょうよ、
 
万智
え、いいの?俺万智ちゃんじゃないのよ、全然知らない男よ、中身、大丈夫?楽しめる?そんなカラオケ空間、
 
友美
あー、私結構あれですあれですよ、幅広い年代の歌、歌えるので、合わせられます合わせられます。
 
万智
いやそういうことじゃなくて、
 
友美
世代的には何世代ですか?
 
万智
え、何世代とは?
 
友美
中学高校で良く聴いてた曲とか?
 
万智
えー、そうね、オレンジレンジとか、
 
友美
あー、大丈夫大丈夫合わせられます合わせられます、私HY行きますし、なんならラブサイケデリコも歌います。
 
万智
ラブサイケデリコ、ラブサイケデリコ歌えるの、最高じゃん、
 
友美
あ、じゃあ行きますか、カラオケ、
 
万智
おっけい行こう行こう、
 
友美
生命線からあどうぇえそれから、なんたらなんたらなんたらなんたら、
 
万智
歌えていない、全然歌えていない、
 
友美
なんたらなんたら、君は向こう岸でラストスマアイル。
 
 
続く。

 

夜のディーラー

登場人物紹介
峰、カップ麺の容器を集めるのが趣味、劇団員
アンナ、歌いたがり
 
  アンナの部屋。暗い。
 
  峰、炬燵で寝ている。
  峰、目を覚ますが、暗さでここがどこだか判断がつかない。
 
  峰、スマホを取り出し、ライトで辺りを照らす。
 
  峰、見覚えのない部屋をライトで隅々照らしていき、炬燵で寝ているアンナに焦点を当て、止まる。
 
  アンナ、目を覚ます。
 
アンナ
あ、起きた?
 
ここどこ?
 
アンナ
私の部屋。
 
あ、私の部屋、そうか、私の部屋か、私って、あなたは?
 
アンナ
覚えていないの?
 
そう、ね、覚えてないね、
 
アンナ
ふーん、
 
  と、アンナはタバコに火をつける。
  アンナがタバコを吸うたびに、タバコの火がより赤く光る。
  タバコってそういうものなんです。
 
電気、つけていい?
 
アンナ
計画停電なの、
 
 
アンナ
電気、無駄使いしちゃいけないでしょ、このご時世、
 
  と、アンナ、台所に向かい、窓を開ける。
 
  外から風が入ってくる。
 
  峰、アンナを照らしている。
 
アンナ
眩しい。
 
あ、ごめん。
 
アンナ
覚えていないんだ。
 
そうね、タバコ、もらっていい?
 
アンナ
窓の前で吸ってね。
 
  峰、スマホをテーブルに置き、アンナの隣でタバコに火をつける。
 
  赤い火が二つになる。
 
なるほど、ね。
 
アンナ
なるほど?
 
うん、なるほど、こりゃあ、良いよ、良い、夜だ、
 
知らない女性の部屋で、二人でマルボロ吸ってる、良いよ、良い夜だよ、こりゃあ。
 
本当言うとスマホがなかったらもっと最高だったな。
 
スマホ見ちゃったから今何時かわかっちゃってるじゃん。正直、今が何時か知りたくなかったね、本当言うと。
 
本当言うと君が誰か、名前とか自己紹介願いたくてたまらないんだけど、絶対聞かない、これは、そういうもんだよね、そういう、なんて言うの、名前とか、時間とか、無視して、タバコ吸ってたい、夜ね、これ、
 
アンナ
そうね、オレンジジュース飲む?
 
オレンジジュース?飲む。
 
  アンナ、冷蔵庫を開ける。部屋に冷たい明かりが広がるかと思いきや広がらない。停電してるから。
 
  コップを二つ取り出して、オレンジジュースの濃い黄色を浸していくがその濃さもあまりわからない。停電してるから。
 
アンナ
はい、
 
ありんす。
 
アンナ
乾杯。
 
乾杯。ああー、うまい。
 
アンナ
早い、
 
何が、
 
アンナ
飲む前からうまいって言う気満々だった。
 
ほーう、なるほど、
 
アンナ
わたし、そういうの、わかるんだ。
 
そういうの、わからない方が良いよ、多分。ぬるいね、
 
アンナ
計画停電だからね。
 
  スマホのライト、消える。
 
あ。
 
充電切れたか。
 
あちゃー、充電切れたマーク出てる、あちゃー。
 
アンナ
どうしてわたしの部屋にいるのか聞かないの?
 
