新頭町戯曲集

複数人の作家で作られる戯曲によるエセメタバース

頭町戯曲集について1 〜劇作家Z氏へのインタビュー〜

登場人物
Z氏・・・自称天才劇作家
インタビューアー・・・囲碁が趣味


頭町戯曲集について1 〜劇作家Z氏へのインタビュー〜


1幕


インタビューアー
今回は、演劇界において、演劇界のみならず、小説界にも芸能界にもアート界にもとどまることを知らずに、はたまた実社会においても何の実績を持たない自称天才劇作家Z氏にインタビューを行っていきたいと思います。
Zさん、よろしくお願いします。


Z氏
よろしく。
愛を持って応えます。


インタビューアー
あ、ありがとうございます。
愛のあるお応え、期待しています。
それでは、まずですね、何だかZさんが新たなプロジェクトを始めると事前アンケートにおいて伺ったのでありますが、こちらの方、どういったプロジェクトになるのか、ご説明の方、お願いできますでしょうか?


Z氏
もちろん、餅の論、略して餅論。
今日はそのために来たと言っても過言ではないからね。
ざっと説明していこうではないか。
新たな戯曲集を作ろうと考えています。
タイトルは「頭町戯曲集」
うーん、どうだろう、ねえ、君どう思います?頭町戯曲集って正直、この名前どう思います?良いと思う?


インタビューアー
え、あ、そーうです、ね、うーん、ま、あのー、ちょっと、ちょっとと言いますか、あのー、


Z氏
あ、ダメ?ダメ系の反応だよね?


インタビューアー
いや、違います違いますます、ダメではないですダメではないです、良いと思います良いと思うんですけど、ちょっと内容の方もまだ伺ってませんし判断できないと言いますか。


Z氏
あー、ま、そうだよね、内容の話聞かないとね、タイトルだけ聞かされても分かんないよね、そりゃそうだな、そりゃあそうだわ。納得。


インタビューアー
それでは、内容の方についてお聞かせくださいますでしょうか。


Z氏
えー、内容としましてはね、ま、内容というか、まずはコンセプトね、コンセプトなんだけれども、コンセプトって言葉の意味よくわからないんだけど、それっぽい意味合いで使ってるけど大丈夫かな?


インタビューアー
大丈夫です。コンセプト、どうぞ。


Z氏
コンセプトとしましてはですね、あれだ、俺思うんすよ。いや、私ね、思うんです。最近。
劇作家って最終形態しか求められてないと言いますか。
つまり戯曲ね。
戯曲って完成形態じゃないと発表できないというか、うーん、なんだろ、アレなんですよね、音楽とかって、この曲ひくぞおーってことをね、なくても適当にギター弾いたり歌ったりして遊べるじゃない?
こういうのが戯曲にもあってもいいよなーって思っているわけだ。
こう、デッサンみたいな、殴り書きみたいな状態の物を書いても良いと言うか、書いた方が良いんじゃないかって思い始めてるわけだ。
別役実さんのコントのレッスンて本に書いてた書き方なんだけれどね、
道具づくしだとか、虫づくしだとか、づくし系のエッセイみたいな本を別役さんは出していて、内容的には世の中に存在してないんだけどありそうな架空の道具だとか虫だとかをさもありそうに説明していて、いかに巧みな嘘をつくか、本当と思える嘘をつくか、そういうエッセイみたいな本を何冊か出しています。
それが何かって言うと、実はそのづくし系の文章は、本編の戯曲を書く前に助走として書いた結果らしいのね。
つまり別役さんは本編書く状態になるまでの助走として、アップとして、嘘を書いているわけです。それから本編の戯曲に取り掛かると全然感覚が違うらしいのです。良いらしいのです。
へー、そうなんだー、ってね、なるでしょう?


インタビューアー
はー、そうなんだー、ってなりますね、あー、なるほど、つまり別役さんはづくし系の文章それ自体を書こうとしていたというより、もちろん内容としてはこういう内容を書こうだとか考えていたかもしれませんが、アップとして、つまりスポーツ選手における軽いランニングやら柔軟運動みたいなものとして書いていた、というわけですか。それから試合に挑んでいる、みたいなイメージでしょうか?


