新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

頭町戯曲集について1 〜劇作家Z氏へのインタビュー〜

登場人物
Z氏・・・自称天才劇作家
インタビューアー・・・囲碁が趣味


頭町戯曲集について1 〜劇作家Z氏へのインタビュー〜


1幕


インタビューアー
今回は、演劇界において、演劇界のみならず、小説界にも芸能界にもアート界にもとどまることを知らずに、はたまた実社会においても何の実績を持たない自称天才劇作家Z氏にインタビューを行っていきたいと思います。
Zさん、よろしくお願いします。


Z氏
よろしく。
愛を持って応えます。


インタビューアー
あ、ありがとうございます。
愛のあるお応え、期待しています。
それでは、まずですね、何だかZさんが新たなプロジェクトを始めると事前アンケートにおいて伺ったのでありますが、こちらの方、どういったプロジェクトになるのか、ご説明の方、お願いできますでしょうか?


Z氏
もちろん、餅の論、略して餅論。
今日はそのために来たと言っても過言ではないからね。
ざっと説明していこうではないか。
新たな戯曲集を作ろうと考えています。
タイトルは「頭町戯曲集」
うーん、どうだろう、ねえ、君どう思います?頭町戯曲集って正直、この名前どう思います?良いと思う?


インタビューアー
え、あ、そーうです、ね、うーん、ま、あのー、ちょっと、ちょっとと言いますか、あのー、


Z氏
あ、ダメ?ダメ系の反応だよね?


インタビューアー
いや、違います違いますます、ダメではないですダメではないです、良いと思います良いと思うんですけど、ちょっと内容の方もまだ伺ってませんし判断できないと言いますか。


Z氏
あー、ま、そうだよね、内容の話聞かないとね、タイトルだけ聞かされても分かんないよね、そりゃそうだな、そりゃあそうだわ。納得。


インタビューアー
それでは、内容の方についてお聞かせくださいますでしょうか。


Z氏
えー、内容としましてはね、ま、内容というか、まずはコンセプトね、コンセプトなんだけれども、コンセプトって言葉の意味よくわからないんだけど、それっぽい意味合いで使ってるけど大丈夫かな?


インタビューアー
大丈夫です。コンセプト、どうぞ。


Z氏
コンセプトとしましてはですね、あれだ、俺思うんすよ。いや、私ね、思うんです。最近。
劇作家って最終形態しか求められてないと言いますか。
つまり戯曲ね。
戯曲って完成形態じゃないと発表できないというか、うーん、なんだろ、アレなんですよね、音楽とかって、この曲ひくぞおーってことをね、なくても適当にギター弾いたり歌ったりして遊べるじゃない?
こういうのが戯曲にもあってもいいよなーって思っているわけだ。
こう、デッサンみたいな、殴り書きみたいな状態の物を書いても良いと言うか、書いた方が良いんじゃないかって思い始めてるわけだ。
別役実さんのコントのレッスンて本に書いてた書き方なんだけれどね、
道具づくしだとか、虫づくしだとか、づくし系のエッセイみたいな本を別役さんは出していて、内容的には世の中に存在してないんだけどありそうな架空の道具だとか虫だとかをさもありそうに説明していて、いかに巧みな嘘をつくか、本当と思える嘘をつくか、そういうエッセイみたいな本を何冊か出しています。
それが何かって言うと、実はそのづくし系の文章は、本編の戯曲を書く前に助走として書いた結果らしいのね。
つまり別役さんは本編書く状態になるまでの助走として、アップとして、嘘を書いているわけです。それから本編の戯曲に取り掛かると全然感覚が違うらしいのです。良いらしいのです。
へー、そうなんだー、ってね、なるでしょう?


インタビューアー
はー、そうなんだー、ってなりますね、あー、なるほど、つまり別役さんはづくし系の文章それ自体を書こうとしていたというより、もちろん内容としてはこういう内容を書こうだとか考えていたかもしれませんが、アップとして、つまりスポーツ選手における軽いランニングやら柔軟運動みたいなものとして書いていた、というわけですか。それから試合に挑んでいる、みたいなイメージでしょうか?


Z氏
そうなんです、その通り、野球選手にとっての素振りだとか、サッカー選手の、なんだっけ、こう、足で、ボール跳ねさせるやつなんだっけ、あ、、、なんだっけ、


インタビューアー
リフティングですか?


Z氏
そーう!リフティング、リフティングリフティング!
そうそう、リフティングみたいな要素もあるんだと思うんですよね。
つまり劇作家もリフティングだとか素振りした方が良いに決まっているでしょう、って思うわけだ。
だけどねえ、だけどさあ、ねえ、困っちゃうよね。


インタビューアー
え、なんですか、何が困っちゃうんですか。


Z氏
僕は小学校時代野球部で、で、なんか努力しなきゃいけないわけじゃない。
同級生がさ、同級生のマッチってのがいたんだけど、マッチ今まで下手だったのに急にボンボン打つようになってさ、どうしたんだどうしたんだ、って、マッチすげーな最近、ってなってね、やっぱり聞くと努力してるって、毎日素振り何十回何百回してるって、言うわけです。
よーし、分かったと、おいらもしてやんぞって、おいらも毎日素振りしてめっちゃ打てるようになってやんぞーってやりはじめるんだけど、本当に僕は続かないの。十回でいいから毎日やろうって思っても続かない、すぐやめちゃう。
いやー本当すごいよね、マッチ、マッチ本当すごかったもんねー、めっちゃ打ってたもんねー、いやー、本当、最近本当にガチで思うけど、スポーツ選手だとか、本当にすごいよね、どんだけ努力してるのーって、スポーツ選手だけじゃないよね、世の中で活躍してはるすごい人たちは本当にすごいと、身に染みて、肌身に染みて感じますわ。


インタビューアー
え、あのう、何の話でしょうか。


Z氏
察してよ、僕の辛い過去を。
察してよ、僕の努力ができない日々を。
察してよ!


インタビューアー
察しました察しました、察しましたよ。
つまりZ氏は努力ができないと。


Z氏
そうなんです。


インタビューアー
努力してみても続かないと。


Z氏
その通り。ちゃらんぽらんなんです。どうすればいいでしょうか?


インタビューアー
ええー、と、何でしょう、私、相談されてます?人生相談みたいになってません、今?


Z氏
だって解決できることなら解決したいじゃない。


インタビューアー
え、あのー、今回の新プロジェクトについて、


Z氏
ああ、


インタビューアー
頭町戯曲集について、


Z氏
ああ、ああ、


インタビューアー
お伺いしたいのですが。


Z氏
ああ、そうだね、本当にそうだね、君の言う通りだ、いやね、全然あのー、あれしてるわけではなくて、ちゃんと繋がってるからね、まったく関係ない話してたわけではなくて、いや、面目なし面目なし、あのー、ね、つまり、こういうことあんまり言いたくないんだけど、僕は努力ができないらしいのです。オウマイゴット!オウマイゴットすぎません、ヤバくないですか、え、本当にヤバくない、この自白。


インタビューアー
え、ちょっと、あのー、涙目になってません?


Z氏
うん、ごめん、ちょっと泣きそう、なんか俺の人生なんだったんだろとか思えてきちゃった。


インタビューアー
あ、いやー、その、辛い部分、はしょって。
新プロジェクトについてざっくりと聞きたいだけですので、そのー、人生における辛い部分については、はしょっていいから、ね。


Z氏
やんなっちゃうよ!
マジで!
人生における辛い部分がこれ?
え、ショぼくない?
いや、あるよあるよ、人生における辛い部分もっとあるよ!
なんか、人間関係に悩んだりしてたよ!
俺だって、人間関係で辛いなーって思ったこととかあったよ!たくさん!
どうよ!
君、どう?君、君のー、人生における辛い部分って何よ?


インタビューアー
いや、私はー、あの、いや、今はね、新プロジェクトについて、頭町戯曲集について、あなたのお話を伺っているわけだから、


Z氏
え、聞かせてよ、君の人生における辛い部分聞かせてよ、ねえ、


インタビューアー
ええと、私の人生における辛い部分は関係ないのでは、、と思いますが、


Z氏
え、あるよ!
あるじゃない!
関係あるよ!
めちゃくちゃ関係あるよ!


インタビューアー
え、関係あるの?


Z氏
あるよ!
あるじゃない!
今まで何聞いてたんだ!


インタビューアー
え、だって、え、関係なくない、私の人生。
え、だってあなたの戯曲集でしょう、私は劇作家でもなければ、あなたと演劇活動をしているわけではありませんよね?


Z氏
はい、


インタビューアー
よね、そうですよね!


Z氏
はい、餅の論です。


インタビューアー
関係、あります?
私の人生における辛い部分。


Z氏
あるよ!
何言ってんだよ!
他人行儀かよ!他人事かよ!


インタビューアー
ええー、だって他人だもん。


Z氏
君、他人って言葉の意味分かってる?


インタビューアー
他人は、他人でしょ、分かりますよ。


Z氏
君本当に分かってるって言える?他人だぜ。


インタビューアー
分かってますよ、他人でしょ、他人は他人でしょう。


Z氏
他人っていうのは他の人って書くんだぜ、分かってる?


インタビューアー
分かってますよ、


Z氏
自分っていうのは自ずと分けるって書くんだぜ、知ってる?


インタビューアー
へえー、そうか、知ってたんだけど知りませんでしたね、はあー、そうか、


Z氏
身内ってのは、身の内側って書くんだぜ、内輪ってのは、内側の輪っかって書くんだぜ、分かってる?私ってのは、渡すんだぜ、己をさ、川を渡すようにさ、物を手渡すようにさ、己を渡すってのが私なんだぜ、相手ありきの言葉なんだぜ、私ってのはね、決して、私は私として存在していないんだぜ、意味分かる?


インタビューアー
はあ、なんとなく。


Z氏
お前は俺の他人か?


インタビューアー
催眠術かなんかかけようとしてます?


Z氏
もういいよ。


Z氏、退室する。


インタビューアー
ああ、ちょっと!Zさん、Zさーん。


インタビューアー、追いかけて出て行く。

頭町戯曲集について2 〜劇作家Z氏へのインタビュー〜

Z氏・・・自称天才劇作家
インタビューアー・・・囲碁が趣味


頭町戯曲集について 〜劇作家Z氏へのインタビュー〜


2幕


インタビューアー
はい、ええと、Z氏はバンホーテンのアイスココアが好きだということで、そちらの方をすすりながら、先ほどの話の続き、ええー、劇作家Z氏新プロジェクト、頭町戯曲集について、伺っていきたいと思います。Zさん、改めてよろしくお願いします。


Z氏
よろピク〜。


インタビューアー
ええー、先程は、大変失礼いたしました、改めてお詫びさせてください、申し訳ございませんでした。なんだか、大人気なかったと言いますか。聞かれたことに素直に答えたらいいのに渋ってしまいまして、本当に、ええー、申し訳ありませんでした。


Z氏
いいよいいよ、ダイジョウビダイジョウビ、過ぎ去ったことは気にしないで。こっちもごめんね。
お互い大人気なかったね、いや、本当そう思うよ。


インタビューアー
それでは、ですね、頭町戯曲集についての説明の続きを、聞かせていただければと思います。


Z氏
頭町戯曲集ねえ、実際どう思う?
なんか僕としてはやっぱ気になっちゃっているのが、どう思うよ、頭町戯曲集てタイトル名、ぶっちゃけ、ぶっちゃけ、どう思う?


インタビューアー
あのー、本当、タイトル名は、あのー、後から、もうさ、幾時間考えてもらっていいので、今は頭町戯曲集の説明をね、お願いします。


Z氏
いや、大事でしょ、タイトル名大事でしょ、キャッチーなの、キャッチーでビビッドにズバーンってくるのが必要でしょ、


インタビューアー
ええ、ええ、必要なんですけれども、Z氏、この時間は企画会議の時間ではないのですから。


Z氏
分かってるよ、俺だって大人さ。
酸いも甘いも経験してきた年頃の大人さ。
だけどさ、気になっちゃってるんだもん、
大丈夫かな大丈夫かなーって、このタイトルで大丈夫かな大丈夫かなー、怖いな怖いなーって、
ね、ちょっと紙とペンある?