聞かない。なんか電気ない?
 
アンナ
計画停電だから電気ないよ、普通聞きたいんじゃないかと思うけど。
 
そうねえ、なんか、これは聞きたくないやつだ、そうねえ、そういう楽しみ方ってあると思う。
 
アンナ
わたしのスマホ、使う?
 
使う。
 
アンナ
ライト、ライトってどうやってつけるんだっけ、
 
貸して、もらって良い?
 
アンナ
うん、
 
  スマホライト、つく。
 
え、5パーじゃん。
 
アンナ
ね、そんなもたないね。
 
え、計画停電っていつ終わるの。
 
アンナ
さあ、朝じゃない?
 
え、朝、か、電気持つかね、
 
アンナ
持たないんじゃない。
 
落ち着いてるね。
 
アンナ
自分の部屋だからね。
 
俺、落ち着いてない?
 
アンナ
落ち着こうとしてるって感じかな。
 
オレンジジュースもらっていい?
 
アンナ
はい。
 
  濃い黄色が浸されていくが、その濃さはわからない。
 
アンナ
自分の部屋だからね、多少暗くてもなんともないの。あなた、他人の部屋だからね、落ち着かないのも無理ないわ。他人の部屋ってだけでも落ち着かないのに、他人の部屋で、真っ暗ってのは、そりゃね、落ち着かないわ、まだ真っ暗じゃないけど、ちょっと真っ暗、ちょっ暗だけど。
 
うーん、そうね、よく考えたらそうねえ、
 
アンナ
なんでこの部屋にいるかって聞かないの?
 
聞かない。
 
  スマホライト、消える。
 
なんで消すの?
 
アンナ
真っ暗だっていいじゃない、朝まで寝るだけでしょ、真っ暗な方が良くなくないかな、
 
  スマホライト、つく。
 
アンナ
なんでつけるの。
 
タバコもらっていい?
 
アンナ
ダメ。
 
名前、聞いていい?
 
アンナ
あれ、聞きたくなかったんじゃないの?
 
そうね、
 
聞きたくなかったんだけどね。
 
アンナ
わかった、こういうのって、どうかな、自分と全然違う名前答えて、自分と全然違う自己紹介すんの。
 
うわー、
 
アンナ
何、
 
タバコもらって良い?
 
アンナ
良いよ。
 
  タバコの火が灯る。
 
アンナ
あなた、誰?
 
俺、俺俺俺、俺、峰、峰大地、
 
アンナ
仕事、何やってるの?
 
仕事、フリーターかな、適当にアルバイトやってる。
 
アンナ
なんのアルバイトやってるの?
 
 
  スマホライト、消える。
 
なんで消すの?
 
アンナ
真面目にやって、
 
真面目に、ねえ。
 
良い匂いだね、
 
アンナ
真面目にやって、真面目にやってよ、
 
ごめんごめん、そんな怒んないでよ、
 
アンナ
あなたの、あなたの、名前は?
 
うーん、そうねえ、そうねえ、金田一金田一退助、とか、どうかな?
 
アンナ
金田一はちょっと攻めすぎかな。
 
そうか、石動退助とか、どう、いするぎ、イスルギとか、ええやない、
 
アンナ
関西の方?
 
そうそう、関西でんがな、関西に決まっとりまんがな、
 
アンナ
仕事は?
 
仕事は、そうね、パーソナリティ、
 
アンナ
パーソナリティ?なんの、なんのパーソナリティ?
 
パーソナリティはパーソナリティよ、パーソナリティ全般のパーソナリティよ、
 
アンナ
いいな、パーソナリティ、パーソナリティ取られたの痛いなー。
 
名前は?
 
アンナ
リサ、リサスティックマイヤー、
 
リサスティックマイヤーありなの?
 
アンナ
なんでもありでしょ、リサステックマイヤーいいでしょ?
 
いいね、リサステックマイヤー、職業は?
 
アンナ
職業、職業、そうね、大工とか?
 
リサステックマイヤー大工なの?
 
アンナ
んんー、そうね、んんー、調教師とか、
 
なんの、
 
アンナ
犬の、
 
犬かー、
 
アンナ
調律師とか、調律師とか、どう?
 