Z氏
そうなんです、その通り、野球選手にとっての素振りだとか、サッカー選手の、なんだっけ、こう、足で、ボール跳ねさせるやつなんだっけ、あ、、、なんだっけ、


インタビューアー
リフティングですか?


Z氏
そーう!リフティング、リフティングリフティング!
そうそう、リフティングみたいな要素もあるんだと思うんですよね。
つまり劇作家もリフティングだとか素振りした方が良いに決まっているでしょう、って思うわけだ。
だけどねえ、だけどさあ、ねえ、困っちゃうよね。


インタビューアー
え、なんですか、何が困っちゃうんですか。


Z氏
僕は小学校時代野球部で、で、なんか努力しなきゃいけないわけじゃない。
同級生がさ、同級生のマッチってのがいたんだけど、マッチ今まで下手だったのに急にボンボン打つようになってさ、どうしたんだどうしたんだ、って、マッチすげーな最近、ってなってね、やっぱり聞くと努力してるって、毎日素振り何十回何百回してるって、言うわけです。
よーし、分かったと、おいらもしてやんぞって、おいらも毎日素振りしてめっちゃ打てるようになってやんぞーってやりはじめるんだけど、本当に僕は続かないの。十回でいいから毎日やろうって思っても続かない、すぐやめちゃう。
いやー本当すごいよね、マッチ、マッチ本当すごかったもんねー、めっちゃ打ってたもんねー、いやー、本当、最近本当にガチで思うけど、スポーツ選手だとか、本当にすごいよね、どんだけ努力してるのーって、スポーツ選手だけじゃないよね、世の中で活躍してはるすごい人たちは本当にすごいと、身に染みて、肌身に染みて感じますわ。


インタビューアー
え、あのう、何の話でしょうか。


Z氏
察してよ、僕の辛い過去を。
察してよ、僕の努力ができない日々を。
察してよ!


インタビューアー
察しました察しました、察しましたよ。
つまりZ氏は努力ができないと。


Z氏
そうなんです。


インタビューアー
努力してみても続かないと。


Z氏
その通り。ちゃらんぽらんなんです。どうすればいいでしょうか?


インタビューアー
ええー、と、何でしょう、私、相談されてます?人生相談みたいになってません、今?


Z氏
だって解決できることなら解決したいじゃない。


インタビューアー
え、あのー、今回の新プロジェクトについて、


Z氏
ああ、


インタビューアー
頭町戯曲集について、


Z氏
ああ、ああ、


インタビューアー
お伺いしたいのですが。


Z氏
ああ、そうだね、本当にそうだね、君の言う通りだ、いやね、全然あのー、あれしてるわけではなくて、ちゃんと繋がってるからね、まったく関係ない話してたわけではなくて、いや、面目なし面目なし、あのー、ね、つまり、こういうことあんまり言いたくないんだけど、僕は努力ができないらしいのです。オウマイゴット!オウマイゴットすぎません、ヤバくないですか、え、本当にヤバくない、この自白。


インタビューアー
え、ちょっと、あのー、涙目になってません?


Z氏
うん、ごめん、ちょっと泣きそう、なんか俺の人生なんだったんだろとか思えてきちゃった。


インタビューアー
あ、いやー、その、辛い部分、はしょって。
新プロジェクトについてざっくりと聞きたいだけですので、そのー、人生における辛い部分については、はしょっていいから、ね。


Z氏
やんなっちゃうよ!
マジで!
人生における辛い部分がこれ?
え、ショぼくない?
いや、あるよあるよ、人生における辛い部分もっとあるよ!
なんか、人間関係に悩んだりしてたよ!
俺だって、人間関係で辛いなーって思ったこととかあったよ!たくさん!
どうよ!
君、どう?君、君のー、人生における辛い部分って何よ?


