新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

ダンサーインザ電車

☆登場人物紹介

佐田原、青年、猫舌
奈良井さん、女、謎多き女



ガラガラの電車の中、


佐田原、座席に座っている。


プシュー、ピンポンピンポンピンポンピンポン、と開いたドアから、奈良井さん、入ってくる。
奈良井さん、マスクと大きめのサングラスと頭にフィットしたフードによりほとんど顔が見えない。




佐田原の近くに座る。


ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、


奈良井さん、指を伸ばすストレッチを始める。


ガタンガタン、ガタンガタン、


奈良井さん、腕を伸ばすストレッチを始める。


ガタンガタン、ガタンガタン、


奈良井さん、足を伸ばすストレッチを始める。


ガタンガタン、ガタンガタン、




佐田原
うわー、うわー、ダンサーだー、多分、多分ダンサーだー、すげー、ダンサーだー。




奈良井さん、ついには立ち上がり、己が求める動きを始める。




佐田原
うわー、やっぱダンサーだよー、これ絶対ダンサーだよー、舞台の外でも、舞台の外でもダンサーなダンサーだよー、舞台の外でも自分が踊りたいという衝動が起これば踊っちゃうタイプの生粋の、生粋のダンサーだよー、




奈良井さん、ハミングで歌を奏で始める。




佐田原
うわー、ダンサーか?これは、これはダンサーか?ハミングで歌っているけどもこれはダンサーか?あれれ、もしかして、ダンサーじゃない、もしかして自分の勝手なイメージで、電車の中でストレッチとかしちゃう人ってダンサーっぽいなみたいなイメージで、勝手に決めつけちゃっただけなのかしら?




奈良井さん、複数のつり革を駆使して空中を舞う。




佐田原
ダンサーだー、これはダンサーだー、指の動きがダンサーだー、足先まで満たされている具合がダンサーだー、やったー、ダンサーだー、




奈良井さん、歌い始める。




佐田原
ダンサーじゃないー、ダ、ダ、ダ、ダンサーじゃないー、シンガーだー、シンガーソングライターか、シンガーだー、


奈良井さん、体操のつり輪競技の動きを始める。


佐田原
わーーーーーー、ダンサーじゃないー、体操選手だーーーー、体操選手の動きだーーー、前方屈身二回宙返り懸垂だーーーー、わーーーー、


奈良井さん、空中へと舞い、見事に着地する。


佐田原
わーーーー、


奈良井さん、コンテンポラリーなダンスを始める。


佐田原
ダンサーだあーーーーーー、だーーーーんーーーーさーーーーあーーーーだーーーーあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーうおーーーーー、


プシュー、ピンポン、ピンポン、穴街ー、穴街ー、


駅員、現れる。


駅員
お前、うるさいぞ!

佐田原
え、え、だって、

駅員
何叫んでんだよ、迷惑だろうか、ちょっと駅員室まで来てもらうよ、

佐田原
ああ、ちょっと待って、待って、だって、あの人が、あの人が、ダンサーだったんだもの、

駅員
何をわけのわからないこと言っているのよ、来なさい、

佐田原
ええ、だってだって、ダンサーが、ダンサーが、いたんですものー、


佐田原、駅員に連れて行かれる。


奈良井さん、元の席に座っている。


ガタンガタン、ガタンガタン、


終わり。