インタビューアー
ありません、


Z氏
あるでしょ、紙とペンくらい、その大きなカバンに入ってるでしょ、ねえ、裏紙でもいいからさあ、ねえ。


インタビューアー
はいはい、えー、どうぞどうぞ、


Z氏
はい、どうもありがとう。


Z氏、紙に頭町戯曲集と書く。


Z氏
どうよ?


インタビューアー
はい。


Z氏
率直に、直感的にどう思う?


インタビューアー
そうですね、、漢字が多いですね。


Z氏
そ、れ、は、、、悪い意味?だよね?


インタビューアー
え、と、そうですね、どうでしょうか、率直に感じたことなので、どうでしょうか。


Z氏
でもだって、待って、岸田國士戯曲集も漢字だらけだし、森本薫戯曲集も漢字だらけだし、日本人の戯曲集は漢字だらけなのは当たり前じゃない?


インタビューアー
その当たり前を壊していくのが、現在を生きてる作家の務めなんじゃないですか?


Z氏
え、なに、じゃあ、なに、


Z氏、紙に、あたままち戯曲集、アタママチ戯曲集、と書く。


Z氏
違くない?


インタビューアー
違いますね、


Z氏
ひらがなはいかにもあたま悪そうだよね、


インタビューアー
カタカナは、名前みたいに見えますね。


Z氏
え、どういうこと?


インタビューアー
アタマが苗字でマチが名前で、アタマ、マチ、女性の名前みたいじゃありませんか。


Z氏
アタマって苗字なんかあるの?


インタビューアー
知らないですけど、俵万智みたいじゃないですか、タワラがあるんですからアタマもあってもおかしくないんじゃないですか?


Z氏
あー、なるほどね、
え、俺、アタママチじゃないよ。


インタビューアー
分かってますよ。


Z氏
改名しようかな、アタママチに、


インタビューアー
しなくていいですよ、漢字でいいですよ。
漢字でドバッと頭町戯曲集、いいじゃない、かっこいいじゃない、ふー。


Z氏
ごめん、そういうのやめてくれない?
ふー、とか、そういうの、本当にやめてくれない?


インタビューアー
すみません、調子乗りました。
では、決まりですね、あなたはアタママチではないし、ひらがなにしてあたま悪そうに見えたくもない。消去法として、決定です、こっちで決定、これがこのプロジェクトのタイトル、頭町戯曲集、なんです、それでその説明を、ええー、素振りみたいなことを書きたいってことでしたよね、その説明以外にももっとあるんでしょう?この頭町戯曲集について、説明したいことが。


Z氏
餅の論、


インタビューアー
それでは、よろしくお願いします。はい、どうぞ。


Z氏
ええと、先程の説明の続きを、させていただきたいと思います。
チュー。
えー、さっきですね、ええ、どこまで話したかな、チュー、
そうだね、劇作家にとっての素振りってのがあってもいいんじゃないかって話だすね。チュー。


インタビューアー
バンホーテン置いてもらっていいですか?


Z氏
え、なに?


インタビューアー
バンホーテン、一旦置いてもらっていいですか?


Z氏
なんで、


インタビューアー
チューチュー、ストローの音うるさいので、


Z氏
君ね、君がくれたんだよ、このバンホーテンのアイスココア、俺が持ってきたわけじゃないからね。


インタビューアー
分かってます、分かってますよ、分かってますけど、うるさいんですもの、チューチューチューチュー。


Z氏
え、君ね、君さ、俺あれじゃん、タバコ吸ってるわけではないよ、酒飲んでるわけでもないよ、コーヒー飲んでるのと同じよ、コーヒー飲みながら話したり打ち合わせたりするよね、それと同じだよ。


インタビューアー
あーーーーーーー、すみませんでした。どうぞ、チューチューチューチュー、お好きなだけ、お好きなだけチューチューチューチューしてください、しつくしてください。


Z氏
チュー。チュー。チュー。チューーーーーー。


インタビューアー
では、どうぞ、話の続き、お願いします。


Z氏
やっぱりタイトルの話なんだけれど、


インタビューアー
タイトルの話はもういい!
タイトルの話はもうおしまい!
おしまい!ですから!


Z氏
でも一個だけ、一個だけ言わせて、


インタビューアー
ダメ!ゼッタイダメ!


Z氏
ケチ。


インタビューアー
ケチで結構。


Z氏
こけこっこー。


インタビューアー
こけこっこーじゃねえよ!
はよ説明しろ!


Z氏
なんだその態度、ふざけるなよ。


インタビューアー
ふざけてんのはお前だろが!
手、でるぞ!


Z氏
え、手、出るの?


インタビューアー
手、出ますよ。


Z氏
やめて。


インタビューアー
ちゃんと頭町戯曲集について説明していただければ、出ませんから。


Z氏
悪かった。本当にごめんね。
なんか俺、やっぱり不安なんだよね、タイトルが。
でも違うよね、タイトルは今、考えることじゃないものね。
ごめんよ、ちゃんと説明する。


インタビューアー
分かってくれましたか。


Z氏
やー、そろそろ説明しないと、俺、ケツの時間、きちゃうから。


インタビューアー
あ、ケツの時間、あるんですね。


Z氏
そうそう、ちょっと今日さ、ま、いいや、この話は。
サクサクと説明するね、サクサクと説明すると簡単な話で、
つまり劇作家にとっての素振りとかリフティングが大事だとかは思っているんだけど、
僕はそういう努力を毎日できないわけ、ここまで、さっき話したよね、
そこで、さっき僕は人生の辛い部分に少し感情かき乱されてしまったんだけど、
つまりモチベーションの話じゃない、やっぱり、ある程度見てもらって、あーだこーだ言われたらモチベーションにつながるわけじゃない。続けようって思えるわけよね。
素振りだとか人が見てないところでの影の努力みたいなの、そういうのができるの本当にすごいと思うんだけど、いや、そりゃ頑張ってやろうとは思ってるんだけど、あ、そっかむしろあれかもね、バッティング練習みたいな、なんか球団のキャンプの練習とかをファンが見に来るじゃない、そんなイメージの方が近いかもしれない。
試合じゃないんだけど、見てて楽しいぐらいの練習っていうか。そういうような戯曲を、まー気が向いたら、可能であれば二週間に一度ぐらいのペースで発表していきたいですね。


インタビューアー
なるほど、そのバッティング練習のような、本試合とは別の戯曲集を作るっていうのが今回の目的といったわけでしょうか?


Z氏
目的というのはちょっと違いますね。
どっちかというと結果です。


インタビューアー
ああ、そうでした、別役実さんのづくし系のエッセイが結果的にできたということを参考にしてるって言ってましたね。


Z氏
そうです。
別役さんのづくし系の話はバッティング練習というより、アップというか、試合に挑む状態作り、助走て意味合いが、コント教室読む限りでは強い気がします。実際はバッティング練習みたいな感覚もあったかもしれないし、その本読んだの、大分前なんでもしかしたら全然違うこと書いてるかもだけど。
ま、僕の場合の目的としては、試合状態に挑むって面ももちろんあるんですが、自分の演技の質の範囲の拡張と濃度を濃くするのが目的となりますかね。
その結果が戯曲集となっていくわけです。
そこで具体的に何をするのかって話になっていくのだけれど。
ごめん、ちょっといいかな?


インタビューアー
はい、なんでしょう?


Z氏
野球町戯曲集ってのはどうかな?


インタビューアー
頭町戯曲集の方が良いです。


Z氏
そうか、じゃ、ま続けよう。


インタビューアー
あ、ちょっと待ってください。


Z氏
なんだい。


インタビューアー
すみません、話の腰を折ってしまって申し訳ないのですが、Z氏がどういう劇作家なのか、どういう戯曲を書くのかを知らない人もいると思うのです。
演技の質や幅だとかの言葉が今出ましたが、Z氏のこれまでの戯曲作りにおいてどういったことをしてきたのか、ざっくりでいいのでお聞かせくださいますでしょうか。


Z氏
君ー、


インタビューアー
あ、だめですか?


Z氏
ファインプレーだよ、君、ナイスプレーだよね。
いや、その通りだよね、僕が今までしてきたことを知らないとあれだな、あれだよね。


インタビューアー
そうですね、あれですね。


Z氏
そうだそうだ、本当にそうだ。
まず一番最初に伝えておくべきことはだな、僕は書くことと演技することを同じものだと考えている劇作家だということですね。
劇作家は登場人物が喋る言葉を書くでしょう。
喋らない戯曲てのもあるけど、登場人物の行為を書くでしょう。
劇作家が文字にするまで、頭に浮かぶまで存在しなかった彼ら登場人物は何故喋るか、どうして行動をするかって話なんですけどね。
よく登場人物が勝手に喋り始めるんだ、勝手に動き始めるんだーって類の話を作家がしているのを聞いたことありませんか?
あれは勝手に登場人物が喋っているというより、自然と作家が登場人物を演技しているから勝手に喋り始めるのではないかとある日思ったのね。
そう考えたら世の中全て演技で構成されているようにも思えてきたわけで、小説もさ、鉤括弧でくくられている会話部分だけでなく地の文も作家の演技なんじゃないか、って。
桜の木が並んでいた、て書く人もいれば、桜の木が並んでいる、て書く人もいるし、桜の木は並んでいました、て書くかもしれないし、桜の木が連なっていたって書く人もいるし、演技だよね、こういう風な地の文にしようって演技のもと書かれているよね、って考えることできるよね、で、その演技によって、同じ内容を書いていたとしても書く人によってがっつりであったり些細であったり差異が生まれていて、えーと、なんだ、
ま、小説の話はここら辺でしまっといて、
戯曲の話ね、劇作家の演技によって登場人物が喋り始めるのではないかと考えた時、演技の質を変えれば出てくる言葉も変わるということに気付いたわけです。
演技って言ってもいろんな演技がありますね、四季のミュージカルみたいな演技や、能や歌舞伎なんかも演技だし、テレビドラマで見られるような演技から、バリバリの新劇みたいな演技だとか、ナチュラルに、現実のように自然な演技などなど、これは大雑把な演技の違いですが、演技の質ってのはもっともっと細かく分かれている。もっと言えば人それぞれの演技感でもうそれぞれの持ってる質は違うのだし、さっき話した小説の地の文も演技だし、街にあふれるポスターのキャッチコピーも演技だし、言葉がない身体表現やダンスなんかからも演技の感覚があるし、そういったありとあらゆる演技で挑むことによって、いろんな質の言葉が生まれるわけです。
今や、私は生まれるわけです、なんて言葉を使ってますが、これも演技です。
あ、ちょっとなんかあれかな、なんか、ですます調にしとくか、なんか丁寧に言っとくかて意識が、いや、意識的にというか無意識的に生まれているわけですね。
ここでさっき話した演技の質の範囲の拡張と濃度を濃くするて話につながるわけですけど、自分ができる演技ってのは、限界というか、うーん、こうか、無意識に出てくる演技には限界があると言った方がいいというか、
いや、限界て言葉は違うな、
質て考えるならば限界なんてないんだけど、種類て考えるならば限られてくるというか、
僕は登場人物が喋り続ける事態に気付いた時ですね、無意識に出てくる言葉に身を任せて書いてみたりしたんですが、面白いっちゃ面白いんですが、あれなんですね、結局は自分からの質からはみ出ない感覚があって。それもそれで面白いんですけどね、うん、なんかはみ出ない感じがあって、
演技を変えるって結構意識的に変えなければいけませんよね、そう、ここです、あーなるほど、演技は意識的に変えるんだけど、言葉は無意識的に反応してる、これが、今現段階で考えている理想というか、そう、意識的に変えなきゃいけないんですよね、そうそう、で、意識的に変えるには、演技をインプットというか、自分の身体に落とさないといけないわけよね、
いや、だからさ、書くことと実際に演じることは僕の中で影響を与え合っているわけ、
実際の演技で得た発見やら他の人の演技を見ていて得た感覚やらが、戯曲上での演技に繋がるし、戯曲上での演技が、実際の演技で新たな感覚をもたらすかもしれない。
こう、矢印がさ、互いに向いているんだよね、役者と劇作家は。
ここです、ああ、なんかどんどん話しちゃうけど、物語ってのがあるよね、ストーリー、流れ、これさ、これを重視するかどうかってのが、最近考えていることで、あのう、さ、物語自体の面白さってのはもちろんあって、物語を頑張って考えていたんだけど、いい物語をー、てさ、良い構成をさー、て頑張ってたんだけど、最近は考えないようになりましたのです。
劇作家によって違うんだと思うんだけど、僕は圧倒的に物語を考えるのが苦手な劇作家らしいですね。
あのー、古畑任三郎のさ、松嶋菜々子の回があるんだけど、知ってる?