インタビューアー
いや、私はー、あの、いや、今はね、新プロジェクトについて、頭町戯曲集について、あなたのお話を伺っているわけだから、


Z氏
え、聞かせてよ、君の人生における辛い部分聞かせてよ、ねえ、


インタビューアー
ええと、私の人生における辛い部分は関係ないのでは、、と思いますが、


Z氏
え、あるよ!
あるじゃない!
関係あるよ!
めちゃくちゃ関係あるよ!


インタビューアー
え、関係あるの?


Z氏
あるよ!
あるじゃない!
今まで何聞いてたんだ!


インタビューアー
え、だって、え、関係なくない、私の人生。
え、だってあなたの戯曲集でしょう、私は劇作家でもなければ、あなたと演劇活動をしているわけではありませんよね?


Z氏
はい、


インタビューアー
よね、そうですよね!


Z氏
はい、餅の論です。


インタビューアー
関係、あります?
私の人生における辛い部分。


Z氏
あるよ!
何言ってんだよ!
他人行儀かよ!他人事かよ!


インタビューアー
ええー、だって他人だもん。


Z氏
君、他人って言葉の意味分かってる?


インタビューアー
他人は、他人でしょ、分かりますよ。


Z氏
君本当に分かってるって言える?他人だぜ。


インタビューアー
分かってますよ、他人でしょ、他人は他人でしょう。


Z氏
他人っていうのは他の人って書くんだぜ、分かってる?


インタビューアー
分かってますよ、


Z氏
自分っていうのは自ずと分けるって書くんだぜ、知ってる?


インタビューアー
へえー、そうか、知ってたんだけど知りませんでしたね、はあー、そうか、


Z氏
身内ってのは、身の内側って書くんだぜ、内輪ってのは、内側の輪っかって書くんだぜ、分かってる?私ってのは、渡すんだぜ、己をさ、川を渡すようにさ、物を手渡すようにさ、己を渡すってのが私なんだぜ、相手ありきの言葉なんだぜ、私ってのはね、決して、私は私として存在していないんだぜ、意味分かる?


インタビューアー
はあ、なんとなく。


Z氏
お前は俺の他人か?


インタビューアー
催眠術かなんかかけようとしてます?


Z氏
もういいよ。


Z氏、退室する。


インタビューアー
ああ、ちょっと!Zさん、Zさーん。


インタビューアー、追いかけて出て行く。

頭町戯曲集について2 〜劇作家Z氏へのインタビュー〜

Z氏・・・自称天才劇作家
インタビューアー・・・囲碁が趣味


頭町戯曲集について 〜劇作家Z氏へのインタビュー〜


2幕


インタビューアー
はい、ええと、Z氏はバンホーテンのアイスココアが好きだということで、そちらの方をすすりながら、先ほどの話の続き、ええー、劇作家Z氏新プロジェクト、頭町戯曲集について、伺っていきたいと思います。Zさん、改めてよろしくお願いします。


Z氏
よろピク〜。


インタビューアー
ええー、先程は、大変失礼いたしました、改めてお詫びさせてください、申し訳ございませんでした。なんだか、大人気なかったと言いますか。聞かれたことに素直に答えたらいいのに渋ってしまいまして、本当に、ええー、申し訳ありませんでした。


Z氏
いいよいいよ、ダイジョウビダイジョウビ、過ぎ去ったことは気にしないで。こっちもごめんね。
お互い大人気なかったね、いや、本当そう思うよ。


インタビューアー
それでは、ですね、頭町戯曲集についての説明の続きを、聞かせていただければと思います。


Z氏
頭町戯曲集ねえ、実際どう思う?
なんか僕としてはやっぱ気になっちゃっているのが、どう思うよ、頭町戯曲集てタイトル名、ぶっちゃけ、ぶっちゃけ、どう思う?