ピアノの、
 
アンナ
いや、もう、いいや、なんか、なんだろうな、ディーラーとか、ディーラー?って何?ディーラーって何かわからないけど、ディーラーって良くなくない?
 
うん、いいよいいよ、ディーラーいいよ、趣味は、
 
アンナ
趣味は、ね、サバゲーね、サバゲーサバゲーのディーラー、
 
サバゲーのディーラーと関西のパーソナリティの二人でお送りするってわけでんがすね、
 
アンナ
サバゲーのディーラーと関西のパーソナリティて、え、めっちゃ良くなくない、
 
うん、いいね、トイレ、借りていい?
 
アンナ
トイレ、流れるのかな。
 
え、トイレ、流れないの?
 
アンナ
停電ってトイレ流れるんだっけ?
 
え、トイレ流れなかったら困っちゃうな。
 
アンナ
やってみたら、
 
嫌だ嫌だ、俺、して、君ん家の、リサステックマイヤーん家のトイレに便、残してくのやだもん、
 
アンナ
あー、あー、ああー、
 
え、笑い方独特だね、
 
アンナ
リサ、あー、リサステックマイヤーん家のトイレに、あー、便、あー、
 
え、笑い方、独特だね、
 
アンナ
外でしてきたら、
 
野糞しろってこと、
 
アンナ
野糞、したっていいじゃない、真っ暗なんだし、紙はあるんだし、
 
野糞、か、生まれてこの方、野糞ってしたことないな、
 
アンナ
あー、ああー、ああ、
 
何何、何にツボってるの?
 
アンナ
ああー、わたしたち、ああー、おかしいね、ああーああー、
 
電気つけていい?
 
アンナ
電気つけたらダメ。
 
わかったよ、野糞してくるよ。
 
アンナ
いいのよいいのよ、野糞する前に、ああー、野糞する前に、レバー、回せばいいのよ、試してみればいいのよ、流れるか、本番する前に実験しなきゃ、人間って試すってことができるのよ、知ってた?
 
あー、ああそうか、試してみっか、スマホ、貸して、え、あと3パーじゃん。
 
  スマホライト、つき、トイレへ、
 
  水が流れる音がする。
 
いけた。
 
アンナ
ごゆっくり、
 
ありがとう。
 
  アンナ、歌う。
 
アンナ
古いー、アルバムの中ーにー、隠れてー、おもいでーがあーいいっぱあーい、目に見える宇宙ーはー、かぎーりなーくすーんでー、君をー、つーつーんでいたー、大人の階段のおーぼるー、君はまだあシンデレラっさ、幸せは誰かがきいと、運んでくれると信じてるね、
 
  水が流れる音がする。
 
ハモリ部分だけ歌うのやめてくれない。
 
アンナ
石動さん、歌ってよ、わたし、ハモるから、
 
石動さん?ああ、俺か。
 
アンナ
電気、消して、
 
峰、アンナ
大人の階段のーぼるー、君はまだー、シンデレラっさ、
 
アンナ
ちょっとー、
 
俺もハモりたいもん、
 
アンナ
ちゃんとやって、電気消して、
 
電気消さないでおこうよ、電気、ちょっとでもつけておこうよ、
 
アンナ
覚えているんでしょ?
 
覚えている?
 
アンナ
昨日のこと。
 
覚えていないよ、
 
アンナ
大人の階段のーぼるー、
 
君はまだー、シンデレラっさ、
 
  スマホライト、消える。
 
夢見てるみたいだな。
 
アンナ
オレンジジュース飲む?
 
今、何時?
 
アンナ
時間とか無視したいんじゃなかったの。
 
君、誰?
 
アンナ
私のこと、忘れた?
 
電気つけていい?
 
アンナ
ダメ。
 
お願い電気つけて、頼むよ、
 
アンナ
あれ、そんなに必要かしらね、電気ってそんなに必要?
 
俺なんかした?君になんかした?
 
アンナ
例えばね、想像して、明日、多分、いつもと変わらない毎日が待ってるのね、リサステックマイヤーじゃない日が待ってるのね、電気も使えて、サバゲーもせず、ディーラーもしない、いつもの日が待ってるのね。
 
電気、つけるよ、
 
アンナ
充電切れたよ、
 
嘘つかないで、
 
アンナ
例えばね、あなたがわたしにキスをするでしょう、その時、わたしがリサステックマイヤーなのか、わたしがアンナなのか、それって重要?
 
