新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

亀おばさんが通るって

★登場人物紹介

雅紀、待ち合わせの十分前には着いてるタイプ。

早苗、待ち合わせの十分後に慌てて来るタイプ。


「亀おばさんが通るって」

 

  ある日曜日の午後。

  大きい通りの歩道にあるベンチに雅紀と早苗が座っている。

 

 

雅紀 

亀おばさんが通るって。

 

早苗 

亀おばさん、なにそれ?

 

雅紀 

なんでも亀を持って道を歩くおばさんさ。

 

早苗 

亀を持って歩く。どういうこと?

 

雅紀 

ほらこんなふうに、右手におぼんをのせているかのごとく亀を持っているのさ。

 

早苗 

え?なんで?

 

雅紀 

なんでって散歩じゃないかな。

 

早苗 

ああ、そうか。亀も散歩しないとね、いけないよね。

 

雅紀 

亀おばさんはこの道をよく通るらしいよ。

 

早苗 

そうなんだ。

 

雅紀 

だから、今日亀おばさんを目撃しようっていう会ね、

 

早苗 

えっ、今日亀おばさんを目撃しようって会なの、

 

雅紀 

えっ、いや?

 

早苗 

いやじゃないけど、

 

雅紀 

いやじゃないけど?

 

早苗 

もっと別のことしたい。

 

雅紀 

別のことって?

 

早苗 

映画見たり、デパート行ったり、

 

雅紀 

あのねえ、亀おばさんのことを低く見てるね、亀おばさんを映画や買い物の下に見てるね、

 

早苗 

見てない見てない、全然亀おばさんの方が上、

 

雅紀 

じゃあなんでそんなこと言うのさ、

 

早苗 

ごめん、私の自分勝手だったわ。今日は亀おばさんを見よう。

 

雅紀 

分かってくれたね。

 

早苗 

で、亀おばさんはいつ来るの?

 

雅紀 

うーん、多分そろそろ。

 

早苗 

ふーん。

 

雅紀 

時間まではわからないんだ。

 

早苗 

あっそうなんだ。

 

雅紀 

ここらへんで目撃情報が多発しているんだ。

 

早苗 

なんで亀おばさんに会いたいの?

 

雅紀 

えっ、なんで。なんでだろ。

 

早苗 

わかんないの?

 

雅紀 

そうだねえ。右手に亀を持って歩いてるんだよ。会いたくない?

 

早苗 

まあ、会いたいけど。

 

雅紀 

持つってなんだよ、持つって。すごくない?

 

早苗 

すごいけど。

 

雅紀 

だから会いたいんだよ。

 

早苗 

ふーん、でも会ってどうするの?

 

雅紀 

どうするって?

 

早苗 

だから、会ってなにしたいの?

 

雅紀 

なにするもなにも、見るんだよ、亀おばさんを。あと、亀を。

 

早苗 

えっ、見るだけ?話しかけたりしないの?

 

雅紀 

あのねえ、いくら亀おばさんって言っても赤の他人だよ、話しかけられるわけないじゃん、

 

早苗 

でも、わざわざ待ってまで目撃しようとするんだから、

 

雅紀 

だってなんて話かけるのよ、何の話するのよ、

 

早苗 

えっ、そりゃあ、あのう、すみません、なんで亀を持って歩いてるんですか?

 

雅紀 

それはナンセンスな質問だよ、

 

早苗 

えっ、なんで?

 

雅紀 

だって亀おばさんは亀おばさんだから亀を持って歩いてるんだから。

 

早苗 

えっ、どういうこと?

 

雅紀 

だから亀おばさんが亀おばさんじゃなかったら亀を持って歩いてないってこと。亀おばさんが亀おばさんだから亀を持って歩いてるんだよ。もし亀おばさんがオオサンショウオおじさんだったら、オオサンショウオを持って歩いてるおっさんってわけ。

 

早苗 

おかしくない?だって亀おばさんだって亀おばさんの前に一人の人間じゃん。亀おばさんが家に帰って、亀を水槽かなんかに戻して、ふう、今日もいい散歩だったなあとかそう思ってソファーに座ってってそうなったら、それはもう亀おばさんじゃないよね。亀を散歩したあとのおばさんだよね、

 

雅紀 

いや、亀おばさんの家にはソファーないでしょ、きっと和室で座布団でしょ。

 

早苗 

そこはどうでもいいの、亀おばさんも一人の人間だってことを言ってるの、だから、亀おばさんは亀おばさんだから亀を持って歩いてるっていうのはなんか違うくない?