インタビューアー
あのー、本当、タイトル名は、あのー、後から、もうさ、幾時間考えてもらっていいので、今は頭町戯曲集の説明をね、お願いします。


Z氏
いや、大事でしょ、タイトル名大事でしょ、キャッチーなの、キャッチーでビビッドにズバーンってくるのが必要でしょ、


インタビューアー
ええ、ええ、必要なんですけれども、Z氏、この時間は企画会議の時間ではないのですから。


Z氏
分かってるよ、俺だって大人さ。
酸いも甘いも経験してきた年頃の大人さ。
だけどさ、気になっちゃってるんだもん、
大丈夫かな大丈夫かなーって、このタイトルで大丈夫かな大丈夫かなー、怖いな怖いなーって、
ね、ちょっと紙とペンある?


インタビューアー
ありません、


Z氏
あるでしょ、紙とペンくらい、その大きなカバンに入ってるでしょ、ねえ、裏紙でもいいからさあ、ねえ。


インタビューアー
はいはい、えー、どうぞどうぞ、


Z氏
はい、どうもありがとう。


Z氏、紙に頭町戯曲集と書く。


Z氏
どうよ?


インタビューアー
はい。


Z氏
率直に、直感的にどう思う?


インタビューアー
そうですね、、漢字が多いですね。


Z氏
そ、れ、は、、、悪い意味?だよね?


インタビューアー
え、と、そうですね、どうでしょうか、率直に感じたことなので、どうでしょうか。


Z氏
でもだって、待って、岸田國士戯曲集も漢字だらけだし、森本薫戯曲集も漢字だらけだし、日本人の戯曲集は漢字だらけなのは当たり前じゃない?


インタビューアー
その当たり前を壊していくのが、現在を生きてる作家の務めなんじゃないですか?


Z氏
え、なに、じゃあ、なに、


Z氏、紙に、あたままち戯曲集、アタママチ戯曲集、と書く。


Z氏
違くない?


インタビューアー
違いますね、


Z氏
ひらがなはいかにもあたま悪そうだよね、


インタビューアー
カタカナは、名前みたいに見えますね。


Z氏
え、どういうこと?


インタビューアー
アタマが苗字でマチが名前で、アタマ、マチ、女性の名前みたいじゃありませんか。


Z氏
アタマって苗字なんかあるの?


インタビューアー
知らないですけど、俵万智みたいじゃないですか、タワラがあるんですからアタマもあってもおかしくないんじゃないですか?


Z氏
あー、なるほどね、
え、俺、アタママチじゃないよ。


インタビューアー
分かってますよ。


Z氏
改名しようかな、アタママチに、


インタビューアー
しなくていいですよ、漢字でいいですよ。
漢字でドバッと頭町戯曲集、いいじゃない、かっこいいじゃない、ふー。


Z氏
ごめん、そういうのやめてくれない?
ふー、とか、そういうの、本当にやめてくれない?


インタビューアー
すみません、調子乗りました。
では、決まりですね、あなたはアタママチではないし、ひらがなにしてあたま悪そうに見えたくもない。消去法として、決定です、こっちで決定、これがこのプロジェクトのタイトル、頭町戯曲集、なんです、それでその説明を、ええー、素振りみたいなことを書きたいってことでしたよね、その説明以外にももっとあるんでしょう?この頭町戯曲集について、説明したいことが。


Z氏
餅の論、


インタビューアー
それでは、よろしくお願いします。はい、どうぞ。


Z氏
ええと、先程の説明の続きを、させていただきたいと思います。
チュー。
えー、さっきですね、ええ、どこまで話したかな、チュー、
そうだね、劇作家にとっての素振りってのがあってもいいんじゃないかって話だすね。チュー。


インタビューアー
バンホーテン置いてもらっていいですか?


Z氏
え、なに?


インタビューアー
バンホーテン、一旦置いてもらっていいですか?