重要だろう、決まってるだろう、
 
アンナ
どっちがいい?
 
何が?
 
アンナ
アンナとリサステックマイヤーどっちがいい?
 
アンナって名前なんだ?
 
アンナ
見たい?
 
半々だなー、って何を?
 
アンナ
見せてあげよっか?
 
充電切れたんでしょ、
 
アンナ
嘘、はい、
 
え、あと1パーじゃん、
 
  スマホライト、つく。
 
  アンナ、天井からぶら下がってる。
 
  アンナ、揺れている。
 
ちょっとやめてくれない、大人の階段、ちゃんと登ってくれない?
 
  アンナ、揺れている。
 
ありゃりゃあ、これなに、ギャグ?
 
  アンナ揺れている。
 
あー、
 
  アンナの揺れを峰はぼんやり見ている。
 
  峰、タバコに火をつける。赤く点が灯る。
 
  煙が部屋に充満していく。
 
  アンナの揺れ、おさまってきたところで、峰は少しアンナを揺らす。
 
  スマホのライト、消える。
 
  赤い点滅だけが、微かに揺れている。
 
終わり。

劇作家Z氏とインタビュアー君による公開談義4〜学生E君の昨日を変換する〜

★登場人物紹介
Z氏、自称天才劇作家
インタビュアー、ジグソーパズルが趣味
 
劇作家Z氏とインタビュアー君による公開談義4〜学生E君の昨日を変換する〜
 
●前回までのあらすじ
いつもと違ってやる気に満ちたZ氏は、藤子・F・不二雄坪内逍遥訳のロミオとジュリエットを見比べて、目の変換作用を楽しんだのであった。
 
 
Z氏
はーいはいはい、休憩終わりです、みんな揃った?講義の続きはじめるよー、
 
インタビュアー
す、すごい、今日のZ氏はやる気に満ち溢れていますね、
 
Z氏
ほらあ、そこ、私語を慎め、もう授業始まってるよ、
 
インタビュアー
き、厳しい、熱血教師じゃないですか、
 
Z氏
時間は巻き戻ってくれないから、チンタラチンタラしているやつはこの先の人生もチンタラチンタラ生きてくことになんだから、お前ら、それでいいのか?周りに取り残されてしまって、周りに取り残されてしまうと、あれだぞ、一気にこの受験戦争から置いてかれてしまうぞ、
 
インタビュアー
Z氏Z氏、ここ頭町大学ですから、この人たち、もう受験戦争終わってますから、
 
Z氏
わかってるよ、そういうノリかなーと思って、
 
インタビュアー
そういうことばっかやってるからいつもちゃらんぽらんな話ししてちゃらんぽらんなとこで終わっちゃうんじゃないですか、
 
Z氏
いいじゃんいいじゃん、ちゃらんぽらん大歓迎よ、ちゃらんぽらんにチンタラ生きて、チンタラチンタラ人生全うできたら万々歳よ、誰だよチンタラチンタラ生きてくのが悪いって決めたやつ、ふざけんなよ、俺はチンタラちゃらんぽらんに生きていきまっせ、ここで、宣言したいと思います。せんせーい!ワタクシ、劇作家Z氏は、人生という長い長い旅路をチンタラチンタラちゃらんぽらんに生きていくことを誓いまーす!誓いまーす!シカゴヤングプラザ、って、こんなちゃらんぽらんなことをチンタラチンタラやってたらただただ長いものにしかならないのでここでやめまーす、講義にはいりたいと思いまーす。
 
インタビュアー
きょ、今日のZ氏はやっぱり一味違いますね、
 
Z氏
でしょう、そうでしょう、ちょっとアレが出てきた、責任感ってやつ、芽生えてきた、
 
インタビュアー
お、大人だ、責任感芽生えてきたらあれですよ、すごい、大人って感じしますよ、
 
Z氏
大人の階段のーぼるー、
 
二人
君はまだー、シンデレラっさ、
 
Z氏
と、言うことで、ええーと、さっきまで、ですね、さっきまで藤子・F・不二雄の宇宙人レポートABと坪内逍遥訳のロミオとヂュリエットを比べたわけだけど、みんなどうかな?
 