 

雅紀 

まあ聞いて聞いて、亀おばさんはなんで亀を持って歩いているのか、さっき君が言ってて気付いたんだけどもね、亀おばさんは亀を散歩させるために亀を持って歩いてるんだ、今気が付いた。

 

早苗 

でも亀を散歩させるだけなら、手に持つ必要もないよね。

 

雅紀 

いや、そりゃあ、手に持たないとどうするの、そのまま地面を歩かせるの?危ないでしょ、踏まれるでしょ。

 

早苗 

えっ、亀ってどれぐらいの大きさなの?ちっさいの?

 

雅紀 

いやあ、亀、おっきいよ、亀、これぐらいらしいよ、

 

早苗 

うわお、亀、おっきいね。亀、危なくないでしょ、そんなにおっきかったら。踏まれないでしょ、

 

雅紀 

そうだねえ、でも普通に亀、歩かせたらアレじゃん、なんか変じゃん、うわっ、亀、歩いてるって、みんななるじゃん、

 

早苗 

亀、持って歩いてても変でしょ、むしろ、うおっ、亀、持って歩いてるって、みんななるでしょ、

 

雅紀 

ああ、だからあれじゃないかな、亀、歩かせると遅いじゃない、だから亀、持って歩いてるんだよ、亀おばさん。だからつまり亀おばさんは忙しいんだよ。

 

早苗 

亀おばさんて忙しいんだ。

 

雅紀 

そうだよ亀おばさん忙しいからさ、でも亀は散歩させなければならない、しかし亀をのろのろ歩かせている場合ではない、そこで、持つという手法を覚えたのさ、亀おばさん、これならそんなに時間がかからず散歩ができるよと、

 

早苗 

ちょっと待って、亀にとって散歩って必要なの?

 

雅紀 

えっ、

 

早苗 

だって亀、散歩してる人って見たことないよね、

 

雅紀 

確かに。

 

早苗 

亀、飼ったことある?

 

雅紀 

小学校の頃に一回。

 

早苗 

亀、散歩した?

 

雅紀 

した記憶はない。

 

早苗 

しなくていいよね亀の散歩は?

 

雅紀 

でも日向ぼっこはしなきゃいけないってしてたよ日向ぼっこ、

 

早苗 

日向ぼっこなんか家のベランダとか庭とかでよくない?

 

雅紀 

分かった、亀おばさんはジメジメしたとこに住んでんだよ。

 

早苗 

ジメジメしたとこ?

 

雅紀 

亀おばさんの家にはベランダとか庭とかなくて、隣にでっかい家かビルかが建っていて、もう四方八方建っていて、一日中陽が当たらないんだよ、どう頑張っても。こればっかしはどう頑張っても。だから亀おばさんジメジメしてるんだよ、亀おばさんジメジメしてて忙しいから亀を手に持って歩いてるんだよ。

 

早苗 

でも例えジメジメしてたとしても手に持って歩かないでよくない?家から出たすぐの道に陽のあたるところなんてあるでしょ、そこで歩かずに亀、日向ぼっこさせたらよくない?

 

雅紀 

だからさあ、あれじゃん、運動不足なんだよ亀おばさん。

 

早苗 

えっ、亀おばさん運動不足なの?

 

雅紀 

そう。わかんないけど、亀おばさん運動不足で、ああ運動しないといけないなあと思ってたんだよね、で、亀、家の前の道で日向ぼっこしてる時に、あっ歩けばよくねってなって、そしたら日向ぼっこと運動不足両方ともできて一石二鳥じゃねってなって、で、亀、歩かせたんだけど、亀、遅いなってなって、忙しいのに亀、遅いなってなって、で、亀、持つという手法に気付いて今に至るんだよ。だから、亀おばさんは、ジメジメしてて忙しいけど、亀、日向ぼっこさせないといけないからちょうど運動不足だぞっという一石二鳥的な状況に気付き、亀を手に持って歩いてるのさ。

 

早苗 

なるほど、亀おばさんの全貌に近付いてきたね。

 

雅紀 

あくまで推測の話だけどね。

 

早苗 

なんか亀おばさんはジメジメしてるって妖怪みたいになってきたね。亀を持って歩いてるおばさんじゃなくて、沼に住んでる亀の妖怪みたいな響きだね、

 

雅紀 

妖怪じゃないよ、えっ妖怪じゃないよ。えっ妖怪じゃないからね。

 

早苗 

わかってるよ。で、どうするの?