Z氏
なんで、


インタビューアー
チューチュー、ストローの音うるさいので、


Z氏
君ね、君がくれたんだよ、このバンホーテンのアイスココア、俺が持ってきたわけじゃないからね。


インタビューアー
分かってます、分かってますよ、分かってますけど、うるさいんですもの、チューチューチューチュー。


Z氏
え、君ね、君さ、俺あれじゃん、タバコ吸ってるわけではないよ、酒飲んでるわけでもないよ、コーヒー飲んでるのと同じよ、コーヒー飲みながら話したり打ち合わせたりするよね、それと同じだよ。


インタビューアー
あーーーーーーー、すみませんでした。どうぞ、チューチューチューチュー、お好きなだけ、お好きなだけチューチューチューチューしてください、しつくしてください。


Z氏
チュー。チュー。チュー。チューーーーーー。


インタビューアー
では、どうぞ、話の続き、お願いします。


Z氏
やっぱりタイトルの話なんだけれど、


インタビューアー
タイトルの話はもういい!
タイトルの話はもうおしまい!
おしまい!ですから!


Z氏
でも一個だけ、一個だけ言わせて、


インタビューアー
ダメ!ゼッタイダメ!


Z氏
ケチ。


インタビューアー
ケチで結構。


Z氏
こけこっこー。


インタビューアー
こけこっこーじゃねえよ!
はよ説明しろ!


Z氏
なんだその態度、ふざけるなよ。


インタビューアー
ふざけてんのはお前だろが!
手、でるぞ!


Z氏
え、手、出るの?


インタビューアー
手、出ますよ。


Z氏
やめて。


インタビューアー
ちゃんと頭町戯曲集について説明していただければ、出ませんから。


Z氏
悪かった。本当にごめんね。
なんか俺、やっぱり不安なんだよね、タイトルが。
でも違うよね、タイトルは今、考えることじゃないものね。
ごめんよ、ちゃんと説明する。


インタビューアー
分かってくれましたか。


Z氏
やー、そろそろ説明しないと、俺、ケツの時間、きちゃうから。


インタビューアー
あ、ケツの時間、あるんですね。


Z氏
そうそう、ちょっと今日さ、ま、いいや、この話は。
サクサクと説明するね、サクサクと説明すると簡単な話で、
つまり劇作家にとっての素振りとかリフティングが大事だとかは思っているんだけど、
僕はそういう努力を毎日できないわけ、ここまで、さっき話したよね、
そこで、さっき僕は人生の辛い部分に少し感情かき乱されてしまったんだけど、
つまりモチベーションの話じゃない、やっぱり、ある程度見てもらって、あーだこーだ言われたらモチベーションにつながるわけじゃない。続けようって思えるわけよね。
素振りだとか人が見てないところでの影の努力みたいなの、そういうのができるの本当にすごいと思うんだけど、いや、そりゃ頑張ってやろうとは思ってるんだけど、あ、そっかむしろあれかもね、バッティング練習みたいな、なんか球団のキャンプの練習とかをファンが見に来るじゃない、そんなイメージの方が近いかもしれない。
試合じゃないんだけど、見てて楽しいぐらいの練習っていうか。そういうような戯曲を、まー気が向いたら、可能であれば二週間に一度ぐらいのペースで発表していきたいですね。


インタビューアー
なるほど、そのバッティング練習のような、本試合とは別の戯曲集を作るっていうのが今回の目的といったわけでしょうか?


Z氏
目的というのはちょっと違いますね。
どっちかというと結果です。


インタビューアー
ああ、そうでした、別役実さんのづくし系のエッセイが結果的にできたということを参考にしてるって言ってましたね。


Z氏
そうです。
別役さんのづくし系の話はバッティング練習というより、アップというか、試合に挑む状態作り、助走て意味合いが、コント教室読む限りでは強い気がします。実際はバッティング練習みたいな感覚もあったかもしれないし、その本読んだの、大分前なんでもしかしたら全然違うこと書いてるかもだけど。
ま、僕の場合の目的としては、試合状態に挑むって面ももちろんあるんですが、自分の演技の質の範囲の拡張と濃度を濃くするのが目的となりますかね。
その結果が戯曲集となっていくわけです。
そこで具体的に何をするのかって話になっていくのだけれど。
ごめん、ちょっといいかな?


インタビューアー
はい、なんでしょう?


Z氏
野球町戯曲集ってのはどうかな?


