新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

トイレットペーパーロマンス

 
●登場人物紹介
雅紀、亀おばさんという変な人を追っかけている。
あゆみ、原川あゆみ、ココナッツミルクが好き。
 
「トイレットペーパーロマンス」
 
  
  そこまで大きくないオフィス。
  大量のでかい段ボールがオフィス内を埋め尽くしている。
 
  雅紀、あゆみ、その中にいる。
 
 
雅紀
え、
 
あゆみ
すみません、
 
雅紀
あ、うん、いいけど、
 
あゆみ
すみません。発注ミスで、私の発注ミスで、
 
雅紀
うん、うん、いいけど、いいんだけど、
 
あゆみ
トイレットペーパー、六個セットって知らなくて、バラ売りかと思って、
 
雅紀
あ、それで、こんなでかい段ボールいっぱいあるんだ。
 
あゆみ
20個頼んじゃいました。
 
雅紀
あ、へー、じゃあ今この部屋にトイレットペーパー120個あるんだ。
 
あゆみ
さらに一袋に12個ずつ入ってるので、その12倍です。
 
雅紀
12×120で、1440個ね。そりゃあ部屋中段ボールになるわけだ。
 
あゆみ
え、すごい、暗算できるんですか?
 
雅紀
あ、うん、暗算二段。
 
あゆみ
へー。
 
  間。
 
あゆみ
すみません、本当すみません。
 
雅紀
いいよいいよ、トイレットペーパーなんて使うんだし、結局、なくなっていくんだし。
 
あゆみ
私、いっぱい使います、トイレットペーパー、
 
雅紀
それはいいんじゃない、そんな使わなくてもいいんじゃない。
 
あゆみ
ああああー、優しすぎます、先輩、優しすぎる。
 
雅紀
いや、うん、あるよ、そういうの、いや、ここまではないか、こんなトイレットペーパー来たのは初めてだわ。
 
あゆみ
あああああああああ、
 
雅紀
落ち着こう、そんな大したことじゃないから、一旦、落ち着こう。
 
あゆみ
あああああああああ、宮川さんに、宮川さんに、バレたくない、
 
雅紀
うん、諦めて、これをバラさないでいるのは無理よ。
 
あゆみ
宮川さん、帰ってくる前になんとかできないですかね?
 
雅紀
なんとか、無理無理、隠しようないじゃん、こんな大量の段ボール、どうしようもないよ。
 
あゆみ
捨てますか。
 
雅紀
捨てちゃだめでしょ、
 
あゆみ
せんぱーい、
 
雅紀
せんぱーい、じゃなくて、捨てちゃだめでしょ。
 
あゆみ
流しちゃうとか、
 
雅紀
捨てるのと同じじゃない。
 
あゆみ
ああ、終わった、私の3年かけて作り上げてきた、完璧すぎる、デキルキャラ造形、終わった。
 
雅紀
仕事、しようよ。
 
あゆみ
はい。
 
  互いのデスクに戻る。
  段ボール、避けながら。
 
  カタカタカタカタ、キーボードの音が鳴り響く、
 
あゆみ
先輩のせいだ。
 
雅紀
ええええ、俺?俺じゃないでしょ、
 
あゆみ
先輩のせいだ。
 
雅紀
えええええ、頼んだの原川さんでしょ、俺のせいじゃないでしょ、
 
あゆみ
私が成果品用ファイルとコピー紙の番号タノメールに書いてる時、トイレットペーパー少なくなってるから、ついでにお願いしていい?って先輩言ってきたじゃないですか。先輩がお願いしてこなければ、こんなことには。
 
雅紀
そりゃあそうかもだけど、間違えて頼んだのは、君だよ、その事実変わらないよ、
 
あゆみ
うわああああああ、
 
雅紀
うるさいなあ。
 
あゆみ
このう、
 
  あゆみ、段ボールを蹴る。
 
あゆみ
このう、このう、このう、
 
雅紀
すっげえな、デキルキャラ造形作り上げようとしていた人とは思えないな。
 
あゆみ
このう、このう、このう、
 
雅紀
原川さん、やめて、それは違う、トイレットペーパーは悪くない、
 
あゆみ
悪いのは私ですか。
 
雅紀
いや、うん、誰も悪くない、悪いのは社会よ、このクソみたいな社会がただただ悪い。
 
あゆみ
あああああああ、もうやだ。
 
  あゆみ、床に寝転がる。
 
雅紀
あのう、仕事しようよ、
 
あゆみ
もうやだああああ、ああああああ、もうなにもかもやだあああああ、もう何にもしたくないーーー、あああああああ、タイムマシーンほしいいい、全部全部、全部全部、先輩のせいだああああ、
 