 

雅紀 

何が。

 

早苗 

来ないじゃない。

 

雅紀 

あのねえ、君は待つって言葉を知らないの、待つんだよ、これから、亀おばさんを。

 

早苗 

待つって言ったって、待ってる間どうすんのよ、

 

雅紀 

どうするもなにも待つんだよ、それだけだよ、どうしようもないじゃない、亀おばさんが来なければ、

 

早苗 

何もしないってこと、

 

雅紀 

何もしないっていうか、待つんだよ、

 

早苗 

何もしないってことだよね、亀おばさんが来なければ、ただ、このベンチに座って亀おばさん待ってるだけだよね、えー、いやだ、やっぱ映画行ったり、ショッピング行ったりしようよー、

 

雅紀 

いやだよ、今日は亀おばさんに会うんだから、

 

早苗 

じゃせめてなんかしよ、待ってる間、なんかしよ、

 

雅紀 

なんかって何よ、

 

早苗 

なんか、待ってる間できるなんか、

 

雅紀 

待ってる間にできるなんか、うーん、例えば?

 

早苗 

なんか、うーん、なんだろ、指相撲とか?

 

雅紀 

よし。レディー、ファイッ、

 

  指相撲をする、

 

雅紀 

はい、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。はい、勝ち。

 

早苗 

強い。

 

雅紀 

弱い。

 

早苗 

も一回。

 

雅紀 

レディー、ファイっ、

 

  指相撲をする。

 

雅紀

1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。はい、勝ち。

 

早苗 

ちょっと手加減してよ、

 

雅紀 

昔からこれだけは強いんだ、も一回する?

 

早苗 

もうしない。

 

雅紀 

そう。

 

早苗 

やっぱする。

 

雅紀 

よし、レディー、ファイッ、

 

早苗 

そのレディー、ファイッ、てのがなあ、

 

雅紀 

えっ、何ダメ?

 

早苗 

はっけよい、のこったでしょ、

 

雅紀 

はっけよい、のこった?

 

早苗 

相撲なんだから、

 

雅紀 

確かに。でも指だよ、

 

早苗 

指でも相撲だよ、指相撲だよ、

 

雅紀 

でもこちとら、レディー、ファイッで生まれてこの方やってきてるんだから、

 

早苗 

こっちだって、はっけよい、のこったっで、やってきてるんだよ、つまりあれじゃない?本拠地みたいなもんじゃん、東京ドームより甲子園の方が阪神としては戦いやすいよねっていうそういう話じゃん、

 

雅紀 

そういう話かな、

 

早苗 

とにかく二回、レディー、ファイッ、でやったんだから、次は、はっけよい、のこった、ね、

 

雅紀 

わかったわかった。

 

早苗 

はっけよい、のこったっ、

 

  指相撲をする。

 

早苗 

のこった、のこったのこった、

 

雅紀 

はい、1、2、3、4、5、6、7、

  

  早苗、小指を伸ばして、ベンチにつける。

 

早苗 

ロープ、ロープ、

 

雅紀 

ロープ?

 

早苗 

ロープだよ、知らないの、ロープ触ったらカウントストップだよ、

 

雅紀 

プロレスじゃん、

 

早苗 

プロレスじゃないよ、相撲だよ、

 

雅紀 

相撲にロープなんてないよ、

 

早苗 

相撲にはなくても指相撲にはあるんだよ、

 

雅紀 

あっ。

 

  フクロウおじさん、現れる。

  肩にフクロウを乗せている。

 

  二人、ガン見。

  

  フクロウおじさん、二人の前を通り過ぎる。

 

早苗 

ねえ。

 

雅紀 

うん。

 

早苗 

フクロウおじさんが来たね。

 

雅紀 

すごいね。

 

早苗 

すごいね。

 

雅紀 

すごいね。

 

早苗 

うん、すごいね。

 

雅紀 

でも亀おばさんじゃなかったね。

 

早苗 

亀おばさんよりすごいんじゃない。

 

雅紀 

亀おばさんよりすごいかな。

 

早苗 

なんで、なんで昼間っからフクロウ肩に乗せてるの、フクロウ、夜行性じゃないの。

 

雅紀 

うーん、やっぱり散歩かな。

 

早苗 

散歩って言っても、フクロウ、歩いてないからね、おっさんの散歩にフクロウ付き合ってあげてるみたいな感じだよね。

 

雅紀 

でもすごいよね、おっきく見えるよね、おっさん。

 

早苗 

えっ、おっさん?フクロウじゃなくて?