インタビューアー
頭町戯曲集の方が良いです。


Z氏
そうか、じゃ、ま続けよう。


インタビューアー
あ、ちょっと待ってください。


Z氏
なんだい。


インタビューアー
すみません、話の腰を折ってしまって申し訳ないのですが、Z氏がどういう劇作家なのか、どういう戯曲を書くのかを知らない人もいると思うのです。
演技の質や幅だとかの言葉が今出ましたが、Z氏のこれまでの戯曲作りにおいてどういったことをしてきたのか、ざっくりでいいのでお聞かせくださいますでしょうか。


Z氏
君ー、


インタビューアー
あ、だめですか?


Z氏
ファインプレーだよ、君、ナイスプレーだよね。
いや、その通りだよね、僕が今までしてきたことを知らないとあれだな、あれだよね。


インタビューアー
そうですね、あれですね。


Z氏
そうだそうだ、本当にそうだ。
まず一番最初に伝えておくべきことはだな、僕は書くことと演技することを同じものだと考えている劇作家だということですね。
劇作家は登場人物が喋る言葉を書くでしょう。
喋らない戯曲てのもあるけど、登場人物の行為を書くでしょう。
劇作家が文字にするまで、頭に浮かぶまで存在しなかった彼ら登場人物は何故喋るか、どうして行動をするかって話なんですけどね。
よく登場人物が勝手に喋り始めるんだ、勝手に動き始めるんだーって類の話を作家がしているのを聞いたことありませんか?
あれは勝手に登場人物が喋っているというより、自然と作家が登場人物を演技しているから勝手に喋り始めるのではないかとある日思ったのね。
そう考えたら世の中全て演技で構成されているようにも思えてきたわけで、小説もさ、鉤括弧でくくられている会話部分だけでなく地の文も作家の演技なんじゃないか、って。
桜の木が並んでいた、て書く人もいれば、桜の木が並んでいる、て書く人もいるし、桜の木は並んでいました、て書くかもしれないし、桜の木が連なっていたって書く人もいるし、演技だよね、こういう風な地の文にしようって演技のもと書かれているよね、って考えることできるよね、で、その演技によって、同じ内容を書いていたとしても書く人によってがっつりであったり些細であったり差異が生まれていて、えーと、なんだ、
ま、小説の話はここら辺でしまっといて、
戯曲の話ね、劇作家の演技によって登場人物が喋り始めるのではないかと考えた時、演技の質を変えれば出てくる言葉も変わるということに気付いたわけです。
演技って言ってもいろんな演技がありますね、四季のミュージカルみたいな演技や、能や歌舞伎なんかも演技だし、テレビドラマで見られるような演技から、バリバリの新劇みたいな演技だとか、ナチュラルに、現実のように自然な演技などなど、これは大雑把な演技の違いですが、演技の質ってのはもっともっと細かく分かれている。もっと言えば人それぞれの演技感でもうそれぞれの持ってる質は違うのだし、さっき話した小説の地の文も演技だし、街にあふれるポスターのキャッチコピーも演技だし、言葉がない身体表現やダンスなんかからも演技の感覚があるし、そういったありとあらゆる演技で挑むことによって、いろんな質の言葉が生まれるわけです。
今や、私は生まれるわけです、なんて言葉を使ってますが、これも演技です。
あ、ちょっとなんかあれかな、なんか、ですます調にしとくか、なんか丁寧に言っとくかて意識が、いや、意識的にというか無意識的に生まれているわけですね。
ここでさっき話した演技の質の範囲の拡張と濃度を濃くするて話につながるわけですけど、自分ができる演技ってのは、限界というか、うーん、こうか、無意識に出てくる演技には限界があると言った方がいいというか、
いや、限界て言葉は違うな、
質て考えるならば限界なんてないんだけど、種類て考えるならば限られてくるというか、
僕は登場人物が喋り続ける事態に気付いた時ですね、無意識に出てくる言葉に身を任せて書いてみたりしたんですが、面白いっちゃ面白いんですが、あれなんですね、結局は自分からの質からはみ出ない感覚があって。それもそれで面白いんですけどね、うん、なんかはみ出ない感じがあって、
演技を変えるって結構意識的に変えなければいけませんよね、そう、ここです、あーなるほど、演技は意識的に変えるんだけど、言葉は無意識的に反応してる、これが、今現段階で考えている理想というか、そう、意識的に変えなきゃいけないんですよね、そうそう、で、意識的に変えるには、演技をインプットというか、自分の身体に落とさないといけないわけよね、
いや、だからさ、書くことと実際に演じることは僕の中で影響を与え合っているわけ、
実際の演技で得た発見やら他の人の演技を見ていて得た感覚やらが、戯曲上での演技に繋がるし、戯曲上での演技が、実際の演技で新たな感覚をもたらすかもしれない。
こう、矢印がさ、互いに向いているんだよね、役者と劇作家は。
ここです、ああ、なんかどんどん話しちゃうけど、物語ってのがあるよね、ストーリー、流れ、これさ、これを重視するかどうかってのが、最近考えていることで、あのう、さ、物語自体の面白さってのはもちろんあって、物語を頑張って考えていたんだけど、いい物語をー、てさ、良い構成をさー、て頑張ってたんだけど、最近は考えないようになりましたのです。
劇作家によって違うんだと思うんだけど、僕は圧倒的に物語を考えるのが苦手な劇作家らしいですね。
あのー、古畑任三郎のさ、松嶋菜々子の回があるんだけど、知ってる?