インタビューアー
知らないです。


Z氏
なんか松嶋菜々子は双子で、二人で一人の脚本家をしている話なんだけど、姉の方は家に引きこもっていてずっと書いてるんだけど、妹の方は社交性があって、マネージメントやらなにやらしているみたいな。で、妹の方が、あれ、妹の方じゃないか、姉の方か、あれ、どっちだろ、どっちでもいいんだけど、部屋でずっと書いてる方が、もう一人の社交性ある方を殺して、社交性ある方を部屋で殺して、あたかも自分が自殺したと見せかけて、社交性のある妹を演じて生きていこうとする話なんだけど、最後の方で古畑任三郎にダンス誘われて、部屋にこもってた方だから踊れなくてばれちゃうみたいな、いや、そんなストーリーはどうでもいいんだけど、ね、
松嶋菜々子が言うには、引きこもって書いてる方は言葉を書くのが得意で、社交性のある方は物語を考えるのが得意で、2人で1人の脚本家として成り立っていると言うわけです。
う、、ごめん、
この話、どうでも良かったかも、ただただ古畑任三郎の話したかっただけなのかもしれない。
物語自体の面白さがあるのは重々承知の助の上で言うのだけど、登場人物が物語を動かす、あるいは作っていくのが今の僕の理想というところですかね。
物語ありき、というか、最初に全部構成された中に登場人物を入れちゃうと、どっかでどっちかが折れなければいけない時が出てくる。
登場人物が勝手に行動すると物語的には困りますし、物語的にそういう流れだってなると登場人物は勝手に行動しなくなるし、もちろん登場人物が勝手に動くのが良いことなのかって見方もありますけど、今の僕としましては、勝手に動けば動くほど面白いですね、予想もしないセリフが出てくるのは大抵そういう時ですから。
うーん、でもそういう書き方もあるんだろうとは思うんですけどね、物語を完全に構成しちゃって、その中で生き生きと登場人物を動かすみたいな、いや、あるいは、あれかな、一応全体の流れは考えつつ、その都度フレキシブルに変えていくみたいな感じなのかな、
ま、とにかく、私としましては、最初に物語を決めきらずに登場人物が物語を動かす、動かすというより、登場人物が動いた形跡が結果的に物語になってるて感覚が一番向いている気がしているわけです。何故ならば物語を作るのが苦手だから。
そもそも物語の流れを抜きにして言葉自体の面白さで見せることも可能ではあると思っていて、ここから夏目漱石の話を実はしていきたいのだけども、
あーーーーー、長くなってきたね、今何時?


インタビューアー
今は7時です。


Z氏
7時!?
ダメだ、ケツカッチンだケツカッチンだ、ここら辺で、


インタビューアー
ええー、今終わりですか、プロジェクト内容話せてませんよ、


Z氏
え、そうか、まあ、じゃあいいや、また今度、また今度電話会談しよう。


インタビューアー
電話会談?


Z氏
いや、だってコロナの影響もあるし、


インタビューアー
ズームとかの方がいいんじゃ。


Z氏
いいよいいよそれで、じゃ、また、


インタビューアー
え、予定ってなんですか?


Z氏
君には関係ないじゃない、プライベートなことなのであるから。


インタビューアー
マジスカ、こんな宙ぶらりんなところでインタビュー終わるんすか、


Z氏
だって時間ないんだもん、早く帰んなきゃー、間に合わないよ。


インタビューアー
だから何に?
それだけ答えてくださいよ、こんな宙ぶらりんなとこで終わらされちゃ納得いきませんから。
しかも時間の大半、あんたが失踪してて追いかけるのに費やしてるんですから、
あとタイトルがあーだこーだとかさあ、ね、予定ってなんですか?


Z氏
・・・金曜ロードショー


インタビューアー
金曜ロードショー


Z氏
千と千尋の、


インタビューアー
続けましょう、


Z氏
なんでだよ、


インタビューアー
DVDで見れます。


Z氏
ちげーんだよ、ふざけんなよ、DVDじゃダメなんだよ、リアルタイムじゃなきゃダメなんだよ!


インタビューアー
また、いつかやるでしょう。


Z氏
いつかっていつだよ!
曖昧なこと言いやがって、
昔からそうだよ、いつかとか言う奴信用なんねえよ!
金曜ロードショー千と千尋見る、これ以上ない幸せがありますかってんだ、
いいかい、金曜ロードショーってのはテレビだぜ、映画館じゃないんだぜ、計画してんの、俺、今日の金夜をいかに楽しく過ごすか、千と千尋見ながらピザ食べたいの、コーラも飲みたいね、それでツイッターチラ見しながら、リアルタイムでみんなで千と千尋見てる感覚に酔いしれたいの、ね、最高でしょ!俺この計画今日の朝に思いついたんだけど、あ、今日そういえばインタビューの日だったーってなったけど、まあ、インタビューなんて何時間もかからんだろって思ってたらこれだよ、ああああ、なんでだよ、俺はただただ単純に千と千尋楽しみたいだけだっつうのに、なんだよ、そんな目で見んなよ!


Z氏、勢い余って机を叩くか、蹴るか、当たっちゃうかする。
すると、机の上に置いてあったバンホーテンの紙パックのアイスココアが地面に落ちる。


Z氏
あっ、


インタビューアー
あっ、


Z氏
あっ、やばい、あっ、


インタビューアー
あ、シミになっちゃう、


Z氏
あ、ちょっと、あ、ごめん、


インタビューアー
ちょっと、あ、拭くもの、拭くものありませんか、シミになっちゃう、


Z氏
あ、えっと、ごめん、ないな、


インタビューアー
ティッシュとかタオルとかありませんか、


Z氏
あ、どっかないかな。


インタビューアー
あ、トイレットペーパー、


Z氏
あっ、トイレットペーパー、とってくる、トイレ、いってくる。


Z氏、トイレに、


インタビュー
あ、


インタビューアー、頭町戯曲集と書かれた紙を床にこぼれたアイスココアの上に浸す。



幕。

おまつりのひ

おまつりのひ

 

ゆうき よその子

さとる 地元の子。四丁目

アキラ さとるの友達。地元の子。二丁目。

リョウ さとるの友達。地元の子。二丁目。

 

******

 

地域のお祭り。テントが出ていて、女性たちが食べ物を準備しているらしい。

ゆうきはそれを少し離れた場所から見ている。

 

ゆうき ……。

 

遠くで子供神輿が終わったところ、子供たちががやがやしている。

法被を着たさとる、アキラ、リョウが通りがかる。

 

ゆうき あっ。

さとる あ?あ、昼間の。

アキラ え。誰?

リョウ 知り合い?

さとる まあ、ちょっと。

ゆうき 自転車の

アキラ 自転車?

リョウ あ、なんかぶつかったって言ってたやつ?

アキラ え、本当だったのあれ

さとる 信じてないのかよ。

リョウ 人とぶつかりそうになって卵割ったってやつ

アキラ おばさんにめちゃ怒られてたやつ

さとる うるさいな

アキラ 一人でこけたんかとおもった。

さとる そんなんしないし。

リョウ 恥ずかしくて人のせいにしたんかとおもった

ゆうき 違うよ、僕がちゃんと見てなくて。

アキラ なんだ

ゆうき ごめん。

さとる いいよべつに。

 

アキラ、リョウ、屋台を見つけて、目配せして走って去る。

 

さとる お前何丁目?

ゆうき えっ?

さとる 近所じゃないの?

ゆうき あっ、僕は。今日初めて来たんだ。

さとる ふーん?一人?

ゆうき ああ、うん。

さとる 駅から歩いたの?

ゆうき ああ、まあ。

さとる えー、遠くない?暑いし。

ゆうき ああ、そうだね。

さとる いや暑いだろ、おっ!

 

アキラ、リョウが両手にかき氷を持って帰ってくる。

 

アキラ 早いもんがちな。

さとる サンキュー!

リョウ おれブルーハワイだから。

さとる 決まってんのかい

アキラ どれにする?

ゆうき えっ。

さとる 俺イチゴがいい。

リョウ はい。

アキラ ああ、じゃあ、メロンか、レモン。

ゆうき ええっと

さとる どうしたの。

ゆうき お金、そんなに持ってないから……

アキラ 子どもはみんなタダだよ。

ゆうき でも、

アキラ かあちゃんが、持ってっていいっていったから平気だよ。

リョウ うん。

ゆうき ……いいの。

さとる 早く食べないと溶けるって。

アキラ どっちにする?

ゆうき ええっとじゃあ……メロン。

アキラ はい。

ゆうき ありがとう。

リョウ あれ、アキラ、メロンじゃなくていいの

アキラ うん、あとでもっかい食うから、そんときメロンにする

さとる 食いすぎだし。

リョウ じゃあ俺このあとレモンにしよ。

さとる じゃあ俺はブルーハワイ。

アキラ お前も食うんじゃん。

 

4人並んでかき氷を食べる。あちー、うめーとか言いながら食べてる。

 

ゆうき おいしい。

リョウ あー汗やべー。

アキラ いったん帰って着替えたくね?

リョウ 確かに。シャワー浴びてー。

ゆうき 帰っちゃうの?

リョウ だって俺らんちすぐそこだもん。

アキラ そこの道行ったら俺んち。

ゆうき そうなんだ。

さとる いや帰ったら戻るのだるいわ

リョウ 四丁目遠いしな。

さとる チャリ壊れたし。

ゆうき ごめん

さとる いいって。あした直してもらうし。

アキラ 花火までに戻ってこようぜ

リョウ うん。

さとる いける?

アキラ よゆーよゆー。

リョウ じゃあなー。

さとる おう。

 

アキラ、リョウ、去る。

 

さとる ……はあーまじかったりーわ。

ゆうき 楽しそうだね

さとる え、別に

ゆうき 楽しくないの?

さとる え、、まあ、ふつーだよふつー。

ゆうき 楽しそうにみえたけど。仲いいんだね。

さとる え……ああ、まあ、ふつーだよ。

ゆうき いいな、お祭り

さとる なんで。

ゆうき なんで?なんでだろう。

さとる は?

 

 スピーカーから盆踊りの音楽が流れてくる。

 

さとる あ。始まった

ゆうき なにこれ。

さとる 盆踊り

ゆうき 盆踊り?

さとる しらねーの?

ゆうき しらない。

さとる 踊ったことない?

ゆうき ない。

さとる まじか

 

さとる、曲に合わせて踊ってみせる

 

さとる こう、で、こう

ゆうき へえー

さとる なに

ゆうき ……へんなの

さとる ……。

 

さとる、踊るのをやめる。

 

さとる まあ、そーだけど。

ゆうき これはどういうダンスなの?

さとる え?どういうって。

ゆうき この町のダンス?

さとる えー?この町のっていうか?盆踊りで踊るやつ

ゆうき 盆踊り、盆って?

さとる え?あー、盆は盆じゃない?

ゆうき どういう意味?

さとる あー。そうだな。お盆、えーなんだろう、かき氷食べて、焼きそば食べて、チョコバナナ食べて。

ゆうき それはお祭りでしょ。

さとる あれ?

ゆうき お祭りは、なんだろう。

さとる え、なに。

ゆうき 屋台でご飯食べるのがお祭り?