 

雅紀 

いや、もう、フクロウとおっさんで一体となってるわけじゃない、おっさんの一部としてフクロウがいる感じ、これってなんだろ、おっさんの肩って感じ、おっさんの肩がフクロウって感じ。

 

早苗 

何言ってるの、テリヤキバーガー食べたい、マック行こう、

 

雅紀 

えええ、このタイミングで、このタイミングでマック、

 

早苗 

テリヤキバーガー食べれるなら、どこでもいいよ、

 

雅紀 

えっ、えっ、もっとさあ、えっ、もっとさあ、フクロウおじさんに想いを馳せるってことができないの、えっ、テリヤキバーガー、今、おかしくない、今のテリヤキバーガー、

 

早苗 

だってもういいじゃん、フクロウおじさん見たんだし、マックかモスか行って映画かマルイか行こうよ、

 

雅紀 

まだ亀おばさんに会ってないよ、

 

早苗 

亀おばさんもういいじゃん、フクロウおじさん見たんだから、

 

雅紀 

ちょっと待ってよ、やめてよ、フクロウおじさんと亀おばさん同ジャンルに扱うのは、全然別物だから、全然別だからね、

 

早苗 

えっ、じゃあ、まだ待つの?

 

雅紀 

当たり前じゃん、

 

早苗 

もーう、

 

  早苗、スマホをいじりだす。

 

雅紀 

フクロウおじさんの振る舞い方は、フクロウが明らかに肩にいるのに、何ら気に止めず、これが俺の肩だとでも言うかのごとく、普通に歩いてる。そこにスゴさを感じると思うんだ。つまり、俺の肥大化、世界における俺の占める割合をフクロウによって広めている、そんなところがあると思うんだ。って、何やってるの。

 

早苗 

なんかパズルのゲーム。

 

雅紀 

なんかパズルのゲーム。

 

早苗 

だって亀おばさん待つんでしょ。

 

雅紀 

亀おばさん待つからって、なんかパズルのゲームするのかよ、

 

早苗 

えっ、ダメ?なんかパズルのゲームしちゃダメ?

 

雅紀 

ダメなわけないけど、なんかなあ、なんかなあ、それってどうなのよ。

 

早苗 

もういや、もういい、もういいじゃん、フクロウおじさん見たんだから、映画行こ、せっかくの休日なんだから、

 

雅紀 

映画映画て、何見るのさ、見たいものあるの。

 

早苗 

そんなの向こうへ行って考えればいいじゃん、いっぱいやってるよ、

 

雅紀 

じゃあ、一人で行きなよ、僕は亀おばさんを待つから、

 

早苗 

ひどい、やっぱり私の体だけが目当てだったのね。

 

雅紀 

えっ、なにそれ、えっ、なんでそうなるの、えっ、どういうことさ、

 

早苗 

だって私のこと何も考えてくれてないじゃない、

 

雅紀 

えっ、あっ、えっ、まじか、

 

早苗 

私と亀おばさんどっちが大切なの、

 

雅紀 

ちょっと待ってよ、君だよ、君に決まってるじゃない、

 

早苗 

じゃあ映画行こう、

 

雅紀 

それとこれとはさあ、違うじゃない、違うじゃない、それとこれとはさあ。

 

早苗 

何が違うの。

 

雅紀 

今日朝起きた時から、いや、起きる前から、昨日夜寝るときから、あっ、明日は亀おばさんに会ってみたい、明日こそはってなってたわけよ、でも君と会うって約束も大事だからさあ、でも君も好きだと思ったから、亀おばさん好きだと思ったから勇気を出して誘ってみたんじゃない、だっていつだってそうじゃない、やりたいやりたいって思ってるだけで行動に移せないもんだからさ、何事も。特に亀おばさんに会うなんてなかなか実行に移せないもんでしょ、でも今日はって思ったわけ。今日こそはあの噂の亀をまじまじと見てやるって、そんぐらいの情熱だよ、今日、僕がこのベンチに座っているのは、座ってるだけだけど、そんなところに君への愛が天秤にかけられるとは思わなかったよ、えっ、あっ、えっ、まじか、

 

早苗 

つまり映画に行きたくないってことね、

 

雅紀 

いや行きたくないことないんだよ、つまりそれとこれとは話が違うくてね、

 

早苗 

テリヤキバーガー買ってくる。

 

雅紀 

えっ。

 

早苗 

持ち帰りで。

 

雅紀 

ああ。

 

  早苗、はける。

 

  雅紀、しばらくぼーっとしている。

雅紀、スマホをいじりだす。

 

  フクロウおじさん、現れる。

 

雅紀 

あっ。

 

フクロウおじさん いいですか。

 

雅紀 

あっ、はい。

 

  フクロウおじさん、雅紀の隣に座る。

 