学生A
良いと思います。
 
学生B
良かったです。
 
学生D
良かったわ。
 
学生C(宝田明)
良かったです、ノート取りました。
 
Z氏
流石最優秀生徒宝田明くん、そして君の言った、「僕たちはもうミノタウロスの皿の耳になっているんです。」という言葉につながるわけなんだけど、その前に、ですよ、もう少し目の演技について見ていこうよ。
 
インタビュアー
任せます、全振りで任せます。
 
Z氏
やっぱやめたー、あー、もうダメだー、
 
インタビュアー
え、どうしたんですかZ氏、
 
Z氏
もうダメだ、もう何もかも上手くいかない気がする、
 
インタビュアー
なんで、今いい流れだったじゃないですか、なんでその流れぶった斬ってやる気無くしちゃうんですか、
 
Z氏
君さあ、僕だって人間だよ、気分が乗る時もあれば乗らない時もあるでしょうに、
 
インタビュアー
わかりますけど、わかりますけど今じゃないでしょ、今の今までやる気MAXだったのに何故にそんな急にやる気無くなっちゃうんですか、
 
Z氏
それね、つまり、つまりこういうことなのですよ、インタビュアー君、つまりね、今はこの、頭町大学の授業中ということになっているよね、
 
インタビュアー
ええ、そうですよ、
 
Z氏
さっきまで僕は藤子・F・不二雄坪内逍遥訳のロミオとジュリエット比べてたことになってるよね、
 
インタビュアー
ええ、つい十分二十分前ですね、
 
Z氏
それがそうじゃないんだよ、
 
インタビュアー
は?そうじゃないとは?
 
Z氏
君ら頭町の皆さんはそういうことになってるけど、僕からしたらあれから何週間も経っちゃってるんですよ、
 
インタビュアー
ちょっと何言ってるかわからないです、
 
Z氏
つまり僕は普段仕事して生活費稼いで、ってしてると、これ書こうと思っても書けてなくて、何週間も前にたぎってた情熱が萎んでしまったわけだよ、
 
インタビュアー
え、ちょっと本当に何言ってるんですか、
 
Z氏
わかりやすく言ってやろう、俺とお前らとは時間の感じ方が違う。
 
インタビュアー
え?
 
Z氏
俺とお前らとは時間の感覚が違うのよ、だからやる気無くしたってしょうがないのよ、
 
インタビュアー
えええ、と、つまり、どういうことでしょう?
 
Z氏
つまり、もう今日の講義やめます。
 
インタビュアー
ワークショップどうなるんですか?
 
Z氏
ワークショップはしたい、確かにワークショップはしたい。
 
インタビュアー
じゃあワークショップだけしましょうよ、
 
Z氏
おっけいそうする。あ、そういうことか、ワークショップしたいのにワークショップできてなかったからムカついてきたんだわ、
 
インタビュアー
あ、そういうことですか、
 
Z氏
え、そういうことなのかな、よくわからんけど、いや、でもワークショップやるためにちゃんと講義してたんだから、やっぱ講義はした方がいいよね、
 
インタビュアー
もうどっちでもいいです、どっちでもいいからなんかしましょうよ、学生たちの目線が冷たいですよ、
 
Z氏
じゃ、簡潔に、簡潔に講義しまーす、他の例、他の例を言うね、他の例、他の例を言う、ってあれだな、すごいベケットみたいだな、すごいベケットみたいな言葉使っちゃったな、今、
 
インタビュアー
早く他の例言ってくださいよ、
 
Z氏
オーケイ任せて、つまり、つまりね、目ね、目を変えることによって、見える光景、描写方法が変わるんじゃないかってわけだ、夏目漱石吾輩は猫であるにおいて二十世紀の猫の目を使ってしがない学校教師の日常を観察したわけだ、ポイズンガールバンドポイズンガールバンドの説明してなかったね、そうだな、これ見て、https://m.youtube.com/watch?v=XqYIxvieXBA
これ見てくれたらわかるんだけど、ポイズンガールバンドはお笑い芸人の目を通して、野球のグローブという名付けられたものを全然違うものに変えていくわけです。デカ手袋だったり、親父との絆だったり、最初硬いけど使っているうちに柔らかくなっていくものという名前に変換していくわけですよ、あと、太田さんとか、絶対もっといっぱいあると思うんだけど、目の演技、どういう目で見るか、宇宙人の目、お笑い芸人の目、猫の目、何もかもなくしてみた目、そういうのをね、試すワークショップをしようと思ったんだよね、おっけい?
 