さとる えーしらないよもうなんでもいいじゃん

 

花火上がる音がする

 

さとる もう花火だ。

ゆうき お祭りって花火が上がるんだ。

さとる そこの川で上げてるからしょぼいけどね。

ゆうき もう終わり?

さとる ううん、8時からが本番。いまのは練習みたいなやつ。

ゆうき そうなんだ、もうちょっとだね。楽しみだな。

さとる 花火見てくの?

ゆうき うん。

さとる ふーん。

 

さとる、何か考えて、おもむろに場を離れる。

ゆうき、一人残される。間。スピーカーから流れる盆踊りの音楽に合わせて、立ち上がってなんとなく踊ってみる。ぜんぜんあってない。

さとる、焼きそばを二つ手に持って走って帰ってくる。

ゆうき、踊ってたのをみられてちょっと恥ずかしい。

 

さとる へたくそ

ゆうき いいだろ

さとる まあ、こんなのうまいとかないけど。

ゆうき ……。

さとる 食おうぜ

ゆうき え……いいの?

さとる うん。余ってたの貰ってきた。

ゆうき ありがとう

 

並んで焼きそばを食べる二人。

 

ゆうき 美味しい。

さとる これかあちゃんが作ったやつ。

ゆうき そうなの?すごい。焼きそば屋さん?

さとる 四丁目は毎年焼きそば。かき氷は二丁目。

ゆうき そうなんだ。

さとる ほんとは卵乗ってるのがよかったのにもう麺しかなかったわ。

ゆうき いいじゃん、やきそば。

さとる キャベツしか入ってない。

ゆうき でもおいしいよ。

さとる うん、まあ、うまいけど。

 

しばしの間。

 

20時になり花火が上がり始める。花火を見る二人。

暗転。

 

 

------

あとがき

昨日たまたま映画やらニュースやら、立て続けにお祭りの伝承について考えることがあり、書いてみました。

丹澤 

コント「良すぎて」

 
 
  佐田原、カラオケにいる。
  一人カラオケである。
 
 
  曲を入れ、音楽が流れ始める
 
 
ターンタタタタタターンター、ターンタタタタタターンター、ターンタタタタタターンター、ターンタタタタタターターター
 
 
佐田原 🎵
ゴキゲンな蝶になって きらめく風に乗って
今すぐ キミに会いに行こう
余計な事なんて 忘れた方がマシさ
これ以上 シャレてる時間はない


  店員1、入ってくる。
 

佐田原
何が WOW WOW~ この空に届くのだろう
 
 
  店員1、おしぼりと、ドリンクを置く。
 
 
佐田原
だけど WOW WOW~ 明日の予定もわからない
 
 
  店員、立ち尽くす。
 

佐田原
無限大な夢のあとの 何もない世の中じゃ
そうさ愛しい 想いも負けそうになるけど
Stayしがちなイメージだらけの 頼りない翼でも
きっと飛べるさ On My Love
 
 
 
  佐田原、店員1が帰らないことにそわそわしている。
 
  ターンタタタタタターンター、ターンタタタタタターンター、ターンタタタタタターンター、ターンタタタタタターターター
  (無言で、え?、なんですか?、ん?どうしたんですか?というやりとりがあっても良い)
 
 
  佐田原。曲を停止する。
 
  
佐田原
え、え、え、え、なんですか?
 
店員1
いや、良すぎて。
 
佐田原
ん?何が?
 
店員1
いや、曲が。
 
佐田原
は?ん?なんですか?
 
店員1
曲が良すぎて、感動しまして、立ち尽くしちゃいました。
 
佐田原
いやいやそりゃあ、名曲なんだけど。
 
店員1
なんですか、無限大の夢の後の何もない世の中って。今じゃないですか。現代じゃないですか。やばくないですか。
 
佐田原
え、知らない?バタフライ?
 
店員1
知らないです。
 
佐田原
え?知らない?デジモン?
 
店員1
デジモン?ポケモンのバグりですか?
 
佐田原
うわー、世代だ、デジモン知らない世代だ、デジモン知らない世代でもバタフライには感動するんだー、じゃあないのよ。
 
店員1
こんな名曲が世の中にはあるなんて。
 
佐田原
じゃあないのよ。ヒトカラヒトカラ。こちとらヒトカラでやってきてるんだから。
 
店員1
え、あ、注文ですか?
 
佐田原
注文ですか?じゃなくて、出てきなさいよ。何を普通に客が一人で歌ってる部屋で感動しているのよ。仕事しなさいよ。
 
店員1
すみません。仕事とか忘れるぐらい感動しちゃって。
 
佐田原
そんなわけなくない。カラオケ店員なんて毎日他人が歌う曲聞かされすぎて、曲に感動することなんてなくなるだろ。
 
定員1
いやあ、お客さんの歌声が良かったっていうのも、存分にあるかもしれません。
 
佐田原
ええー、、、悪い気はしないなあ。
 
店員1
失礼しました。ごゆっくりお楽しみください。
 
 
  店員1、そそくさと出ていく。
 
  佐田原、ドリンクを飲み、
 
 
佐田原
悪い気はしないなあ。
 
 
  佐田原、二曲目を入れる。
 
 
佐田原 🎵
小さな頃には宝の地図が
頭の中に浮かんでいて
 
 
  店員1、2入ってくる。
  店員1、ポテトを机に置いてく。
 
  佐田原、戸惑いながら歌う。
  店員1、続けて、続けて、どうぞ気にせず続けてのジェスチャー。
  ポテト?頼んでない?いやいや、サービスですサービスですのやりとりがあっても良い。
 
 
佐田原
いつでも探したキセキの場所を
 
 
  店員2、発音はしないけど口が「ワンピース?ワンピース?」と言ってる。
  佐田原、え、誰?なんで増えてるの?のジェスチャー。
 
 
佐田原
知らない誰かに負けないよに
 
店員2
ラーララーラー。
 
 
  佐田原、戸惑いながら、
 
 
佐田原
今では
 
店員2
ラーララーララー、
 
 
  佐田原、え、誰?
  店員1、続けて、続けて。
 
 
佐田原
ほこりだらけの毎日
いつの日か
 
店員2
ラーララーラー
 
佐田原
すべての
 
店員2
ラーララーラー
 
佐田原
時に身を委せるだけ
 
 
  店員1、立ち尽くす。
 
 
佐田原
もしも世界が変わるのなら
何も知らない頃の私に
 
佐田原・店員2
連れていって 思い出が色あせないように
 
  佐田原、曲を止める。
 
 
店員1
な?
 
店員2
うん。
 
店員1
言ったろ。
 
店員2
うん。
 
佐田原
え、え、え、え、誰?何?増えたけど。
 
店員1
すみません。良すぎて。
 
佐田原
良すぎて?
 
店員1
彼女連れてきちゃいました。
 
佐田原
え、なんで?
 
店員1
いや、良すぎて。選曲も歌も。
 
佐田原
え、ありがとう。いや、でも彼女連れてきたらダメでしょう。
 
店員2(口だけで)
ワンピース?
 
佐田原
なんで発話しないんだよ。なんで発話せずの口だけでワンピースかどうか聞いてくるんだよ。
 
店員2
え、ワンピースじゃないの?
 
佐田原
ワンピースだけど。
 
店員1
ワンピースって何?タバコの銘柄じゃないの?
 
佐田原
ワンピースは知ってるでしょ。全世代全世界共通でしょ。
 
店員1
マジで、マジで、連れて行って欲しいって思っちゃいました。何も知らないあの頃にですよ。な?
 
店員2
うん。
 
佐田原
え、入ってきたよね、聞いてるだけならまだしも。彼女入ってきてたよね?ラーララーラーって。
 
店員2
うん。
 
佐田原
いや、うんじゃなくて。挙げ句の果てには最後完全に一緒に歌ってきちゃってたよね?
 
店員2
なんか。
 
佐田原
なんか?
 
店員2
今まで生きてきた人生の中で一番好きな曲で。
 
佐田原
うん?
 
店員2
気づいたら歌ってました。
 
佐田原
、、、じゃあしょうがないか。
 
店員1
いや、マジで良すぎて、これ、クルクルしてるポテト、サービスです。
 
佐田原
え、ありがとう、クルクルしてるポテト、高そうって思っちゃって頼もうとしたことすらなかったわ。じゃあないのよ。クルクルしてるポテト高そうって思っちゃって頼もうとしたことすらなかったわー、じゃあないのよ。ヒトカラヒトカラ。一人でカラオケ楽しみに来てるのこっちは。邪魔しないで。
 
店員1
すみません、なんか、
 
店員1・2
良すぎて。
 
佐田原
えー、気分は最高なんだけどなあ。
 
店員1
失礼します。ごゆっくり、お楽しみください。
 
 
  店員1、2、そそくさと出ていく。
  
  佐田原、クルクルしているポテトを食べる。
 
 
佐田原
気分は最高なんだけどなあ。
 
 
  佐田原、気を取り直して曲を入れる。
 
 
佐田原 🎵
あおい あおい しずかな よるには
おいら ひとりで てつがく するのニャー
 
くさむらで むしたちが
コロコロ チリチリ
おいしそうに ないてるけど
こんやは たべてあげないのニャー
 
おつきさまが あんなに まるいなんで
あんなに まるいなんて
あんなに…
 
せかいの どんな まるより まるいニャー
せかいの どんな まるより まるいニャー
 
 
  佐田原、電話を取り、
 
 
佐田原
聞きにこいよー。せっかくポケモンならわかるかと思って選曲してんのに。
聞きにこいよー。せっかく、ニャースのいつもと違う雰囲気教えてあげようと思ってんのに。
聞きにこいよー。聞きにこいよー。聞きにこいよー。
 
 
  佐田原、立ち尽くす。
 
 
佐田原
ひろい ひろい うちゅうの どこかに
もう ひとりのおいらが いるのニャー
 
  
  店員1、タンバリン持って入ってきて、
 
 
店員1
おなじように くさむらで
ポロポロ チャラリラ
 
 
  店員2、ギター持って入ってきて、
 
 
店員2
ギターひいて いるのかニャー
ニャースのうたを うたってるかニャー
 
佐田原
ひとりきりが こんなに せつないなんて
こんなに せつないなんて
こんなに…
 
みんな
いまごろ みんな なにして いるのかニャー
いまごろ みんな なにして いるのかニャー
 
だれかに でんわ したくなっちゃたニャー
 
店員1
良すぎる。
 
 
終わり。
 
 
 
 
 
●歌
 
『Butter-Fly』
作詞:千綿偉功     作曲:千綿偉功
 
『memories』
作詞:大槻真希     作曲:森 純太
 
『ニャースのうた』
作詞:戸田昭吾  作曲:たなかひろかず

ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい

●登場人物紹介
・穴岩耳子、俳優、うお座。
・早苗、ペヤングにシーザードレッシングをかけて食べる。
 
★前回までのあらすじ
頭山でねるねるねるねをした。
 
 
 
「ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい」
 
 
  耳子、早苗、いる。
 
 
耳子
ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい はらそうぎゃーてい
 
早苗
え、何?
 
耳子
ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい はらそうぎゃーてい
 
早苗
え、だから何?
 
耳子
呪文ですよ。
 
早苗
なんの?
 
耳子
般若心経の。
 
早苗
般若心経?
 
耳子
般若心経。
 
早苗
え、なんで今このお洒落なカフェエで急に般若心経唱えるの?
 
耳子
なんでなんだろ?
 
早苗
え、なんでこんな素敵なパンケーキとか芯から温まりそうなチャイラテの前で、そんな濁音めっちゃ強調してくる呪文唱えられなきゃいけないの?
 
耳子
全部無ですから。
 
早苗
全部無?
 
耳子
全部無なんですよ。
 
早苗
この素敵なふわふわとしたパンケーキも?
 
耳子
無です。
 
早苗
この静謐な木造建築にマッチした気持ちをゆるやかに伸ばしてくれる店内BGMも?
 
耳子
無ですねえ。
 
早苗
え、ありますけど、うんまいですけど。パンケーキ。うんまいっていうか、甘!
 
