新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

向こう岸のラストスマイル

★登場人物紹介
頭万智、学生、御百度参りしている。
友美、学生、三度の飯よりパフェが好き。
 
 
  頭万智、友美、パフェ食べてる。
 
 
友美
わー、パフェなんて久しぶり、
 
万智
先週食べてたよ。
 
友美
先週から今までめちゃ長かったから、お久しぶりのパフェさんなのよ、お久しぶりですー、パフェさん、どうもご無沙汰してますー、いえいえ、先日はどうもお世話になりました、いただきますー、うま、
 
万智
挨拶した後に食べるって残酷じゃない?
 
友美
万智ちゃん、
 
万智
なに?
 
友美
万智ちゃんってさあ、下のコーンフレークゴリゴリ混ぜる派じゃなかったっけ?
 
万智
ああー、そうなんだけどね、最近このゴリゴリって音がなんだか嫌になってきていてね、
 
友美
え、前はこのゴリゴリて音が良いんだって言ってたのに、このゴリゴリがネトっとしたチョコとバニラと絡まり合って、低くゴリゴリ唸る様が堪らないって言ってたのに、
 
万智
そうね、そうなんだけど、そうね、元彼がね、元彼がね、好きだったの、この音、だからこの音聞くと思い出しちゃって、元彼、
 
友美
元彼って誰?
 
万智
元彼は元彼よ、君の知らない元彼よ、
 
友美
私の知らない元彼がいるの?
 
万智
友美さん、ね、人間って、ね、全部を全部知ることは不可能なんだよ、自分のことですら知らないことたくさんあるのに、別個体である私のことの全部知ってるわけないじゃないか。わかるでしょ、私には、あなたが知らない元彼がいたの。
 
友美
パフェをゴリゴリ食べる元彼?
 
万智
パフェをゴリゴリ食べる元彼よ、愛してた。
 
友美
どんな人?
 
万智
そうね、スマートな元彼だったわ、スマートで、スマートホンがよく似合う元彼だった、そのくせパフェをゴリゴリ食べるから、ギャップに惹かれたのね、
 
  間。
 
友美
万智ちゃん、
 
万智
なに?
 
友美
先月貸した、矢沢永吉のライブDVD、見た?
 
万智
うー、ん、そうね、見たよ、マジでハーハーしてたよ、
 
友美
、、、どこが良かった?
 
万智
どこがって、全体的に、熱かった、熱さよね、矢沢って、熱さじゃない、究極言うと。
 
友美
私は永ちゃんの熱さっての表面的なところじゃないかと思うの、その奥の奥にある震えこそが永ちゃんの熱さの根底にあるんじゃないかと思うの、声の震えが半端ないし、それが身体中を震わしているのがわかるもの、セクシーよ、私、もはや歌ってる時よりも歌ってない時の方が好きだもの、歌ってる時と歌ってる時の間の、歌ってた時の震えが身体に余韻として震えて、くねくねしてる時の方が好きだもの、
 
万智
すごいね、すごい好きだね、
 
友美
って言うかそう言ってたのは万智ちゃんよ。
 
万智
あらま、そうだったかしら、
 
友美
私に永ちゃんを教えてくれたのは万智ちゃんよ、
 
万智
え、私永ちゃん好きなんだ、すごいね、私、へー、
 
友美
万智ちゃん、最近おかしいよ、
 
万智
え、おかしいかしら。私。
 
友美
おかしいよ、永ちゃんのこと忘れてるし、パフェゴリゴリ食べないし、かしらかしら言ってるし、
 
万智
うーん、まあね、思春期だからね、おかしいことの一つや二つあるよね、
 
友美
万智ちゃん、私に隠し事してるよね?
 
万智
してない、
 
友美
話して、隠し事、しないって約束したじゃない、隠し事、
 
万智
え、してないよ、隠し事?
 
友美
あー、そうなんだ、どうしても話してくれないんだ。
 
万智
ないんだもん、隠し事、
 
友美
このパフェ、被っていい?
 
万智
え?
 
友美
このパフェ、私、被っていい?
 