インタビュアー
おっけい、おっけいです。
 
Z氏
ええと、じゃあみなさん、みなさん、そうね、どうしようかな、じゃあ、そうですね、じゃあ、学生E君、ちょっと前に出てきてください。
 
学生E
え、なんですか。
 
Z氏
いいからいいから、怯えなくていいからいいから。
 
学生E
別に怯えてはいませんけれども。
 
Z氏
はい、どうもありがとう。じゃあ、ね、今から、そうだなあ、君の、昨日の一日、話したくないことは話さなくていいので、昨日の一日、ざっくりでいいので、話してもらっていいかな、どういうことしたとか、その感想とか、
 
学生E
えー、昨日ですか、なんもしてないなあ、
 
Z氏
なんもしてない、わかる、なんもしてない日ってあるよね、そのなんもしてないの中でも、ご飯食べたり、トイレ行ったり、スマホ見たり、具体的にしたことって考えるとなんかはしてるよね、面白いとか面白くないとか関係ないので、思い出しながら、喋ってみてください。
 
学生E
はあ、ええー、昨日は、ですね、いや、本当何にもしていない一日だったんですが、強いて言うなら、なんだろ、
 
Z氏
朝起きて、あ、朝何時に起きた?
 
学生E
朝、っていうか昼、何時くらいかもわかんないけど、昼、
 
Z氏
起きて何した?あ、起きてどんな気分だった?
 
学生E
起きて、起きて、口の中気持ち悪くて、うがいして、トイレ行って、お腹すいたなあって思って冷蔵庫何にもないなあって近所のコンビニでご飯買って、テレビ見ながら食べて、
 
Z氏
ご飯は何食べたの?
 
学生E
ご飯は、100円セールで売ってた、おにぎり、めっちゃタレついたソーセージの丸いやつと、鮭の三角のおにぎりと、スーパーカップカップラーメン、食べながら、テレビ、なんだろ、なんか昼っぽいテレビ、情報バラエティみたいなの、見ながら食べて、うち、テレビないんだけど、パソコンで見れるやつでいつも見てるんだけれど、見てたら電波悪くなってしまって、いっじったりしたけど、白いアンテナ、直ったと思ったらまたダメになっちゃうので、そうだなあ、YouTubeに切り替えて、全然やったことないんだけどポケモンの実況動画見ながら、寝転んで見てたら、眠くなってきて、眠いけど洗濯しなきゃなーってなりながらスマホいじってて、ツイッター見てて、風船上がったって友達が言ってて、風船てなんなんだろうとか思いながら眠くなってきて寝ちゃって、気づいたら夕方過ぎてて、なんとなく筋トレ、あの、なんていうのかな、すごい腹とか背筋に効く筋トレして、外に食べに行って、はなまるうどんはなまるうどんのうどん天かすいっぱいかけて食べて、風呂入って、YouTube見て、って、そんな感じでしょうか。
 
Z氏
はーい、どうも、ありがとう、いやー、想像以上に何もしていない一日でしたね。
 
学生E
だから言っとるでしょうに。
 
Z氏
はーい、じゃあ、今言った学生E君の一日をですね、みなさん、お察しかもしれませんが、宇宙人の目で変換してみてください、宇宙人の目でなくても、二十世紀の猫の目、お笑い芸人の目、タコの目、犬の目、ギャルの目、田舎のオカンの目、なんでもいいです、ただ、犬の目だからワンワンていうのはなしね、日本語喋る犬として書いてください、あと、考えすぎないで、些細なことは違っていいので、頭できっちりここはこう、ここはこう、てしてくんじゃなくて、私は犬だって状態になってドバーって書くのをおすすめします。じゃあ、二十分後に発表しましょう。
 