雅紀
俺じゃないって、っていうか、立ちな、まず、立ちな、今のこの状況こそ宮川さんに見られたらまずいよ。本当。
 
あゆみ
彼氏に振られました。
 
雅紀
持ち込まないで、プライベート、
 
あゆみ
え、彼氏に振られた、って私、言ってるんですよ。
 
雅紀
だから持ち込まないで、プライベートって言ってるの。
 
あゆみ
え、ひどくない?私、彼氏に振られたって言ってるのに、ひど、ツイートしよ、
 
雅紀
仕事しようよ、ツイートしてる場合じゃなく仕事しようよ。
 
あゆみ
ついでにこの段ボールだらけのトイレットペーパーだらけのオフィス、インスタあげよ。
 
雅紀
仕事しようよ。
 
  あゆみ、スマホで写真、カシャア。
 
あゆみ
写真、撮って貰っていいですか?
 
雅紀
あ、うん、
 
  あゆみ、段ボールから、トイレットペーパーを1パック取り出す。
  トイレットペーパーとあゆみのツーショット。
 
  カシャア。
 
あゆみ
ありがとうございます。
 
雅紀
うん、ま、ね、毎日辛いこともあるだろうけどね、そこは、ね、社会人だし、一応。
 
あゆみ
は?
 
雅紀
は?って君ねえ、は?、はダメでしょ。
 
あゆみ
ミイラごっこ、しません?
 
雅紀
しないよ。
 
あゆみ
なんかもう、全部どうでも良くなってきた。
 
雅紀
だろうね。
 
あゆみ
飲みに行きません?
 
雅紀
原川さん、落ち着いて、一旦、話聞いて、君、トイレットペーパー発注ミスっただけ、そんな大したミスじゃないよ、何故ならトイレットペーパーはいずれにしろ使われていくんだから。人間生きてる限りトイレットペーパー使ってくんだから。ただオフィスに圧迫感をもたらしてしまってるだけなの、段ボール置く場所ないから。段ボール置く場所あったらオフィスに圧迫感ももたらさないし、トイレットペーパー今後全然発注しなくて良くなるし、なんの問題もないのよ、ただ、子会社だから、中小企業だから、オフィスパンパン感出ちゃってるけど、大丈夫よ、そんな大した問題じゃないのよ、宮川さんがきたらそりゃあ小言の一つや二つ言われるかもしれないけど、大丈夫よ、全然大した問題じゃない、聞き流せばいいんだから、川の流れのように、小言ってのはあーあー、って流れていくんだから、大丈夫、大した問題じゃないの。大した問題じゃないのに君が今ワーワー騒いでしまっているのは多分彼氏に振られたからだと思う。彼氏に振られたこととトイレットペーパーが大量に来てオフィスに圧迫感をもたらしてることが、なんだろう、君を混乱させている。混乱させて、何もかもどうでも良くしてる、飲みに行きたくなってる、けど、今就業中だから、落ち着いて、多分後悔するよ、ミイラごっことかして、騒いでるとこ宮川さんに見られるのが一番最大の非常事態だってこと、それ、わかるよね?
 
  あゆみ、段ボールを蹴る。
 
雅紀
わかってくれた、ありがとう、飲みにいくのも違うの、わかるよね。
 
  あゆみ、段ボールを蹴る。
 
雅紀
うん、おっけい、でも蹴って返事するのやめてくれない、怖くなるから。ゾワゾワしちゃうから。
 
あゆみ
おっけいでーす。
 
雅紀
うん、おっけい、おっけいなのはいいことだ、よし、仕事しよう。ちゃんと、仕事しとこう。
 
あゆみ
仕事、辞めようかな。
 
雅紀
仕事辞めなくていいのよ、そんな大した問題じゃないんだって。
 
あゆみ
大した問題じゃないなら、先輩が発注ミスったことにしてくれませんか?
 