万智
え、そんなことしたら、そんなことしたら、頭ドロドロになるよ。
 
友美
いいの、私、惨めな気持ちを視覚的にも聴覚的にも嗅覚的にも触覚的にも味わいたいの、味覚以外の惨めさを全て味わいたいの、約束したのに、彼氏ができたら報告するって、秘密はなしって、究極のズッ友って約束したのに、万智ちゃん、私に隠し事してる、してるよね?被っていい?被るよ?パフェ?パフェ被ったまま地下鉄乗るよ、パフェ被ったまま街中でカバンとかとか買うよ、サマンサタバサとか買うよ、パフェ被ったまま、
 
万智
やめてやめて、パフェ被ったまま良い買い物するのやめて、せめてパフェ被らないで良い買い物しようよ、
 
友美
じゃあ話して、私に隠してること、全部話してよ、
 
万智
いあ、だからそれはね、
 
友美
被るよ、パフェ、パフェ被ったままプリクラ撮るよ、パフェ被ったままプリクラ撮ってインスタあげるよ、頭の上に乗ってるパフェに顔とか書くよ、にっこりさせるよ、
 
万智
楽しんでない?パフェ被って出来ること満喫しはじめてない?
 
友美
パフェ被るよ、パフェ被ったまま、公園で遊ぶよ、砂場とかで遊ぶよ、アリとかすごい寄ってきそうだよ、アリとかすごい体登ってきそうだよ、いいの?パフェ、アリ登ってきても良いの?
 
万智
パフェは被らないで欲しいの。でも隠し事は本当なくて、
 
友美
被るよ、っていうかむしろ、被すよ、パフェ、万智ちゃんにも被すよ、パフェ、
 
万智
あ、私にも被すの?本当にやめて、それはやめて、
 
友美
あ、なんか私、なんかもう被りたくなってきた、むしろ被りたくなってきた、万智ちゃんの秘密とか関係なく被りたくなってきた、
 
万智
それはなんの衝動なの?あなた、変態よ、その衝動はただの変態よ、
 
友美
あ、だめ、右手動いてる、わかるでしょ、右手がパフェに向かってる、近づいてる、わかるでしょ、被りたいの、被らせて、被ったら私、なんか変われる気がする、新しい、新しい友美になれる気がするの。
 
万智
わかった、わかったから、やめよう、被るのだけはやめよう、話すから、全部話すから、
 
友美
本当に?
 
万智
しょうがないわ。これは誰にも言っちゃいけないことよ、絶対秘密ね、
 
友美
わかった、ズッ友だし絶対喋らない、
 
万智
うん、一から説明するね、二週間前にある事件が起こったのね、あの日、少し霧がかかってた早朝だったんだけど、頭万智って女の子、ね、今の私なんだけど、万智ちゃんは、大学祈願合格のために御百度参りをしていたらしいのね、その日も、阿多田舞神社のなっがーい石段を登っていったの、そしたら、酔っ払った、男が、境内のベンチで寝っ転がっていたの、それが、俺、なんだけど、早朝、そんな時間に人がいるなんて珍しいなーと思いながら、万智ちゃんはいつも通り手を清めて、いつも通り、大学合格を祈願して、いつも通り、帰ろうとしたのね。
 
何願ったの?
 
万智
そしたら急に話しかけてきて、その、俺が、酔っ払いが、
 
何、そんな一生懸命祈ることってある?
 
万智
怖いよね、見ず知らずの人がモヤモヤ霧がかったとこで不意に話しかけてきたらそりゃ怖いよね、普通、いや、俺からしたら、あれなんだけど、変なこと考えてた訳では決してなくて、普通に、やりとりを、こんな早朝に祈願にくる女の子て何を祈願に来るんだろうって、シンプルにやりとりを、朝の空気と二日酔いの気持ち悪さと混ぜ合わせた上で、なんか言っちゃった、というか、話しかけてみたくなってしまって、
 
何を願ったの?
 
万智
そしたら万智ちゃんは、ってのは今の私なんだけど、急に走り出したのね、人間、急に走り出されるとかなりショックよ、別にあれよ、別に良いんだけどさ、全然知らない女の子に変なやつ扱いされるのなんて全然気にしないんだけど、その時咄嗟に追いかけてしまっていて、ちょっと待って、
 
ちょっと待って、
 
万智
追いかけてしまっていて、気づいたら腕掴んでいて、今の私からしたら掴まれていて、離して、離して、って万智ちゃん、今の私が言ってて、
 
なんで逃げるの?
 