  雅紀、スマホをしまう。

 

  左肩のフクロウが雅紀の顔にスレスレ。

 

フクロウ 

ホーウ、ホホー。ホホー。

 

  雅紀、びっくりする。

 

フクロウ 

ホホー、ホホー。

 

  雅紀、びっくりしたと思われないように装う。

 

  フクロウおじさん、フクロウをさする。

 

フクロウ 

ホホーウ、ホホホホーウ。

 

  フクロウ、動く、

 

  雅紀の顔に微かにぶつかる。

  雅紀、平然と装う。

 

フクロウおじさん 

ちょっと休憩しようとカフェにはいろうと思ったんだけどね、ほら、連れてきているのを忘れていました。これじゃ、店には入れない。

 

雅紀 

はあ。

 

フクロウおじさん 

でもまあ今日は天気も良いし、ね、こうしてみるのもいいもんです。

 

雅紀 

はあ。

 

フクロウ 

ホーホホウ。

 

  雅紀、ぼーっと通りを眺めている。

 

  早苗、そ〜っと現れる。

  ビニール袋を腕にぶら下げ、手には気泡緩衝材(梱包する際用いる、手で押すと潰れるプチプチのやつ)。

 

  パッ、パッ、と潰す音がする。

 

雅紀 

あっ。

 

  早苗、何故か、頷く。

 

雅紀 

えーと。あっ、テリヤキバーガーは?

 

早苗 

ああ、混んでて。めっちゃ。混んでて。

 

雅紀 

ああ。

 

フクロウおじさん 

お連れの方がいましたか。

 

雅紀 

あっ、はい。

 

早苗 

あっ、あっ。

 

  フクロウおじさん、立ち上がる。

 

雅紀 

あっ、あっ。

 

  雅紀、立ち上がる。

 

雅紀 

あっ、いいですよ、座ってて、あっ。

 

フクロウおじさん 

いえいえ、先にいたのはあなたですから。

 

雅紀 

いやいや、でも先にいたからこそ。

 

フクロウおじさん 

ああ、ああ、そうですが。

 

  フクロウおじさん、去る。

 

  二人見送る。

 

  早苗、ぷちぷちしている。

 

早苗 

行っちゃったね。

 

雅紀 

うん、何してるの?

 

早苗 

プチプチ。

 

雅紀 

・・・いいね。

 

早苗 

いいでしょ。する?

 

  早苗、ビニール袋から気泡緩衝材を取り出す。

 

雅紀 

うん。

 

  二人、プチプチしている。

 

雅紀 

買ったの?

 

早苗 

マックの地下、百均だったの。

 

雅紀 

へえ。

 

早苗 

なに?どうなってああいう状況になったの?

 

雅紀 

座りたかったんだって。で、来て、座って。

 

早苗 

なんか話した?

 

雅紀 

あんまり。

 

早苗 

絶好の機会だったのに。

 

  二人、プチプチしている。

 

雅紀 

なんかなあ。

 

早苗 

なに。

 

雅紀 

なんかさあ、フクロウおじさんもフクロウ、肩に乗っけてるただのおっさんだったよ。

 

早苗 

そのままじゃない。

 

雅紀 

亀おばさんも亀、手に持ってるただのおばさんなのかな。

 

早苗 

多分ね。

 

  二人、プチプチしている。

 

雅紀 

あんまり会いたくなくなってきたなあ。

 

早苗 

映画。行く?

 

雅紀 

映画かー。

 

  二人、プチプチしている。

 

早苗 

でも、今の私たち、客観的に見るとすごく変だね。

 

雅紀 

えっ、ああ。

 

早苗 

二人でプチプチしてるって、ね、すごい。変ね。

 

雅紀 

ほんとだね。

 

早苗 

亀おばさんにフクロウおじさんと続き、プチプチアベックと言ったところかね。

 

雅紀 

映画行こうか、

 

早苗 

えっ、映画行くの、

 

雅紀 

うん、行こうか、

 

早苗 

いやだ、もうちょっとここで二人でプチプチしてようよ、

 

雅紀 

えっ、映画行かないの?あんなに行きたがってたのに、

 

早苗 

そんな気分でなくなったの。えっ、亀おばさん待たないの、あんなに会いたがってたのに、

 

雅紀 

そんな気分でなくなったのさ。

 

  二人、プチプチしている。

 

  雅紀、立ち上がる。

 

雅紀 

行こうか。

 

早苗 

えー。

 

雅紀

ほら、

 

早苗

うーん、ま、行くか。

 

  二人、プチプチしながら去る。