耳子
つまりですね。般若心経にはですねえ、観自在菩薩って人がいましてね。
 
早苗
かんじー、ざい、ぼさつ、、めっちゃ漢字漢字してる人がいるのね。世の中には。っていうかパンケーキ食べなよ。めっちゃ甘いよ。
 
耳子
観自在菩薩がなんか修行してて、あ、なんかわかっちゃったわ、我、観自在菩薩、観ること自在になってきちゃったわ、我、これ修行完成しちまったんじゃね、って話なんですけどね。般若心経。
 
早苗
そんな話なんだ。っていうかめっちゃチャラいね観自在菩薩。漢字漢字してるのにめっちゃチャラいね、観自在菩薩。
 
耳子
で、観自在菩薩が言うには、ま、自分を構成する要素っていうか、自分を自分たらしめているものとして、五蘊ってのがあるじゃないですか。それは前提じゃないですか。五蘊。知ってますよね、五蘊。
 
早苗
ごうん?知ってない、全然前提じゃない。聞いたことも見たこともない。何、ごうん?オノマトペ以外であり得るの?その音?漢字どうやって書くの?
 
耳子
漢字は、ま、普通に数字の、五に、蘊ってのは、ちょっとあれですね。一生書けない。一生思い出せない組み合わせしてる漢字なんですけど、なんか多分草冠に糸へんに、なんかちょこちょこってした右側で構成されてる字なんですけどね。五蘊。
 
早苗(スマホで検索している)
あー、なんかちょこちょこしてるね、温度の温の右側みたいだけどちょっと違うちょこちょこした漢字だね五蘊。
 
耳子
で、その五蘊ってのは、ま、五つあるわけなんですけど。まず、「色蘊」。色って書いてシキって読みます。ま、物質的なものっていうか、肉体を指していて。で、次に、受ける蘊って書いて、「受蘊」。これは感覚のことですね。ま、見たり、聞いたり、色々と感覚を受けてるわけじゃないですか人間、それを「受蘊」って言います。そして次は想う蘊で「想蘊」。受けた感覚を認知することを「想蘊」って言います。で、行く蘊と書いて「行蘊」。これは意志ですね、受けたものを認知して、そこからじゃあこう動こうとする意識のことですね。で、最後に「識蘊」。その意思を行うか否か判断するものとして「識蘊」ってのがあります。これら五つ、色、受、想、行、識で五蘊って言うんですけど、ま、最初の色蘊は物質めいたものだけど、それ以外は精神世界的なものっていう大きく区別できるんですね。
 
早苗
待って待って待って待って、めちゃくちゃ説明してくるじゃん、え、めちゃくちゃ説明してくるじゃん五蘊、え、なんで、えなんで今この状況下で五蘊の説明始まってるの?もっとこの状況下楽しもうよ、見て、この絶景、この一面の菜の花畑。楽しもうよ、この黄色しかない世界。春だねえ。春の風物詩だねえ。って何も考えずに菜の花の黄色に浸ろうよ。春の風に吹かれようよ。
 
耳子
はいはいはいはい、そうですね、良い例が目の前に広がっていますねえ、これを元に解説してきますね。
 
早苗
これを元に?五蘊解説してくれるの?これを元に。
 
耳子
つまり、この菜の花畑の感じ、匂い、この春の陽気、それらを今、早苗さんは受蘊しているわけですね。
 
早苗
受蘊?なに?感じてるってこと?
 
耳子
その通りです。今早苗さんは、早苗さんという肉体である色蘊は、この菜の花畑や春の陽気を受蘊してます。でもこれは受蘊しているだけで、なんとなく感じている程度のものとなってます。なんとなくざっくりと菜の花ー、春ー、風ー、ってのを感じている状態なわけです。
 
早苗
ふむ、なるほど、ざっくりと感じている状態が受蘊ってことね。
 
耳子
で、そこから、菜の花黄色くて鮮やかー、春の陽気暖かくて気持ちいいー、風心地いいー、って受蘊しているものを認知したのが想蘊ってことになります。
 
早苗
うーむ、受蘊と想蘊は違うってことね、感じてるってこととその感じてることを認知してるてことは違うってことね。
 
耳子
そうですその通り。で、そしたらですよ。うわ菜の花一面黄色いなあー、春の陽気ポカポカだなあーって想蘊できたらですよ。え、これ、あれじゃないすか。この、野っ原に大の字で寝っ転がったらもしかしてもっと春感じれるくないすか?って意志、芽生えてきますよね。
 
早苗
それが行蘊。
 
耳子
その通り。だけどもだけどもですよ。流石に野っ原に大の字で寝転がったら服汚れちゃうよ、人の目気になっちゃうよ、どうしよっかなー、いや、いいややっちゃえー、
 
 
  耳子、大の字で寝っ転がる。
 
 
耳子
ああー。
 
早苗
ちょっとちょっと、やめなやめな服汚れちゃうよ。
 
耳子
早苗さんも寝転がったら気持ちいいですよ。
 
早苗
いや、そりゃ気持ちいいのは気持ちいいかもしれないけど、服汚したくないから。
 
耳子
って、判断して行為が行われていくわけですよね。私は寝っ転がったけど、早苗さんは寝っ転がらなかった。この判断が識蘊です。
 
早苗
わかりやすい。わかりやすい解説をありがとう。でもでもそんなまわりくどく、一つ一つの心の動き?認識?漢字漢字にしてたら楽しめないでしょ。もっと率直にこの菜の花畑を楽しもうよ。
 
耳子
これが前提です。この五蘊ってのが前提なんですけどって話を観自在菩薩ッチがしてくるわけです。
 
早苗
あ、話続く感じ?般若心経の話まだまだ続く感じ?
 
耳子
そうなんです。つまり、私って五蘊ですよねってことを前提として、だけど実はその五蘊ってのは空っすよってことを観自在菩薩ッチはわかったわけです。五蘊皆空とわかってしまったわけです。
 
早苗
空?色は物質って話してなかったっけ?色以外は精神世界的な話で空ってのはわかるけど、え、色も空?肉体も空?っていうかそもそも空って何?
 
耳子
五蘊の説明の中で色蘊を肉体と説明したんだけど、私の構成する要素としては肉体なんですが、実は世の中の全ての物質のことを色と言うんですねえ。そこで観自在菩薩ッチはわかってしまうわけです。色即是空、空即是色。
 
早苗
聞いたことある。聞いたことあるやつだ。
 
耳子
つまり、色=物質すべて=空である。逆も然り空=物質すべて=色であるということです。ここで、空ってのを無としてしまうと訳分からんくなります。空ってのは空性、空き、スペースって思ってもらえたらいいかな、水の入ってないコップをイメージしてもらえたらいいかな。水がないってことがあるのが空。そもそもコップがないってのは無。色=全ての物質=空=スペースがあるってことをここでは言ってるわけで、このスペースがなければ水は入れないし、水がなければスペースという考えも出ないという、水とスペースは切っても切れない関係性であること、つまり、色=空は切っても切れない関係性にあるってことを言ってるわけです。
 
早苗
色即是空、空即是色、へーそんな意味合いなんだ。なんかわかりやすそうでわかりにくいというか、へーって感じなんなんだけど、でも!でもでもでもでもなんで、なんでそんな色即是空の話を今この状況下でしてるの?歌、歌おうよ!カラオケ来て、マイク持って、曲も入れず歌も歌わず、色即是空空即是色の話してる人初めて見たよ。はい、次、耳子くんの番だから早く曲入れて、歌歌おうよ。
 
耳子
続けますね。
 
早苗
歌ってよ。
 
耳子
受、想、行、識、つまり、色蘊以外の五蘊、物質めいていないものも全て、全く同じで全部空ですよってことを観自在菩薩ッチは続けるわけですねえ。はい曲入れましたー。
 
早苗
ふー。
 
 
  タラタタンタタンタンタンタンタンタン、タンタタンタンタンタンタンタン、タンタタンタタッタータッターター、タララララララ、
 
 
耳子 🎵
水割りをください 涙の数だけ
今夜は思いきり 酔ってみたいのよ
ふられたんじゃないわ わたしがおりただけよ
遊びの相手なら 誰かを探してよ
ゆらり揺らめいて
そうよあたしは ダンシングドール
踊り疲れても もう何処へも行けない
ねェ…キラキラと輝くグラスには
いくつの恋が溶けてるの
 
 
  急に曲、終わる。
 
 
耳子
はいこのグラスの中には何も入っていない空であることが物質すべてにおいてだけでなく、精神世界のものも全てそうだよと観自在菩薩ッチはわかったわけです。だから今のこの歌声も、熱狂も、恋も、水割りも、ゆらり揺らめく感覚も、ダンシングドールも全て空であるわけです。そしてこのグラスという枠すらも取り払われたる状態こそが空の本義になります。空間の枠が取り払われ、私という枠が取り払われ、無限に広がっていく状態。これこそ空だと観自在菩薩ッチはわかったわけです。
 
早苗
うーん、なんだかよく分からんくなってきたぞ。
 
耳子
さて、そんな状況下では不生不滅だし、不垢不浄だし、不増不減だ、つまり生じたり滅したり、汚く汚れたり綺麗に洗われたり、増えたり減ったりというそもそもの変化なんて無いんだという状態になるんですねえ。そしてここから無のオンパレードが続いていくわけになります。是子空中無色、つまり、これ故にそういう状態、私という枠が取り払われた状態となった空の中には色はないという言葉が始まり、受、想、行、識もない。私という枠が取り払われた空の状態では、私を構成する五蘊全てが無になるというわけです。
 
早苗
全然わかんない、全然わかんないのになんかすごそうなことが言われている。なんかすごそうなことが言われてるけど、え、今この状況下でそんな無についての講釈をたれてる場合じゃなくない。なんかすごい上空にミサイル飛んでるんですけど。点になって落ちてきそうなんですけど、早く逃げなきゃやばくない。危険じゃない。察知して、危険、もっと危険察知しようよ。やばいよ、ここにいたら死んじゃうよ。
 
耳子
大丈夫大丈夫全部無だから。
 
早苗
全部無なわけないでしょ。何考えてんだ。早く逃げなきゃやばいって。走って走って。
 
 
  二人、走り始める。
 
 
耳子
無限耳鼻舌身意、
(むーげんにーびーぜっしんにー)
 
 
  何処かで爆発音。
 
 
耳子
無色声香味触法、
(むーしきしょうこうみーそくほうー)
 
 
  何処かで高笑い。
 
 
耳子
無限界 乃至無意識界、
(むーげんかい ないしーむーいーしきかい)
 
 
  何処かでスピリチュアルな音楽。
 
 
耳子
無無明亦無無明尽、
(むーむーみょうやくむむーみょうじん)
 
 
  何処かで地震速報。
 
 
耳子
乃至無老死 亦無老死尽、
(ないしーむーろうしー やくむーろーしーじん)
 
 
  何処かで漫才師のふざけたやり取り。
 
 
耳子
無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故、
(むーくーじゅーめつどう むーちーやくむーとく いーむーしょーとっこー)
 
 
  何処かでハッピバースデーを祝う声。
 
 
耳子
というわけで、とにかく、全部無。無。無。無。無。ってことなんだけど。そこからさらに。
菩提薩埵 依般若波羅蜜多故 心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖、
(ぼーだいさったー えーはんにゃーはーらーみーたーこー しんむーけーげー むーけーげーこー むーうーくーふー)
って続いていくわけですね。つまり心無罣礙(しんむけげ)ってのは心になんの妨げもなくて、囲いも何も取り払われた状態ってことを言っていて、そういう状態の者には恐怖なんてありませんよってことを観自在菩薩ッチは言ってるわけですよ。つまり、死の恐怖ってのは、死から逃れられないと思うから生まれるわけでしょう。逆に逃れるつもりのない者には恐怖は生まれない。心なんてものは無いのんだから、恐怖なんてものは無いんだよってことなんですね。
 
 
  間。
 
 
早苗
うん、全然わかってないけどなんとなくわかった。なんとなくわかったけど、でもなんで?なんでこの状況下でそんな死とか恐怖の話しているの?もっと。もっともっとこの夜を楽しもうよ。もっとこの素敵な夜空に酔いしれようよ、見て。星めっちゃ綺麗。オリオン座。しかわかんないけど、こんなくっきりオリオン座見れることある?すごくない。オリオン座。オリオン座以外も知ってたら良かったんだけど。オリオン座しか私知らないからオリオン座のことしか喋れないしオリオン座のこともオリオン座の形しているのがあの星とあの星とあの星が真ん中にちょんちょんチョンってあって、そこから外に星が2個づつ広がってて、って、そんなことしか私にはわかんないんだけど。だけどあるじゃん。ちゃんとオリオンオリオンしてるじゃん。あのオリオン座。
 
耳子
うん、あるのはあるんだけどね。だけどそれは早苗さんが認識してあるってことであって、実は全部無いんだよ。そしてその認識してるってことも全部無くて、般若心経はその先も続いていって、無上の完全な悟りを成就していくってことが語られるわけなんだけど。最後に是大神咒、是大明咒、是無上咒、是無等等咒(ぜーだいじんしゅー、ぜーだいみょうじゅー、ぜーむじょーしゅー、ぜーむーとうどうしゅー)、っていうマントラ、真言の四つの呼び名が語られるわけなのね。
 
早苗
マントラ?
 