インタビュアー
わ、ワークショップっぽい。
 
二十分後
 
Z氏
はーい終わりですー、みなさんできましたでしょうか、できた人こっち持ってきてねー、
 
インタビュアー
これは、なかなか楽しみですね、
 
Z氏
はーいじゃあ、これ、学生F君、
 
学生F
なんでございましょう、
 
Z氏
これ、ランダムで選んで、読んで見てください。
 
学生F
わかりましてでござんす。はい、これです、
 
Z氏
じゃあ、どうぞ、
 
学生F
現在から一過去の対象を自己に定める。覚醒した自己に生じた口中の細菌類による不快成分を洗浄する。排泄をする。エネルギー調達を試みる。情報ボックスもどきによる情報源の供給とエネルギー源の供給に勤しむ。情報ミニ板型電子版による情報供給にも勤しむ。エネルギーの消費激しく、活動一時休止する。ええと、以上です。ここで終わってます。
 
Z氏
はーい、いいですね、なんだかんだでエネルギーって言っとけば、なんか宇宙人ぽくなりますよね、情報ボックスもどきって多分パソコンで見てるテレビのことだろうけど、情報ボックスがそもそも意味わからん言葉なのに、さらにその「もどき」ってなってるのが意味わからん言葉すぎて良かったです。これは誰の書いたものでしょうか?
 
学生C(宝田明)
私です。
 
Z氏
おおーさすが最優秀生徒宝田明くん、ノート取ってるだけあるよ、これ宇宙人でいいんですよね?
 
学生C
はい、宇宙人です、
 
Z氏
どうでした?やってみて、
 
学生C
そうですね、スマホとかツイッターとかそういうのが難しかったです。
 
Z氏
ああ、そうだよね、宇宙人がツイッターって言ったら興醒めだけど、SNSを他の言葉でどう表現するかって難しいよね。読んでみたF君、どうでした?
 
F君
そうでございますねえ、全部定める、とか試みる、とか、「う」の音で終わっているのが、宇宙人の潔さを感じました。
 
Z氏
宇宙人の潔さ、意味わからんけど、なんかいいね、宇宙人の潔さ、他誰か感想あります?
 
学生D
最初の一文がよかったなあ。現在から一過去の対象を自己に定める。って文章、私の昨日のこと話しますよって言ってるだけなのに、めっちゃかっこよい。
 
Z氏
そうですね、一過去ってなんだよって感じなんだけど、宇宙人は過去のことを一過去二過去ってカウントするの?
 
学生C
そう、なりますね、昨日は一過去で一昨日は二過去、一年前は三百六十五過去になります。
 
Z氏
面倒くさい、面倒くさいよ、宇宙人、
 
インタビュアー
先週とか去年とかアバウトな括りはどうなるんですかね?
 
学生C
そうですね、それは、アバウト七過去アバウト三百六十五過去になります。かね。
 
Z氏
ほえー、ま、宇宙人てなんか神経質そうだから覚えてそうだしね、色々、じゃあ、サンクス、え、と、ごめん、宝田明くん、今度は君が、誰かのをランダムに引いて読んでください。
 
学生C
はい、じゃあ読みます。
 
Z氏
どうぞ、
 
学生C
ああー、ん、もーう、昨日はなんにもしなかったよーう、起きたら口ん中気持ち悪くってうがいしたんだよ、トイレ行ってお腹空いたなあって思ってコンビニ行ってカップラーメン食べたんだよ。もーう。カップラーメンあちちだった。あちちちちて思いながら、テレビ見たんだよう、つまんないからどんな内容だったか覚えてないよう。もう、なんなんだよう。スマホ見てツイッター見て風船見たよう。だからなんなんだよう、眠いから寝ちゃおうって寝ちゃって、ゆーちゅーぶ見て寝たよ、ふざけんなよ、もーう、はなまるうどん天かすかけたよー。あちちち。終わり。
 
Z氏
えーっ、
 
インタビュアー
なんですか、これは、
 
Z氏
すごい、あれだな、さっきみたいな言葉の変換みたいなのは全くなされていないけど、面白いね、変な伸びが、これ、なんの目なのよ?
 
インタビュアー
宇宙人でないことは確かだと思いますけど、ギャルとか?
 
Z氏
いやーギャルだったらもっとあれでしょう、語尾もったりしてないでしょう、語尾もったりしてるんだよね、これ、ええーと、これは誰が書いたのでしょうか?
 
学生B
はい。
 
Z氏
おおー、バンホーテンのアイスココア嫌いな学生B君、
 
学生B
嫌いというよりかは、、苦手ですね。
 
Z氏
これなんなの?ギャルじゃないよね、
 
学生B
タコです。
 
Z氏とインタビュアー
タコ?
 