インタビューアー
知らないです。


Z氏
なんか松嶋菜々子は双子で、二人で一人の脚本家をしている話なんだけど、姉の方は家に引きこもっていてずっと書いてるんだけど、妹の方は社交性があって、マネージメントやらなにやらしているみたいな。で、妹の方が、あれ、妹の方じゃないか、姉の方か、あれ、どっちだろ、どっちでもいいんだけど、部屋でずっと書いてる方が、もう一人の社交性ある方を殺して、社交性ある方を部屋で殺して、あたかも自分が自殺したと見せかけて、社交性のある妹を演じて生きていこうとする話なんだけど、最後の方で古畑任三郎にダンス誘われて、部屋にこもってた方だから踊れなくてばれちゃうみたいな、いや、そんなストーリーはどうでもいいんだけど、ね、
松嶋菜々子が言うには、引きこもって書いてる方は言葉を書くのが得意で、社交性のある方は物語を考えるのが得意で、2人で1人の脚本家として成り立っていると言うわけです。
う、、ごめん、
この話、どうでも良かったかも、ただただ古畑任三郎の話したかっただけなのかもしれない。
物語自体の面白さがあるのは重々承知の助の上で言うのだけど、登場人物が物語を動かす、あるいは作っていくのが今の僕の理想というところですかね。
物語ありき、というか、最初に全部構成された中に登場人物を入れちゃうと、どっかでどっちかが折れなければいけない時が出てくる。
登場人物が勝手に行動すると物語的には困りますし、物語的にそういう流れだってなると登場人物は勝手に行動しなくなるし、もちろん登場人物が勝手に動くのが良いことなのかって見方もありますけど、今の僕としましては、勝手に動けば動くほど面白いですね、予想もしないセリフが出てくるのは大抵そういう時ですから。
うーん、でもそういう書き方もあるんだろうとは思うんですけどね、物語を完全に構成しちゃって、その中で生き生きと登場人物を動かすみたいな、いや、あるいは、あれかな、一応全体の流れは考えつつ、その都度フレキシブルに変えていくみたいな感じなのかな、
ま、とにかく、私としましては、最初に物語を決めきらずに登場人物が物語を動かす、動かすというより、登場人物が動いた形跡が結果的に物語になってるて感覚が一番向いている気がしているわけです。何故ならば物語を作るのが苦手だから。
そもそも物語の流れを抜きにして言葉自体の面白さで見せることも可能ではあると思っていて、ここから夏目漱石の話を実はしていきたいのだけども、
あーーーーー、長くなってきたね、今何時?


インタビューアー
今は7時です。


Z氏
7時!?
ダメだ、ケツカッチンだケツカッチンだ、ここら辺で、


インタビューアー
ええー、今終わりですか、プロジェクト内容話せてませんよ、


Z氏
え、そうか、まあ、じゃあいいや、また今度、また今度電話会談しよう。


インタビューアー
電話会談?


