新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

闇に入る

★登場人物紹介
雅紀、レジ袋もらう派
沙里、レジ袋もらわない派


「闇に入る」


沙里、鉱石の前で作業をしている。


沙里
いらっしゃいませー。


雅紀
どうも、


雅紀、棚の鉱石を一回り見ていく。
レジに近づいた時、沙里が話しかける。


沙里
石は、置く派ですか?つける派ですか?


雅紀
は?


沙里
あ、


雅紀
あ、すみません、あー、そういうのあるんですね、はじめてなんでなんにもわかっていなくて、


沙里
あ、はじめて買いに来たんですか?


雅紀
そうです、


沙里
インテリアみたいにして置く派とアクセサリーみたいにして飾る派にわかれるんですよ、だいたい、


雅紀
へー、


沙里
プレゼントですか?


雅紀
そうですね、


沙里
石言葉とかもありますので、そういうのも考えてみてもいいかもですね。


雅紀
石言葉ってあるんですね、花言葉みたいな、


沙里
そうですそうです、花言葉みたいですよね、


雅紀
へー、


沙里
この店はあんまりパワーとかエネルギーとか怪しいこと勧めはしないんですけども、一応、これ、どうぞ。


沙里、雅紀に紙を渡す。


雅紀
へー、いろいろあるんですね、


沙里
こういうの考えて選ぶのも楽しいですよ、


雅紀
ほえー、


雅紀、紙を見ながら、店内を一周する。
沙里、先ほどの作業を続ける。
雅紀、レジ近くに戻ってきて、


雅紀
水晶クラスターってなんなんですか?


沙里
クラスターって、コビット19の影響で世の中で使われ始めたんですけど、石業界ではクラスターってずっと言ってて、もともと群生て意味で、水晶が密集してる様を言うんですよ。


雅紀
へー、


沙里
水晶気になってる感じですか?


雅紀
うーん、プレゼントをって思ったんですけど、何を贈れば喜ばれるのか、全くわからなくて、、


沙里
そうですねー、このー、アメジストなんか最近人気ですね、


雅紀
あー、綺麗ですね、


沙里
最近石業界は木村拓哉特需でして、


雅紀
木村拓哉、なんかしたんですか?


沙里
突然ですが占ってもいいですか?って番組知ってますか?


雅紀
あー、見たことないですけど、聞いたことあります。


沙里
わたしもそうなんですけど、その番組の中で、木村拓哉さんがご自宅を公開されていて、そこにアメジストのおっきい鉱石が飾ってあったんですよ。これぐらいのやつ。


雅紀
でかいですねー、


沙里
それで、今アメジストめっちゃ人気です。


雅紀
へー、確かにすごい綺麗ですね、


沙里
これなんか、わたし好きだな、立体感あって、


雅紀
あー、なんか他のやつに比べてトゲトゲしてますね、


沙里
これとかも、


雅紀
あー、ちょっと花っぽくていいですね、形とか見るんですね、


沙里
そうですね、インテリアとして置いた時どうなんだろうと思いながら見たり、あと、こういうの、なんか混じってるじゃないですか、


雅紀
あー、混じってますね、


沙里
こういうのはちょっと高いんですよね、マニアにはたまらないらしいです、20,000円なんで、半額で10,000円です。


雅紀
へー、どうしよっかなー、花みたいなのもいいけど、トゲトゲしてるのも素敵だなあ、


沙里
これだと、15,000円なんで半額で7,500円、こっちだと半額で6,000円ですね、


雅紀
半額だらけですね、


沙里
今この店11周年セールで店内の品物全部半額なんですよ、


雅紀
11周年記念セールって、絶対12周年も13周年もあるでしょ、


沙里
まー、そうですかねー、


雅紀
うーん、これとこれどっちも同じ値段か、悩むなー、


沙里
水晶とかはもうちょっと高いんですよ、


雅紀
水晶クラスターですか、


沙里
ほらー、これでもう20,000円ですよ、


雅紀
はあー、でもいいですね、やっぱ透明の方が人気ですか、


沙里
そうですね、透明の方が綺麗ですよね、キラキラして、


雅紀
水晶クラスターもいいですね、ちょっと高いけど、


沙里
水晶って全部六角形になってるんですよ、わたしこの仕事やっててはじめて気づいて、すごーい、全部六角形だーっってある日、気づいたんですけど、すごくないですか、ほら、こんなちっちゃいのも六角形ですよ、


雅紀
ほえー、すごー、


沙里
あと、これ、わたし、好きなんです、


雅紀
あー、これ、ちょっと気になってました。


沙里
トレジャーメノウって言います。


雅紀
トレジャーメノウ、


沙里
この断面のすじみたくなってるところがメノウって言って、このぽっかり空いた穴が龍穴って言って、ここに運気が舞い込んでくると言われています。


雅紀
これは、ちょっと気になってたんですけど、ちょっと、なんというか、卑猥ですね、


沙里
あー、まあ、穴ですからね、あ、でもこれなんか色が薄くて可愛いですよね、


雅紀
あー、これ、可愛いですね、サメの口みたい、


沙里
わたしはこの緑っぽいのも好きです、


雅紀
あー、確かにずっと見てられるやつですね、


沙里
とっておきを紹介しましょうか、


雅紀
え、なんですか?


沙里
あ、でもちょっとあれかもしれない、苦手な人は苦手なので、


雅紀
教えてください教えてください、


沙里
これです、


雅紀
うわー、すご。


沙里
すごいですよね、


雅紀
え、これ、すごいですね、これ、え。綺麗ですね、


沙里
なんかブラックホールみたいじゃないですか、見ていると吸い込まれてしまいそうな、そんな穴じゃないですか、中もなんだかキラキラしているでしょう、そのキラキラもなんだか怖いというか、綺麗なんだけど、怖い、闇ってなんだろって思うんですよ、


雅紀
あー、これ、すごい、あれ、見入っちゃうな、あれ、これ、どれ、あれ、入ってないですか?今、窪みの中、入ってないですか?


沙里
このキラキラって闇の中でもキラキラ光るのかな、光があるからキラキラなのかな、


雅紀
うわー、すごい、これ、入っちゃってますね、吸い込まれそうとかじゃなくて、吸い込まれてますね、


沙里・雅紀


雅紀
に、


沙里
ってなんなんだろう、わたしたちはどうして闇を怖がるのだろう、こんなに美しいのに、こんなにも綺麗なのに、


雅紀
あれ、これ、どこ、どれ、これ、これってそれ、ここ、闇、あそこ、闇、あれれれれれ、


雅紀、起き上がる。
隣に沙里が寝ている。


雅紀
あれ?


沙里
なに?


雅紀
これ、


沙里
うん、


雅紀
どこ?


沙里
あたしんち、


雅紀
あれ、


沙里
電気つけて、


雅紀
え、電気、


沙里
電気、つけて、スイッチ、


雅紀
どこ、


沙里
もう、


雅紀
待って、


沙里
なに?


雅紀
つけないで、


沙里
なんで、


雅紀
なんか、


沙里
なに、


雅紀
怖い、


沙里
何言ってんの?


雅紀
あ、


電気着く。


沙里の部屋の真ん中に大きな穴がある。


沙里
何驚いてるの?


雅紀
え、だって、


沙里
ずっと吸い込まれているのよ、わたしたち、


雅紀
わたしたち?


沙里
わたし、と、あなた、で、わたしたち、


雅紀
吸い込まれている?


沙里
行こうか。


雅紀
え、うん、


二人、手をつないで穴に入る。


獣のような声が聞こえてきて、


終わり。