新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

バスが来ない

 
★登場人物紹介
佐田原、叫びたがり
アンナ、歌いたがり
 
 
  バス停、雨。
  佐田原、アンナ、並んで傘をさして待っている。
  アンナは片方の手でスマホをいじっている。
 
  なかなかバスが来ない。
 
 
佐田原
こねーーーーーーーーーーーーーー、
意外にバスこねーーーーーーーーーーーーー、
すぐ来ると思ってたけどこねーーーーーーーーーーー、
雨つめてえーーーーーー、
雨やだあーーーーーー、
もうやだああああああ、
うわああああああああああああああああああああああああ。
 
 
  雨の音。
 
 
佐田原
春なのに、、
桜散っちゃうよ、
春なのに、
なみだあーがこぼれますう、ですよ、
春なーのにー、
春なーのにー、
バスこねええええええええええええええ、
意外にバス、こねえええええええええええええ、
うわああああああああああああああああああああああああ。
 
 
  雨の音。
 
 
佐田原
すみません。
叫びすぎました。
心の中だけど。
心の中だけど、叫びすぎました。
ダメですよね、心の中でも、心の中でも叫ぶって良くないよね。
え、心の中で叫んだことってあります?誰に話しかけてるんだろう。
え、僕結構あるんですよね、こういう時とか、こういう、雨降ってて最悪な時とか、めっちゃ何かしらやらかした時とか、電車ででっかい川越える時とか、うわあああああああって。心の中でね。心の中で叫んでるんだけど、声には出さずね。実際声には出してないんだけど若干。なんか若干こう、口がね、、若干だけ口が開いちゃいますね、心の叫びといえども。
若干口開きつつの、若干、っていうよりガッツリめに、お腹に力入っちゃいますよね、余波がさ、心の中の叫びの余波がさ、身体にも影響しちゃうってわけですよ、やってみましょうか?
、、、、。
いきますよ?
、、、、。
あ、なんかダメだ、いきますよ?とか言っちゃうとなんかダメだ。
、、、、。
あ、なんかダメだ、叫べなくなってきた。叫べなくなってきた。
今じゃない今じゃない。今、モードが高まってきてないからね、さっきまでバスこねえよどうなってんだ、雨冷えよ、どうなってんだ、どうなってんだどうなってんだって。どうなってんだゲージが限界突破しまくって叫んでたけど、心の叫び解説を心の中の自分が心の中の自分に話しかけることによって、なんか落ち着いちゃったなああああ、ってなわけ、わおわお、春だなあ、春雨だなああ、中華食いたい。
 
 
  アンナ、傘をたたむ。
  つまり、濡れ始める。
  佐田原、アンナの方を見ないんだけど、その様子を心の目で見てる。
 
 
佐田原
正気ですか?
 
 
  アンナ、傘を膝蹴りで折って地面に叩きつける。
  佐田原、心の目で見てる。
 
 
佐田原
これはー、隣にいちゃまずい人なんでしょうか?
 
 
  アンナ、目の前の道路にスマホをぶん投げる。
  スマホが車に踏まれる音。
 
 
佐田原
あ、
 
 
  アンナ、雨に濡れながら泣いている。
  佐田原、心の目で見ている。
 
 
佐田原
彼女のせいじゃない、彼女のせいじゃあないんだ、バスが来なかったからなんです、バスが来なかったから彼女がこうなってしまったんです、運転手さん、あなたは大罪人ですよ、運転手さんが予定通りの時刻にこのバス停に来てさえいれば、彼女こんなびしょ濡れにならずに済んだんだ。
 
アンナ
あなた、良い人ね。
 
佐田原
そう、良い人なんです。あ、え、あ、あ、え、あ、ええーと、なんで?
 
アンナ
心の中のあなたに心の中の私が話しかけているのよ。
 
佐田原
そんなバカなあ。
 
アンナ
心の中のあなたに、心の中の私が、心の中の声色で、心の中のSOSを、心の中のあなたの目に、心の中の中庭で、暖かな陽射しが照りつける心の中の中庭で、発し続けているのよ心の中のSOSを。
 
佐田原
心の外はいつも雨なのに、
 
アンナ
くだらない奴を捨ててやったわ。
 
佐田原
失恋ですか?
 
アンナ
またそうやって、いつも恋愛だの失恋だのに結びつける。
 
佐田原
え、だって、
 
アンナ
ウェ、ウェラ、ウィ、ワフィ、ム、シュラヒンナ、
 
佐田原
え、なんですか、
 
アンナ
ウェ、ウェラ、ウェ、ワフィ、ム、シュラヒンナ、
 
佐田原
え、なんですか?
 
アンナ
ゼリアンナ語の詩。
 
佐田原
ゼリアンナ語ってなんですか?
 
アンナ
雨はパセリが似合う。
パセリは海に浮かぶ。
だから遠く離れても、目をつぶって揺られていましょう。
 
佐田原
え、、、どういう意味ですか?
 
アンナ
寒い。
 
佐田原
傘、折っちゃうから。
 
アンナ
入れて、
 
佐田原
いやです。
 
 
  雨の音。
 
 
アンナ
え、入れてよ。心の中の傘に。
 
佐田原
あ、心の中の傘に?
 
アンナ
あ、うん、心の中の傘でいいから、
 
佐田原
あ、じゃあいいですよ、
 
 
  雨の音。
 
 
アンナ
暖かい。
 
佐田原
あ、まだ心の中の傘さしてないですけど。
 
アンナ
あ、まだなんだ。
 
 
  雨の音。
 
 
アンナ
あ、今、入ったんじゃない?今、心の中の傘に入ったくない?
 