万智
って俺すごい腹立ってて、揉みあってるうちに、あ、あーっ、
 
え、あー、
 
二人
ああーー、
 
万智
てな具合で、なっがーい階段を転げ落ちていってしまったの、あ、死んだ、って、これはマジで死んだって思ったね、死んではなかったんだけど、入れ替わってしまって、俺と頭万智の身体がね、入れ替わってしまって、大変だこりゃ、困った困った、て、状況なわけよ、
 
友美
あー、
 
万智
だから、パフェもガリガリ食わないし、矢沢の良さもわかんないのよ、ごめんね、ただのおっさんと話してるだけなのよ、実は今。
 
友美
これは、すごい、あれですね、テレビでよく見るやつですね。
 
万智
そうだね、テレビでよく見るやつだね。
 
友美
ここから、あれですよね、お互いの学校やら会社やらを見ず知らずの関係性の中それまでの関係が壊れるのではないかとヒヤヒヤしながらなんとかやっていきながら、お互いの身体に戻れるように奔走するってやつですよね、
 
万智
そうだね、え、君すごいね、そんなすぐこの状況受け入れてくれてるんだ、すごいね、
 
友美
一人か二人くらいにはこの秘密を打ち明けたりするんですよね、絶対信用できる友達に、それが今の私、郁沢友美ってことになるんでしょうか。
 
万智
そうだね、そういうことになるね、
 
友美
え、っていうことはあれですか、もう、あれやりました、お風呂入る時に目隠しされて身体洗われるってドキドキシーンやりました。
 
万智
あ、うん、毎日やってるよ、一応、
 
友美
えー、良いなあ、そういうの一度経験してみたかったんですよね。
 
万智
良くは、ないよ、大変だよ、実際、でも、意外となんとかなるもんだなって思ってはいるよ。
 
友美
えー、良いなあ。
 
万智
良くはないよ、こっちからしたら本当、大変なんだから、
 
友美
え、今万智ちゃん何してるの?
 
万智
あ、俺劇団みたいなの所属してるんだけど、仲間内でなんか変な戯曲を読む会していて、それに今、参加してる、大丈夫かな、変なことしなきゃ良いんだけど。
 
友美
え、見にいきましょうよ、
 
万智
だめだよだめだよ、見にいくって俺と万智ちゃん元々なんの関係もないんだから、みんな、え、誰?ってなるでしょう。
 
友美
妹とかなんとか言えば良いじゃないですか。
 
万智
妹なんて俺いないんだから、そんなテレビみたいに簡単に誤魔化せるやつじゃないんだから。
 
友美
へー、あ、じゃあ、どうします?この後、カラオケ行きます?
 
万智
カラオケ?俺万智ちゃんじゃないのよ?っていうか、本当信じてる?
 
友美
信じてる信じてる、信じてる上で、カラオケ行きましょうよ、
 
万智
え、いいの?俺万智ちゃんじゃないのよ、全然知らない男よ、中身、大丈夫?楽しめる?そんなカラオケ空間、
 
友美
あー、私結構あれですあれですよ、幅広い年代の歌、歌えるので、合わせられます合わせられます。
 
万智
いやそういうことじゃなくて、
 
友美
世代的には何世代ですか?
 
万智
え、何世代とは?
 
友美
中学高校で良く聴いてた曲とか?
 
万智
えー、そうね、オレンジレンジとか、
 
友美
あー、大丈夫大丈夫合わせられます合わせられます、私HY行きますし、なんならラブサイケデリコも歌います。
 
万智
ラブサイケデリコ、ラブサイケデリコ歌えるの、最高じゃん、
 
友美
あ、じゃあ行きますか、カラオケ、
 
万智
おっけい行こう行こう、
 
友美
生命線からあどうぇえそれから、なんたらなんたらなんたらなんたら、
 
万智
歌えていない、全然歌えていない、
 
友美
なんたらなんたら、君は向こう岸でラストスマアイル。
 
 
続く。