耳子
マントラ。真実の言葉。祈りの言葉。人間同士で喋る言葉には嘘偽りが混ざるでしょ。だけど真の祈りには、嘘も偽りもないの。
 
早苗
マントラ。
 
耳子
一切の苦を除き、偽りがないから真実なの。
早苗さん、祈りませんか?
 
早苗
なんだっけ?
 
耳子
ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい はらそうぎゃーてい ぼーじーそーわーかー
 
早苗
ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい はらそうぎゃーてい ぼーじーそーわーかー
 
二人
ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい はらそうぎゃーてい ぼーじーそーわーかー
ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい はらそうぎゃーてい ぼーじーそーわーかー
ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい はらそうぎゃーてい ぼーじーそーわーかー
 
 
  花が咲いている。できればカシワバアジサイが良いが、そもそも花を咲かせるなんて無理なのでなんでも良い。花が咲かなくても良いけどなんかそういう系統の効果が欲しい。
 
 
  暗転。
 
 
終わり
 
 
 
 
[参考]
・俳句「かしはばあぢさゐ祈りは喉をのぼりくる」『菊は雪』から 佐藤文香 左右社
・『眠れなくなるほど面白い 図解 般若心経』宮坂 宥洪 日本文芸社
・『メモリーグラス』 作詞作曲 堀江淳

 

夜行バスの出来事

 
 
  夜行バスの車内。
  三列シートに乗客たちが座っている。
 
 
アナウンス
本日はハッピーエキスプレス、四日市、名古屋行き夜間高速バスのご利用ありがとうございます。
このバスは2時30分と4時30分に二回の休憩を予定しております。
途中停車することがございますが、運転手の休憩時間となり、お客様は外に出られませんのでご注意ください。
何かございましたら、運転席までお申し付けください。
 
 
客1
すみません
 
運転手
はい?
 
客1
休憩は何時ですか?
 
運転手
2時頃予定しております。
 
客1
ありがとうございます。
 
運転手
ん?ん?
 
2C(席番号)の客
あのお、
 
運転手
なんだ、閉めてほしんか?
 
 
  三列シートを区切るカーテンが閉まりきらないでいる。
 
 
2Cの客
はあ。
 
運転手
そうな。囲ってもらわないとな、落ち着かないな。
あー、しかし法令上完全に締め切ったらいかんわけだ。
ここが難しいところなんだ。
 
 
  運転手、2Cと2Bの間にあるカーテンレールをガチャガチャとする。
  運転手の大きな体でのそのそと作業が始まり、1Bの客は起こされ、ぼーっと様子を伺っている。
 
 
運転手
これは、、、ドライバーがないといかんな。
 
 
  運転手、カーテンレールをガチャガチャとする。
 
運転手
はー、金具もない、ドライバーもない。困ったもんだ。
 
 
  と、ノソノソ運転席へ向かう。
  1Bの客の肩に運転手のスーツがかすかに擦れる。
 
  運転手、運転席の横の収納ボックスから用具箱を取り出し、なんらかの器具を持ってくる。
 
  またもや1Bの客の肩に擦れる。
 
 
  運転手、カーテンレールの留め具に対してなんらかの処置をしている。
 
 
運転手
はー、
 
 
  カーテンレールの留め具に対してなんらかの処置をしている。
 
 
運転手
クソ、硬めすぎるとネジがダメになるから難しいところだ。
 
 
  カーテンレールの留め具に対してなんらかの処置をしている。
 
 
運転手
クソ、あークソ、緩めることもできないやない。どうしたもんだ。
 
 
  カーテンレールの留め具に対してなんらかの処置をしている。
 
 
運転手
何をしているんだ、あー、
 
 
  カーテンレールの留め具に対してなんらかの処置をしている。
 
運転手
うーん。こんなもんやろ。
 
 
  と、2Cの客を見る。
 
 
2Cの客
ありがとうございます。
 
 
  カーテンは全然閉まり切っていないが、、
  「早くバス出てくれよ」というバスの空気がそうさせたのか誰も何も言わない。
 
  運転手、客席と運転席を仕切る大きなカーテンを大袈裟に閉める。
 
  その際、なぜだか1Bの客と目が合う。
 
 
アナウンス
それでは、出発いたします。
 
 
  と、客席は暗くなり、いよいよ出発するんだろうという空気を残して、なかなか出発しない。
  なかなか出発しないなあと大半の客がウトウトしたり、スマホを眺めたりしている間に、いつの間にやらバスは出発している。
 
  1Bの客は席の倒し方が分からず戸惑っていて、違うボタンを押して足元が高くなったりしているが、ようやく倒すレバーを見つける。
  後ろの人に声をかけようか迷っているが、暗いのでしれっと倒す作戦に出る。
  が、意外に勢いよくガクッと倒してしまう。
 
 
  そして時間経過し、第一の休憩時間へ。
 
 
  休憩時間。
  客席と運転席を仕切っていた大袈裟なカーテンが開けられる。
  明かりもついている。
  2時50分出発予定と書かれたボードが運転席の窓のところに置かれている。
 
  ぞろぞろと乗客が降りていく。
 
 
  1Bの客、寒い。
  最前列のど真ん中、カーテンで区切られておらず、開けっぱなしのドアから夜の空気が入ってきて、寒い。ので、毛布とダウンジャケットで芋虫みたいになっている。
  そして降りていく乗客や、乗ってくる乗客から顔丸見え、寝てる姿丸見えなのがつらい。
 
  一瞬手洗いに自分も立とうかと思うが、特に排尿したいわけでもないし、この完成された芋虫保温状態を解除するのが面倒くさいのでそのまま寒さを耐えている。寝れたもんじゃない。
 
  降りていく乗客は減り、乗ってくる乗客がメインになる。
 
  乗客する客がいなくなり、やがて運転手がボードに挟まれた名簿らしきものを見ながら、最後列まで歩きながら人数を確認する。
 
  
  人数を確認し終えた運転手は運転席に戻ってくる。
  客席は暗くなり、
  運転手が大袈裟なカーテンで客席と運転席を仕切ろうとしていると、
 
 
後ろの方の客
すみません。
 
運転手
なんですか。
 
後ろの方の客
スマホが見当たらなくて、お手洗いにないか確認してきてもいいですか?
 
運転手
スマホ、ないの。
 
 
  と、カーテンを開ける。
 
 
運転手
鳴らそうか?
 
後ろの方の客
お願いしてもいいですか?
 
 
  運転手、自分のスマホを取り出す、
  後ろの方の客、それを受け取り、自分の電話番号に電話をかける。
 
 
運転手
かかってるよ。
 
 
  後ろの方の客、後ろの方の自分の席へ戻り、あたふたと探している様子。
  別に通話するわけではないのだからスマホを耳に当てなくてもいいのに律儀に耳に当てている運転手をぼーっと眺めている1Bの男。
 
 
  後ろの方の客、戻ってきて、
 
 
後ろの方の客
ありません!お手洗いの方見てきてもいいですか?走って。
 
運転手
しょうがないからなあ。
 
 
  後ろの方の客、バスを走って出て行く。
 
  運転手、のそのそと運転席でスマホをいじっている。
 
 
  バス内にはどうなるんだという空気が漂っているのか、誰も気にしていないのか、1Bの客には最前列で後ろが見えないし、両隣もカーテンで仕切られているので分からない。ただぼんやり。人ごとのようにどうなるんだろうと思いながら芋虫になっている。
 
 
  後ろの方の客、戻ってきて、
 
 
後ろの方の客
ありません!どうしよう、クレジットカードも一緒になってて、、
 
運転手
au?ソフトバンク?スマホ探す機能ついてるやつあるでしょ。俺分からないけど。
 
後ろの方の客
借りてもいいですか?
 
運転手
しょうがないからねえ。
 
 
  と、運転席でやりとりしている二人をぼーっと眺めている1Bの客。
 
 
後ろの方の客
あ、でもあれか、パスワードがあれか。
 
 
  と、運転手のスマホをいじる後ろの方の客のシルエットが見える。
 
  何か手伝った方がいいかもしれないと、メガネをかける1Bの客。
 
 
後ろの方の客
あ、バーコード。
 
 
  何かできることないかととりあえず、スマホを手に取る1Bの客。
  手にした途端。
 
 
後ろの方の客
すみません。
 
1Bの客
はい。
 
後ろの方の客
手伝ってもらってもいいですか?
 
1Bの客
はい。
 
後ろの方の客
このバーコード、スマホで読み取ってもらえたりしませんか?
 
1Bの客
えー、とカメラで、ね、
 
 
  と、後ろの方の客が持っている運転手のスマホにデカデカと表示されたなんらかのバーコードを1Bの客がスマホで読み取る。
 
 
後ろの方の客
お、読み込んでる、、、あ?ブルートゥース、、オンになってるから確認してください。ブルートゥース、オンになってますか?
 
1Bの客
こっちは、、なってますね。
 
後ろの方の客
あ、このスマホ、運転手さんから借りていて、、
 
 
  と、運転手のスマホのブルートゥースがオンになっているか確認する後ろの方の客。
 
 
後ろの方の客
なってる。もう一回読み込んでもらっていいですか?
 
 
  この人、人のスマホなのに遠慮なく扱うなあ、まあでもスマホ無くしてるし焦ってるしそんなもんなのかなと思いながら、1Bの客、バーコードを読み取る。
 
 
後ろの方の客
ダメだ。
 
1Bの客
アイフォンですか?
 
後ろの方の客
アイフォンです。え、今ここどこですか?
 
1Bの客
さあ。。
 
後ろの方の客
あ、Googleマップさん。
 
 
  と、運転手のスマホでGoogleマップをみる後ろの方の客。
 
 
後ろの方の客
滋賀?どこ?
 
 
  この人、Googleマップのこと、Googleマップさんって呼んでるんだと思いながら、「アイフォン 検索」とスマホで検索をかける1Bの客。
 
 
1Bの客
iCloudから探せるらしいですが。
 
後ろの方の客
パスワード、分かるかな。
 
1Bの客
あ、ここに、サインインしてもらえれば。
 
後ろの方の客
あ、IDが、これで、、
 
 
  なんか、かなりややこしそうな文字面が見える。
 
 
1Bの客
あ、どうぞ。
 
後ろの方の客
すみません、入力していいですか。
 
1Bの客
どうぞどうぞ。
 
後ろの方の客
アップルIDのパスワードが、、
 
1Bの客
アプリとかダウンロードしたり買ったりする時に入力するパスワードじゃないですか?
 
後ろの方の客
、、行けた!奇跡だ!行けた。
 
 
  希望を見出す二人だが。
 
 
後ろの方の客
ない、分からない。見当たらない。
 
1Bの客
探す機能を有効にしてないのかもしれません。
 
後ろの方の客
ダメだ。根本的にダメなのか。、、、なんとかなるか、でもクレジットカードも入ってて。
 
1Bの客
バス乗る前はあったんですよね。当たり前か。
 
後ろの方の客
乗ってからなくなったんですよ。盗まれた?
 