佐田原
いや、待ってください、今、心の中の折り畳み傘を広げてるところです。
 
アンナ
心の中でさえ折り畳み傘なのね、心の中でさえ持ち運びやすさを重視しているのね。
 
佐田原
ああ、うまくいかない、心の中の折り畳み傘がうまく開かない。
 
アンナ
うん、もうなんでもいいから、普通に傘入れてくれない?
 
佐田原
ええええええええ、やだなあああああああ、ええええええええ、やだなあああああああああ。
 
アンナ
え、そんなやだ?
 
佐田原
え、だって自分で傘折っといてなんですか?それは?
 
アンナ
いや、うん、あるじゃない、情動的になることって人間誰しもあるじゃない?
 
佐田原
いや、ないっすよ、何言ってるんですか?
 
アンナ
やっちゃったなー、なんか一瞬情動的になって、ノリでスマホぶん投げて傘ぶっ壊しちゃったけど、やっちゃったなー、寒いもん、あー、あー、あー。
 
佐田原
え、心の中の笑い声、独特ですね。
 
アンナ
え、心の中の傘ってなんなの?
 
佐田原
いや、あなたが言い始めたんですけど、
 
アンナ
寒いんですけど。
 
佐田原
心の中が?
 
アンナ
どっちかっていうと心の外が、心の外が雨に濡れててめっちゃ今寒いんですけど。
 
佐田原
え、マジでなんで傘折っちゃうんですか?
 
アンナ
え、マジでなんでそんな頑なに傘に入れてくれないんですか?
 
佐田原
そうですね、なんか、あなたを見たら負けな気がするんですよ、今、雨に濡れて泣いてるあなたになんかアクション仕掛けちゃったら負けな気がするんですよ、なんだろう、なんかダメな気がするんですよ、関わってはいけないんですよ、私たち。バス停で同じバスを待ってる人って、ただそれだけのところからはみ出てはいけないと思うんですよ、私たち。
 
アンナ
でももうこうしてやりとりしてるじゃない。
 
佐田原
これは、心の中だから。
 
アンナ
え、なんで心の中で私たち、やりとりしてるの?
 
佐田原
知らないっすよ、あなたが話しかけてきたんでしょう、あなたが勝手に土足でズカズカと入ってきたんでしょう、僕の心の中の中庭の世界に、
 
 
  雨の音。
 
 
佐田原
うわあああああ、
 
アンナ
うるさい、うるさい、え、何何、うるさいうるさい、
 
佐田原
あ、やっぱ聞こえますか?
 
アンナ
やっぱ聞こえますか?って何、うるさいうるさい、何叫んでんの。
 
佐田原
あなただって今泣いてるじゃないですか?
 
アンナ
これは心の外だから、心の外の私は雨に濡れて泣きじゃくってて、心の中の私はあなたと喋っているわけだからうるさいのよ、急に叫ばれると。
 
佐田原
うわー。。。うわー。。。じゃ、これから僕どこに向けて叫べばいいんすか?
 
アンナ
いや叫んじゃダメでしょ。心の中だとしても叫んじゃダメでしょう。
 
佐田原
ま、そうっすよねー。
 
 
  雨の音。
 
 
アンナ
え、マジで傘、入れてくんない?
 
佐田原
買ってきたらどうっすか?心の中の貨幣で。
 
アンナ
おい、ふざけんなよ、心の中でボコボコにしてやっからな。
 
佐田原
バス来ないっすね、心の中のバスくらい来てくれてもいいのに。
 
アンナ
心の中のバスに乗って、心の中のiPodに電源入れて、心の中のイヤホンつけて、心の中の春の海にでも行きたいね。
 
佐田原
そして心の中のサーフボードに乗って、心の中のスキューバダイビング楽しんで、心の中のバーベキュー大会で肉とかジュージュー焼いたり、マシュマロジトーって焼いたり、余った心の中の玉ねぎで焼きそば作ったりして心の中の海を楽しむことができたらもしかしたら、もしかしたらあなたにも傘をさしてあげることができたかもしれないね。
 
アンナ
え、なんでそんな頑なに傘さしてくれないんですか?
 
佐田原
うわあああああああああああああああ。
 
 
  アンナ、驚いて佐田原見る。
 
 
佐田原
うわあああああああああああああああ、あ、間違えた、心の外で叫んじゃった、間違えた、いや!いやいや!間違えてない、これこそ、これこそ、俺の叫びだ!ふん!
 
 
  佐田原、傘を膝蹴りで折る。
  雨に濡れながら、
 
 
佐田原
うわあああああああああああああああ、心の中も外も、心の中も外も境界も上空も地中も海も、心の中の中庭も心の外のバス停も心の中のリビングも心の外のワンルームも俺の叫び声でいっぱいにしてやる、俺の叫び声でいっぱいにしてやんぞ、うわああああああああああ、バスこねえええええええええ、うわあああああああああああああああ、春だなああああああああああああああああああ。うわああああああああああああああああああああ。
 
アンナ
あの、すみません、
 
佐田原
ああああああああああああああ、
 
アンナ
あのう!すみません!
 
佐田原
ん、あ、え、ん、はい?
 
アンナ
あのう、よくないと思いますよ、こんな街中で大声あげたりするの。
 
佐田原
あ、え、
 
アンナ
よくないですよ、こんな街中で大声出して、周りの人に迷惑ですよ、わかりますよね?
 
佐田原
あ、はい、あ、え?、はい、
 
 
  アンナ、この場から去っていく。
 
  白い世界。世界は光で溢れている。
 
  一人残された佐田原のもとにバスが来る。
 
  佐田原、心の中のiPodを取り出して、心の中のイヤホンをつける。
 
  バスはいつも通り、駅方面へ向かう。
 
 
 
終わり。