新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

なごり雪における3つの名残りと愛の錯乱

登場人物

アンナ 歌手。
政岡 喋りたがり。




アンナと政岡、並んで立ってる。




アンナ
汽車を待つ君の横で僕は、時計をー、気にしてる。季節外れの雪が、降ってるー、


政岡
うん、そう、汽車を待つ君の横でですね、汽車を待つ君の横で僕という一人称が時計、つまり時間ですね、を、気にしてる、つまりいつ汽車がやってくるだろうか、と、発車時間はもうすぐだと思っているのか、まだしばらく大丈夫だと思っているのか、とにかくとにかく時間を気にしてるわけだ、タイムリミットを気にしてるわけで、そんな待ってるという時間の中で季節外れの雪がポロポロと、いや、パラパラと、降っていますというわけだ、そういう情景、はいどうぞ、


アンナ
東京で見る雪はこれが、さいーごねーと、寂しそうに君が、つぶーやくー、


政岡
ここで、君という二人称が東京でもう雪を見ることはない、これが最後だと、つまり東京を離れていくということがわかるわけだ、それを寂しそうにつぶやく、はい、ここ、つぶやくんですね、言うのではなく、つぶやく、こぼす、と言ってもいいかもしれません、はい、つぶやくとは、どういうことですか、と、伝えようとしてませんよね、一人称である僕に、つまり彼女は彼女のためにこの言葉をつぶやく、わけで、こぼれてしまう、わけで、ここから会話を発展させようだとかを考えていない、あくまでも、つぶやきであり、それが寂しそうに見えているのはあくまでも僕という一人称の視点であるんだけれども、少なくとも僕には、彼女の東京への名残がみえているわけです、はい、


アンナ
なごーりー雪ーもー、降るー時ーをー知りー、ふざーけーすぎーたー、きせーつのーあとーでー、


政岡
こーこーで、二つの名残がみえてくるわけだ、彼女が抱えている東京への名残と季節が変わるのが惜しいとのごとく降る雪、つまり、なごり雪、この雪が降るのはふざけすぎた季節の後。さあさあ、ふざけすぎた季節とは何かね、季節がふざけるとはどういうことだね、もう一度今の所からお願いします。


アンナ
なごーりー雪ーもー、降るー時ーをー知りー、ふざーけーすぎーたー、きせーつのーあとーでー、


二人
今ー、春が来てー、君ーはー、綺麗にー、なったー、


政岡
ズダダン、ズダダン、


二人
去年よりー、ずっとー、綺麗にー、なったー、


政岡
はい、ふざけすぎた季節とは何か、ふざけすぎた季節の後で、今、春が来て、今、君は綺麗になった。今、そう今なんです、今、春が来たんです、今、君は綺麗になったんです、今までは春でなかったんです、今までは君は綺麗でなかったんです、すみません、言い過ぎました、綺麗ではあったかもしれないのだけども、少なくとも去年より、去年よりはずっと綺麗になったんです、これも僕の主観としての意見に変わりないのだけども、ふざけすぎた季節の後で今なんです、ふざけすぎた季節とは何か。春の前は冬、冬はふざけすぎた季節だろうか、季節がふざけるとはどういうことだろうか、季節はふざけない、ただ繰り返すのみである、春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来るだけである。どこにふざける要素があるというのか。ふざけすぎた季節は人生における季節なわけでしょう、人生においても春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来るでしょう、ふざけすぎることができた季節があったというわけだ、ふざけすぎた季節が今、過去になった、過去になった今、君は綺麗になった、そういう君の変化が、今の僕には見えているわけであります、二番にいきたまえ。


アンナ
動き始めた汽車の窓に顔をー、つけーてー、君が何か、言おおとしているー、うー、君の唇がさようならと、動くーことーがー、怖くてー、下を、向いーてたー、


二人
ときーがーくれーばー、おさーないー君ーも、おとーなーになるーとー、気づかなーいままー、


政岡
気づかないんです、気づかないままなんですよ、君が大人になっているということを、


アンナ
今ー、

政岡
だけど、だけど今、

アンナ
春が来てー、

政岡
今、気づいたんです、

アンナ
君ーは、

政岡
うー、

二人
きれいにーなったー、

政岡
と、今きづいたんです、

二人
去年よりー、ずっとー、

政岡
うー、

二人
きれいにー、なったー、


政岡
君ーがー去あったー、ホームにーのこーりー、


アンナ
おちーてはー、とけーるー、雪ーを、見ていたー、


政岡
残っていたのは誰だ、残っていたのは僕だ、君が去ったホームに残りですよ、あの灰色ぽいコンクリートの床を雪がポツリポツリと落ちる、それが溶ける、染み入る、濡れる、そんな光景を見ているのは誰だ、僕さ、ここで三つ目の名残が見えてきますよね、僕が持っている君への名残さ、気づかなかった綺麗さへの名残さ、それはふざけすぎた季節のせいかもしれないし、ふざけすぎた季節のおかげかもしれない、とにかく、東京への名残があったかもしれない彼女が、君が、去ったホームに残って、春になるのが惜しいかの如くに名残ってる雪が溶けていくのをみて、ふざけすぎた季節を感じ、名残っている、名残っているのは僕さ、君は大人にならないと、君はふざけすぎた季節の中で子供のままでいてくれるのだと、どこかで考えていたのは僕だ、気づかなかったのは僕さ、だけど気づいた今、君は大人になったのだと、ふざけすぎた季節は終わったのだと、名残っているのは僕さ、君も名残っていたし、雪も名残ってる、そう今、今なんです、今、


アンナ
今ー、


二人
春が来てー、きみーはー、綺麗にー、なったー、


政岡
ズダダン、ズダダン、

アンナ
うー、


二人
去年よりー、ずっとー、綺麗にー、なったー、


二人
去年よりー、ずっとー、綺麗にー、なったー、


政岡
去年よりぃ、ずうっと、綺麗にー、なったあ、


アンナ
うぅー、イェーエー、イェェィ、ララバイふぉおおお、ユウー、ふうー、うー、ふふぅー、はぁぁあーん。


間。


政岡
サンキュウどうもありがとう、ありがとうございましたー!


アンナ
ありがとうございました。


二人、深々と礼をする。


拍手がパラパラおこる。


終わり。