1Bの客
あ、なんかここに電話番号入力したら、見つけた人が電話してくれるようにしてもらえるらしいですけど。
 
後ろの方の客
運転手さん。
 
運転手
はい。
 
後ろの方の客
電話番号入力したら、見つかった時電話してくれるかもしれないのですが、電話番号教えてもらっていいですか?
 
運転手
電話番号?俺の?080
 
後ろの方の客
080
 
1Bの客
080あれ、入力できない。080、
 
後ろの方の客
なんかバグってますね。
 
1Bの客
なんでだ、入力できない。
(っていうかそもそも運転手の電話番号でいいのか?とも思うが、、)
 
後ろの方の客
ダメだ。もう一回、探してきます。
 
1Bの客
はあ。
 
 
  と、電話番号が入力できないか一応試行錯誤してみる。
 
 
後ろの方の客
ありました!
 
 
  戻ってきて、
 
 
後ろの方の客
席の後ろの方に落ちてました。すみません。
 
運転手
はあ。
 
1Bの客
良かったです。
 
後ろの方の客
ありがとうございました。
 
1Bの客
いえいえ。
 
後ろの方の客
みなさんご迷惑おかけしました。ご迷惑おかけしました。
 
  と、後ろの方に戻っていく。
 
  それを見送った運転手、大袈裟なカーテンを閉めながら、1Bの客に向かい、
 
 
運転手
ご協力ありがとうございました。
 
 
  と、カーテンを閉める。
 
  車内暗くなる。
 
 
  1Bの客、考えている。
  もっとスムーズな対応できたな、例えば。
 
 
後ろの方の客
すみません、バーコード読み取ってもらってもいいですか?
 
1Bの客
はあ、すみませんが、一旦落ち着きましょう。あなたは今焦りすぎている。深呼吸しましょう。
 
後ろの方の客
深呼吸?
 
1Bの客
深呼吸です。
 
後ろの方の客
すーーー、はーーーー
 
1Bの客
バスに乗ってからスマホを使いましたか?
 
後ろの方の客
はい。Googleマップさんを見てました。
 
1Bの客
休憩でお手洗いに行った時、スマホに触りましたか?
 
後ろの方の客
いえ、お手洗いに行っただけです。根本的に。
 
1Bの客
じゃあ絶対バスの中だ。もう一度探してごらんなさい。
 
後ろの方の客
ありました!席の奥に!ありがとうございました!!!
 
 
  と、こんな風に、、、、
  なーんてことを考えているけど、意外にバスが出発しない。
 
  あ、これあれだ。運転手の休憩時間ってやつか。
  あの人そんな慌てることなかったよな。
  もっとゆっくり探せたよな。。。
 
  って思っているうちに、1Bの客は深い眠りにつく。
 
 
  時間は経過し、
 
  明かりがつく。
 
 
アナウンス
まもなく、四日市、四日市。四日市でお降りのお客様、ご巡撫お願いします。
お忘れ物にご注意ください。スマートホン、充電器、イヤホンなど大変忘れ物が多くなっております。
 
 
 
  カーテンが開き、ぞろぞろと客が降りて行く。
 
  その中には後ろの方の客が混じっている。
 
 
  後ろの方の客、1Bの客にペコリと頭を下げるが、1Bの客は眠っていて気付かない。
 
  後ろの方の客、運転手に深々と礼をし、バスを出て行く。
 
 
  やがて、大袈裟なカーテンが閉められて、車内暗くなり、バスは名古屋へ向かう。
 
 
 
終わり。
 
 

 

世界の繋ぎ目

★登場人物紹介
・佐田原、よく叫ぶ
・芋田、謎の案内人
 
★前回までのあらすじ
望んでもいない道案内をされた
 
 
 
  夜ののんべえ横丁。
  カウンターのみの小さな居酒屋「小町」。 
  おかみがカウンターに立っている。
  おかみは和服である。
  おかみをおかみたらしめているものは和服でカウンターに立っている、ただそれだけである。
  それだけであるからである。
 
  佐田原が入ってくる。
 
 
おかみ
あら、いらっしゃい。
 
佐田原
こんばんは。
 
 
  佐田原、はじめて訪れた店に入る時に誰もがそうするように店内を見渡す。
 
 
おかみ
お好きなところ座って、
 
佐田原
はあ。
 
おかみ
一人?待ち合わせ?
 
佐田原
はあ、一人ですが、、
 
おかみ
こう言うお店よく来るの?
 
 
  と、おしぼりとお通し(小松菜と油揚げの煮浸し)を渡しながら、
 
 
佐田原
いえ、全然。
 
おかみ
そう、、、何にする。
 
佐田原
なんだか、、、、
 
おかみ
なんだか?
 
佐田原
なんだか、卵が食べたい気分だなあ。
 
おかみ
卵?
 
佐田原
卵、なんだか、ね。
 
おかみ
そんなメニューないけど。
 
佐田原
え、ああ、すみません。
 
おかみ
ゆで卵なら作れるけど、
 
佐田原
え、ああ、ゆで卵じゃなくて、
 
おかみ
ゆで卵じゃなくて、
 
佐田原
ゆで卵じゃ、なくて、、
 
おかみ
うん、
 
佐田原
、、卵焼きの方なんですが、
 
おかみ
卵焼き?
 
佐田原
作れますか?
 
おかみ
作れないことはないけど、
 
佐田原
お願いします、
 
おかみ
わかりました。
 
 
  おかみ、冷蔵庫から卵を取り出し、菜箸でかき混ぜ始める。
  その動きは手早く、カッカッカッカとリズミカルな音がする。
 
 
佐田原
あ、あと電気ブラン
 
 
  ふと、おかみのかき混ぜていた菜箸の手が止まり、静寂。
 
 
おかみ
あの人?
 
佐田原
え?
 
おかみ
あの人の、、知り合い?
 
佐田原
、、、あの人、、ってのは、
 
おかみ
芋田、芋田敏彦。
 
佐田原
はあ。
 
おかみ
やっぱり。
 
佐田原
芋田さんに道案内されて来たんです。
 
おかみ
道案内?ここに?
 
佐田原
ここにと言うより、ここで、卵焼きと電気ブラン頼んで、おかみの腕を褒めて、パセリの唐揚げを頼むと、マンホールを開けてくれる、そこが世界の入り口だと。
 
おかみ
何を馬鹿なこと。
 
佐田原
え、この話嘘ですか。
 
おかみ
嘘よ。
 
佐田原
なんだあー、てっきり、本当なのかと。
 
おかみ
あんたも馬鹿ねえ、そんな話、真に受けるなんて。
 
佐田原
いやー、おかしいとは思っていたんですけどね、
 
おかみ
はい、電気ブラン
 
 
  と、黄色い酒が出され、佐田原、くいっと一口飲む。
 
 
佐田原
かー、
 
おかみ
はじめて?
 
佐田原
こんな濃いんですか、電気ブラン
 
おかみ
あったまるでしょ。
 
佐田原
あったまるって言うか、食道があちい。
 
おかみ
チビチビ、やってね。
 
佐田原
かああーー。
 
 
  と、煮浸しを口に入れ、
 
 
佐田原
お通しうめええー。
 
おかみ
うふふ、ありがと。
 
佐田原
おかみ、腕をあげたねえ。
 
おかみ
私のことなんか知らないくせに。え?
 
佐田原
あ、
 
おかみ
なんて?
 
佐田原
え?
 
おかみ
今なんて言った?
 
佐田原
おかみ、腕をあげたねえって。
 
おかみ
あなたが?
 
佐田原
はい、
 
おかみ
言ったの?
 
佐田原
はあ。
 
おかみ
馬鹿。
 
 
  と、おかみ、奥の小さな階段を登ってゆく。
 
 
佐田原
え、おかみ、おかみー。
 
 
  卵焼きが焼かれている。途中である。
 
 
佐田原
おかみ、おかみー、
 
 
  佐田原、仕方なく、調理スペースに入り、
 
 
佐田原
卵焼き焦げちゃうじゃない。
 
 
  巧みな箸捌きでフワッフワの卵焼きを作っていると、
 
 
客1
やってる?あれ?
 
佐田原
すみません、
 
客1
おかみは?
 
佐田原
すみません、今出ちゃってて、
 
客1
え、やってる?
 
佐田原
え、やってるのかな?おかみ、おかみー。
 
 
  返事はない。
 
 
佐田原
すみません。
 
客1
すみませんって、やってるの?やってないの?どっちなのよ、
 
佐田原
いや、僕もただの客なもんで。
 
客1
ただの客がなんで厨房に立ってるのよ。
 
佐田原
おかみが突然階段登って行っちゃって、
 
客1
ははーん。あんた、おかみの良い人か?
 
佐田原
違いますよ、僕ははじめて、ここに来たんですから。おかみとは何の関係もありませんから。
 
客1
何も関係もない奴がカウンターに立つんじゃねえよ!
 
佐田原
いや、だからね、それはね、これ、卵焼き、途中だったから、
 
客1
ほら、お通しだ、はよ持ってこい。
 
 
  と、客1は席に座る。
 
 
佐田原
ええー、ええー、これか。
 
客1
はい注文。
 
佐田原
はい、なんでしょう?って、違うんですよ、僕はただの客なんですから。
 
客1
とりあえず、瓶ビール貰おうかな。
 
佐田原
瓶ビール、どこだ?
 
客1
そこだよそこ、冷蔵庫の下に入ってんだろ、みりゃわかんだろ。
 
佐田原
あなたの方が詳しいじゃない。
 
 
  と、瓶ビールを取り出すが、
 
 
佐田原
栓抜きはどこですかね?
 
客1
知るかよ。
 
佐田原
おかみ、おかみー、お客さんですよ、おかみー、
 
客1
あったあった、栓抜きぶら下がってる。そこ。
 
佐田原
ああ、
 
 
  カポっと音がして、瓶ビールと、コップを客1に渡す。
 
 
佐田原
はい。
 
客1
ええ?
 
佐田原
なんですか。
 
客1
つぎなさいよ。
 
佐田原
ああ、僕は店のものじゃないんですけどね。
 
 
  と、瓶ビールをコップにそそぎ、
 
 
客1
乾杯だ。
 
佐田原
はあ、
 
客1
何それ?
 
佐田原
電気ブランですが。
 
客1
電気ブラン?また珍しいもん飲んでんねえ。
 
佐田原
はあ。
 
 
  乾杯。
 
 
客1
くー。
 
佐田原
おかみ、おかみー。
 
 
  と、呼びに行く。
 
 
佐田原
おかみ。お客さん来てますよ、おかみ。早く出て来てくださいー。
 
おかみ
ちょっと相手しておいてくれませんかー。
 
佐田原
相手しておいてって言われても、
 
おかみ
鶴川さんでしょ、
 
佐田原
鶴川さん?あのうー、
 
客1
何?
 
佐田原
鶴川さん?
 
客1(以下、鶴川)
うん。鶴川。鶴亀の鶴に、川底の川って書いて鶴川。
 
佐田原
鶴川さんらしいです。
 
おかみ
でしょ、だと思った。まずは、ビール。
 
佐田原
出しました。
 
おかみ
肴に枝豆出して、エイヒレ出して、それから鶏大根、作ってあるのレンジで少し温めてね、そして茄子の漬物でもなんでも漬物出しときゃ喜ぶから。
 
佐田原
自分でやってくださいよ、
 
おかみ
今、忙しいの、お願い。
 
佐田原
何やってるんですか?
 
おかみ
ちょっと待ってて、すぐ行くから。
 
佐田原
ええー。
 
 
  佐田原、トボトボ降りて来て、
 
 
佐田原
なんだっけ?枝豆?どこだ?
 
鶴川
冷凍庫冷凍庫、冷凍庫に冷凍してるのあるから。
 
佐田原
冷凍食品の枝豆?これで良いの?
 