学生B
タコです。
 
Z氏
タコ?ああ、タコね、なるほど、だから猫舌なんだ、
 
学生B
そうです。
 
インタビュアー
タコって猫舌なんですね、っていうか、タコはそもそも熱いの食べないんじゃ、
 
Z氏
いやだからそういうこと言い出したらあれじゃん、なんもできなくなるから、いいのよ、その辺は、どう、やってみて、
 
学生B
そうですね、タコってことだけ決めて何も考えず書いたらこうなりました。
 
Z氏
素晴らしい、いやー、本当素晴らしいよ、
 
インタビュアー
なんかあれでしたね、宝田明君の発話ともマッチしていて良かったですね。
 
Z氏
本当そうだね、宝田明君、君はプレイヤーとしても素晴らしいよ、どうだった、
 
学生C
そうですね、読んでて、なんかこの人、怒ってるなって思って、でもなんで怒ってるのかわかんないんですが、ふざけんなよ、とかなんか怒ってて、これ、なんで怒ってるんですかね、
 
学生B
わかりませんが、なんか書いてると腹たってきたんで、なんか書いてました、ふざけんなよって、
 
Z氏
怖いよ、怖いけどいいよ、B君、
 
学生A
なんかその、これなんなんだよって感じが、タコっていうよりB君の感じてることが出てる気がするんだけど、それと、なになになんだよー、っていう、Z氏が言ってたもったりとした語尾がいい反応してるっていうか、変なテンポ感が生まれてて面白かったです。
 
Z氏
あー、なるほど、たしかにたしかに。
 
インタビュアー
すごい、Z氏より良いこと言ってる気がしますね、
 
Z氏
君、そういうこと言うのやめてもらって良い?凹むから、そうだね、みんな、大事よ、グルーヴ感、とかあるといいよ、頼りすぎるとダメだけど、今、A君が言ってくれたみたいな、そのテンポが生まれる必然性があった方がいいんだけど、そんな必然性がこうだからこういうテンポにしようとか考えてもどうしようもないものではないかとも思うのよ、その辺僕の個人的に思ってることだからあれだけど、今のB君の自然とそのテンポ出てるのすごいよかったと思う。じゃあ、次、B君選んで読んでくださいー、
 
学生B
読みます。
四肢生物、密室空間にて覚醒。一肢により回転鉄物質を回転し、曲線的鉄物質から透明液状物質を二肢で受ける。顔面下半身の窪みの一つに透明液状物質を流入し、顔面を我らの方角へ。密室空間全体を震わす振動と地低音。顔面下半身の窪みから液状物質を吐瀉。再度の。
ここで、終わりです。
 
Z氏
おおーすごいすごい、宇宙人宇宙人、
 
インタビュアー
宝田明君の宇宙人と全然違う観点で面白いですね。
 
Z氏
ねー、なんか、ミクロだよね、この宇宙人の視点、主体も完全にE君から離れて、E君を観察してる感じが強かったです。こちら、誰のでしょうか?
 
学生D
私です。
 
Z氏
おおーDさん。君なかなかミクロな視点な持ち主なんですね、どうでした?書いてみて、
 
学生D
本当はもっと先まで書きたかったんだけど、全然時間足りなくて、なんか、うがいってことをするだけでも色々なことしてるよなあって考えてたらうがいの描写で終わっちゃって、
 
学生A
でもそこがなんか良かったな、うがいするってのは宇宙人からしても不思議な行為なんじゃないかって、だから緻密に観察してるって気がしました。
 
Z氏
言葉の変換も独特だよなあ、口を顔面下半身の窪みの一つって言ってるのとか見ると、この観察してる宇宙人は口て概念がないんだろうなあって想像できちゃう。
 
インタビュアー
あと、うがいって空間をそんなに振動させるものなんだって、結構新鮮な驚きでした。確かに響きますよね、うがいの音って。
 
学生D
なんか宇宙人目線になったから気づけたっていうか、普段考えないことできた気がして面白かった。
 
  キーンコーンカーンコーン
 
Z氏
あー、時間でーす。もっと紹介したかったけど、以上ですー。他の人のやつはまた次回やりましょうー。
 
インタビュアー
おつかれ様でしたー
 
Z氏
どうもでーす。
 
終わり。