雅紀
えええ、、、
 
あゆみ
私じゃなくって、先輩が大量のトイレットペーパー頼んでしまったってことに、ここは一つ。
 
雅紀
それはなくない、それは違くない。
 
あゆみ
大したことないんでしょ。トイレットペーパーの発注ミスなんて。
 
雅紀
だって、それは、君が、受け止めな、ちゃんとミスったってこと、君が受け止めなよ。
 
あゆみ
え、これ、私が悪いんですか?
 
雅紀
君だよ、どう考えても君だよ。
 
あゆみ
社会じゃないの?
 
雅紀
君、君がミスって、君が社内をトイレットペーパーだらけにしたの、受け止めて。
 
あゆみ
私、なんで彼氏に振られたんですか?
 
雅紀
知らないよ、彼氏に聞きなよ。
 
あゆみ
え、ちょっと聞いてきていいですか?
 
雅紀
仕事したまえよ、仕事するふりでもいいから、仕事したまえよ。
 
  あゆみ、トイレットペーパーを一つ取り出す。
 
雅紀
もう、知らない、俺、知らない、何にも言わない。好きにしな。
 
  あゆみ、トイレットペーパーを雅紀に巻いていく、
  雅紀、キーボードをカタカタしている。
 
雅紀
俺、本当、知らないから、俺、マジで本当もうなんも知らないから、っていうかマジでどうでも良くなってきた、なんで俺こんな仕事仕事言ってるんだろ、あああ、マジで、面倒、宮川さんに説明するのマジで面倒くなってきた、え、マジで飲みに行っちゃう?
 
あゆみ
振られた原因、癇癪起こすからだって、
 
雅紀
だろうね。っていうか、俺、ミイラにされてる?
 
あゆみ
癇癪起こすから?は?ふざけんなよ、癇癪起こしてナンボじゃん、ねえ、
 
雅紀
ある側面から見たら確かにあゆみちゃんの言ってることは正しいのかもしれない、しかしもう一方から見たら癇癪なんて起こされるとたまったもんじゃないよ、いや、マジで、これは一つ、あると思う、っていうか俺?ミイラにされてる?
 
あゆみ
4000年後とかに発見されてくれないかな、先輩のミイラ、4000年後もキーボードカタカタさせてるの。
 
雅紀
あ、俺、それ、聞いたことあるわ、即身仏って日本のミイラ、掘った穴にこもって、木魚打ちながら念仏唱えてミイラになってくの、俺、つまり、これね、念仏の代わりにキーボードカタカタしてるってこと?
 
あゆみ
えー、めっちゃありがたい、私のインスタ伸びまくってる、トイレットペーパーさまさま、トイレットペーパー発注ミスってマジで良かった。
 
雅紀
つまり、俺ってなんだかんだで世界平和願ってんだな、世界平和願いながらキーボードカタカタやってるわけだ。あ、レモンサワー、おかわりくださーい。
 
あゆみ
え、わたし、何飲もっかな。
 
雅紀
俺、今ミイラだけど、レモンサワーで爽やかになりたい。4000年後、俺、爽やかなミイラになっていたい。爽やかなミイラのままキーボードカタカタして、そこから入力された文字で解読されるわけ、このミイラはトイレットペーパー発注ミスったミイラですって。
 
あゆみ
発注ミスったのは私ですけど、
 
雅紀
いいよいいよ、俺のせいにしていいよ、歴史ってのは変わってしまうものなんだから。最後に、いい?
 
あゆみ
何?
 
雅紀
ミイラっぽいうめき声だけあげさせてくれない?
 
あゆみ
ミイラってうめき声あげるの?どっちかって言うとゾンビじゃない?
 
雅紀
うゔーーーーーーーーーーーー、うゔーーーーーーー。
 
  
  でかい段ボールから大量のミイラが出てくる。
 
 
ミイラ達
うゔーーーーーーーーーーーー、うゔーーーーーーーー、
 
 
  ミイラのうめき声に呼応してキーボードの音が世界を包み、
 
 
終わり。