鶴川
いいのいいの、なんでも良いからチンして出してくれ。
 
 
  佐田原、適当なお皿を手に取り、カッチカチの枝豆を入れる音がする。
  ガンっと電子レンジの扉を開けて、ピッピッピと選択ボタンを押すたびに高音の音がする。
 
  やがて、ぶおおおおおん。
  佐田原、卵焼きを皿に移し、
 
 
佐田原
あ、これ、どうぞ。
 
鶴川
あんた、おかみのなんなのさ、
 
佐田原
なんなのさって言われても、
 
鶴川
港のヨーコヨーコハマヨコスカー。
 
佐田原
なんすかそれ?
 
鶴川
え、知らない?デレデデッデッデ、デレデデッデッてやつ。
 
佐田原
知らないすよ。
 
鶴川
で、おかみのなんなの。
 
佐田原
僕は関係なくてですね、芋田さんに案内されて。
 
鶴川
芋田。
 
佐田原
知ってるんですか?
 
鶴川
芋田って名前を、この店で言っちゃあいけねえよ、
 
佐田原
え?
 
鶴川
芋田は最低な奴だ、おかみが芋田にどれだけ振り回されてるか、ここに来る常連で知らねえ奴あいねえよ。
 
佐田原
芋田さんは、おかみになにをしたんですか?
 
鶴川
何もしなかったのさ。
 
 
  チーン。
 
 
鶴川
何もしなかったと言うことが、おかみにとっては一番の屈辱だったのさ。
 
佐田原
ふーむ、そう言うもんですかね?はい、枝豆です。
 
鶴川
おお、さんきゅ。
 
 
  と、枝豆を食う。
 
 
鶴川
あんちゃんも食べな。
 
佐田原
はあ、ありがとうございます。あと、これ、
 
 
  と、エイヒレを出す。
 
 
鶴川
おお、ありがとうな。あと、柄入れをくれねえか。
 
佐田原
ああ、すみません。
 
 
  と、皿を渡しながら。
 
 
佐田原
恋仲だったわけですか?
 
 
  と、枝豆を取り、
 
 
鶴川
ま、そう言うこっちゃな。
 
 
  と、枝豆を取る。
 
 
佐田原
だから、芋田さんは僕をここに道案内したんですかね?僕に何をしろと?
 
 
  と、エイヒレを取る。
 
 
鶴川
さあな、芋田の考えてることは俺たち凡人にはわかんねえよ。わかんねえことするから、おかみは芋田に惹かれたんだろう。
 
 
  と、エイヒレを取る。
 
 
  二人、酒を飲み。
 
 
  二人とも。枝豆に手が伸びる。
 
 
鶴川
枝豆、好きかい?
 
佐田原
はあ、どうでしょう、好きとか嫌いとか考えたことないですね、枝豆ってのはあるから食うって感じですかね。
 
鶴川
おめえさん。枝豆を食う奴らは2種類に分かれるって話をしているかい?
 
佐田原
なんですか、それは。
 
鶴川
つまり、枝豆ってのはつるんと皮から豆を出すわけだが、この豆が問題になるわけだな。つるんとした綺麗な、何も身に纏っていない輝かしい豆が良いか、または、少し薄皮を纏った状態の豆が良いか。ここが枝豆族達の分かれ目、つるんと枝豆が好きか、薄皮枝豆が好きか。おい、これ大問題だよ。この一つの問題が、こののんべえ横丁では大論争を巻き起こし、去る奴は去ったし、気にしない奴は残った。そして自然と誰もがその話題を胸に秘めたまま、表面に出さなくなったのがこの枝豆問題だ。俺は嬉しくてね、久しぶりについついあんちゃんの顔を見てたらこの問題を取り上げたくなっちまったのさ。どうだい、あんちゃんは、どうだい、つるんと豆派か、薄皮豆派か、お聞かせ願いたいものだね。
 
佐田原
僕は、そうですね、正直、どっちでも良いですね、どっちでも良いし、どうでも良いですね。
 
鶴川
なんだって。
 
佐田原
枝豆は枝豆ですよ。薄皮がついていようがついてなかろうが、枝豆は枝豆です。ビールのアテに最高だし、特に夏なんて欠かせないったらありゃしない。そんな薄皮がついてるかどうかにこだわるなんてナンセンス極まりないですよ。ナンセンス極まりないことで、街を出ていくのどうだの、どうかしてるんじゃないですかね。
 
鶴川
あの頃の、あの頃の俺たちに聞かせてやりてえよ、そのセリフ。あの頃の俺たちは、あの頃の俺たちはくっだらねえことに腹を立てて、くっだらねえことで喧嘩して、くっだらねえことが許せなくて、くっだらねえことで離れて行った。
 
佐田原
卵焼き、食べてくれませんかね?僕作ったんで。
 
鶴川
薄皮問題はあんちゃんにとってはどうでも良いことかも知れない。だけど俺にとっては重大なことだったんだ。つまり皮に守られてなきゃ何にもできない俺と、純粋無垢な目で世界と対峙しようとしていた芋田と、俺たち二人の間で優しい距離感で持ってただただタバコに火をつけて酒を出してくれたのがおかみだ、その問題に、あんちゃんは首を突っ込み始めているのだが、くっだらねえと言い出しやがる。
 
佐田原
僕関係ないですもん。
 
鶴川
枝豆には苦味が必要なんだ。ただしょっぱいだけじゃあならねえ、苦味と塩加減のバランスが枝豆なんだ。その苦味に一役買ってるのが薄皮な訳だ。薄皮があるとなしじゃあ大きな違いよ。福神漬けのないカレー、レモンのないテキーラ、パー子のいない林家ペーみたいなもんさ。もちろんパー子がいなくてもペーはペーだし、彼の芸能人の誕生日に詳しすぎるという特技が陰ることはないだろう、ペーはペーだ。しかし、パー子のあの甲高い笑い声を俺たちは求めちまってるんだ。笑い声だけではない、写真のフラッシュ、ピンクのファッション、ヤーダという独特な口癖。むしろ林家ペー林家パー子によって成り立っているわけだ。枝豆もそうなのさ。薄皮がなけりゃ味に締まりがない。いやむしろ薄皮が枝豆の本質と言っても良い。豆は仕立て上げられた林家パーなのさ。枝豆とは俺さの如く、豆は主人公然と人々の口の中の放り込まれるわけだが、実のところ、そこには薄皮という存在がある。それをわざわざ剥いて、取り払って食う奴がいる。信じられるかい?俺は信じられないね。俺なら薄皮が上手くついてこない時は、殻からほじくり出してでも薄皮を食うね。いいか?本質を見極めるんだ。枝豆の本質は薄皮だ。ここに、芋田ってやつは、気づいていなかった。
 
佐田原
すみません、なんの話ですかね?
 
鶴川
芋田は危険な奴だ。あんちゃん。悪いことは言わねえ。あんた、芋田に関わろうとしてんだったら、やめときな。火傷するぜ。
 
佐田原
はあ、それより、卵焼きも食べてくれませんかね、せっかく作ったので、
 
鶴川
つまり人間にも薄皮が必要なのさ。それは一皮、覆われてる具合がちょうど良いのさ。一皮覆われてる具合の人間と一皮覆われてる具合の人間。関係性において重要なのは、この一皮、薄っぺらい膜、薄っぺらい苦味ってわけだ。ついでくれ。
 
 
  佐田原、瓶ビールをつぎながら、
 
 
佐田原
そんなもんですかね、
 
鶴川
じゃないと危なっかしいったらありゃしねえだろ、うひ、うひひひ、だって、うひひ。一皮もまとってない人間が、一皮もまとってない人間と。やり取りすることを想像してみろ、うひ、うひひ、危険すぎるだろ。うひひひひ。もちろん、それを美と勘違いする奴もいる。お互い裸になって話そうや、腹割って話そうや、何もまとってない状態でやり取りしようや。ケッ、だね。ケッ、だよ、そんなものは。ケッ。現実が見えていない、腹を割ろうと割ろうとして割れないのは人間なんだ。いいか?人間の腹って奴は硬い。硬くて硬くて割れたもんじゃあねえ。まやかしなのさ、腹を割ろうなんて行為は。所詮、腹を割ったフリにしかならねえ。
 
佐田原
うーむ。それと芋田さんとなんの関係があるんですかね?
 
鶴川
芋田の腹は柔らかいんだ。
 
佐田原
は?
 
鶴川
芋田の腹は柔らかい。おかみはそこに惹かれた。
 
佐田原
それって比喩ですか?
 
鶴川
ひゆ?ひゆって、なんだ?
 
佐田原
比喩、ええーと、例え、みたいなこと?
 
鶴川
たとえ?誰それ?お母さんの名前?
 
佐田原
たとえさん?そんな名前の人いますか?
 
鶴川
え、なんの話?
 
佐田原
え、比喩比喩、比喩表現ってあるでしょ、直喩とか隠喩とか。
 
鶴川
ラー油とか?
 
佐田原
え、、、
 
鶴川
え?
 
 
  おかみ、登場。
  黄色いヘルメットを被り、その上から四角いライトがまきついている。
  和服の上から迷彩服を羽織っている。
  手には、マンホールを開ける鉄の棒みたいな器具とバール。
  それを肩に乗せて、
 
 
おかみ
行くわよ。
 
佐田原
え、どこに。
 
おかみ
どこにでもない場所。あの人が連れてってくれるはずだった。
 
佐田原
芋田さんの言ってたことは本当だったんですか?
 
鶴川
待てよ。
 
おかみ
鶴ちゃん、堪忍してな。
 
鶴川
堪忍、しねえ。堪忍なんてしねえよう。
 
おかみ
私には芋田さんしかいなかった。
 
鶴川
バカにするんじゃねえよ。芋田はお前を捨てたんだぜ。
 
おかみ
だから、私、行くわ。この人と。
 
佐田原
え、僕とでいいんですか?
 
おかみ
全てを捨て去る覚悟ができているんでしょ?
 
佐田原
全てを捨て去る覚悟。
 
おかみ
だから来たんでしょ?
 
佐田原
はい、正直、もうこの国はどんどんどんどんおかしな方向に向かってるようなので、全て全部捨てていいやってある日、思っちゃったんですよね。
 
おかみ
芋田は、芋田は、元気にしてましたか?
 
佐田原
はあ。ニラ玉を三皿食べていたので、元気にしていたと思います。
 
おかみ
、、、満足。
 
鶴川
待てよ。
 
おかみ
止めないで鶴ちゃん。
 
鶴川
俺も行くよう。
 
おかみ
え?
 
鶴川
芋田が見たかったけど見れなかった景色。俺も見たくなっちまった。
 
 
  と、枝豆の薄皮を剥き、
 
 
鶴川
こんなもんにこだわってたってしょうがねえだろ、裸の付き合いてやつをしてやろうじゃねえか。
 
 
  と、裸の枝豆を口に入れる。
 
 
おかみ
鶴ちゃん。
 
佐田原
卵焼きも食べてくれませんかね?
 
おかみ
急ぎましょう?
 
佐田原
え、なんで?
 
鶴川
決心が揺らいでしまうだろう。
 
 
  と、二人は奥の扉をゆっくりゆっくりとあゆみを進めていく。
 
 
佐田原
え、もう行くの?
 
 
  と、卵焼きをかきこみ、
 
 
佐田原
、、、味がしない。
 
 
  味がしない卵焼きが何を意味するのか、
  佐田原は瞬間的に未来の不安に馳せる。
 
 
佐田原
さよなら、芋田さん、峰、耳子くん、お母さん、お父さん。俺は、行くぜ。何もかも捨て去ってな。
 
 
  と、奥の扉を三人は出ていく。
  その先にはマンホールがある。
 
 
 
続く。
 
 
次回予告
芋田が見られなかった世界、全てを捨て去る者だけがたどり着くことができる世界。
そこに足を踏み入れたおかみ、佐田原、鶴川さん三人を待ち受けていたのは、、
 
カエル?ウサギ?猿?
 
次回、新頭町戯曲集
「戯画の世界」
 
佐田原
絶対見てーーーーーーー。
 
 
お楽しみに。