Z氏
いや、だってコロナの影響もあるし、


インタビューアー
ズームとかの方がいいんじゃ。


Z氏
いいよいいよそれで、じゃ、また、


インタビューアー
え、予定ってなんですか?


Z氏
君には関係ないじゃない、プライベートなことなのであるから。


インタビューアー
マジスカ、こんな宙ぶらりんなところでインタビュー終わるんすか、


Z氏
だって時間ないんだもん、早く帰んなきゃー、間に合わないよ。


インタビューアー
だから何に?
それだけ答えてくださいよ、こんな宙ぶらりんなとこで終わらされちゃ納得いきませんから。
しかも時間の大半、あんたが失踪してて追いかけるのに費やしてるんですから、
あとタイトルがあーだこーだとかさあ、ね、予定ってなんですか?


Z氏
・・・金曜ロードショー


インタビューアー
金曜ロードショー


Z氏
千と千尋の、


インタビューアー
続けましょう、


Z氏
なんでだよ、


インタビューアー
DVDで見れます。


Z氏
ちげーんだよ、ふざけんなよ、DVDじゃダメなんだよ、リアルタイムじゃなきゃダメなんだよ!


インタビューアー
また、いつかやるでしょう。


Z氏
いつかっていつだよ!
曖昧なこと言いやがって、
昔からそうだよ、いつかとか言う奴信用なんねえよ!
金曜ロードショー千と千尋見る、これ以上ない幸せがありますかってんだ、
いいかい、金曜ロードショーってのはテレビだぜ、映画館じゃないんだぜ、計画してんの、俺、今日の金夜をいかに楽しく過ごすか、千と千尋見ながらピザ食べたいの、コーラも飲みたいね、それでツイッターチラ見しながら、リアルタイムでみんなで千と千尋見てる感覚に酔いしれたいの、ね、最高でしょ!俺この計画今日の朝に思いついたんだけど、あ、今日そういえばインタビューの日だったーってなったけど、まあ、インタビューなんて何時間もかからんだろって思ってたらこれだよ、ああああ、なんでだよ、俺はただただ単純に千と千尋楽しみたいだけだっつうのに、なんだよ、そんな目で見んなよ!


Z氏、勢い余って机を叩くか、蹴るか、当たっちゃうかする。
すると、机の上に置いてあったバンホーテンの紙パックのアイスココアが地面に落ちる。


Z氏
あっ、


インタビューアー
あっ、


Z氏
あっ、やばい、あっ、


インタビューアー
あ、シミになっちゃう、


Z氏
あ、ちょっと、あ、ごめん、


インタビューアー
ちょっと、あ、拭くもの、拭くものありませんか、シミになっちゃう、


Z氏
あ、えっと、ごめん、ないな、


インタビューアー
ティッシュとかタオルとかありませんか、


Z氏
あ、どっかないかな。


インタビューアー
あ、トイレットペーパー、


Z氏
あっ、トイレットペーパー、とってくる、トイレ、いってくる。


Z氏、トイレに、


インタビュー
あ、


インタビューアー、頭町戯曲集と書かれた紙を床にこぼれたアイスココアの上に浸す。



幕。

バスが来ない

 
★登場人物紹介
佐田原、叫びたがり
アンナ、歌いたがり
 
 
  バス停、雨。
  佐田原、アンナ、並んで傘をさして待っている。
  アンナは片方の手でスマホをいじっている。
 
  なかなかバスが来ない。
 
 
佐田原
こねーーーーーーーーーーーーーー、
意外にバスこねーーーーーーーーーーーーー、
すぐ来ると思ってたけどこねーーーーーーーーーーー、
雨つめてえーーーーーー、
雨やだあーーーーーー、
もうやだああああああ、
うわああああああああああああああああああああああああ。
 
 
  雨の音。
 
 
佐田原
春なのに、、
桜散っちゃうよ、
春なのに、
なみだあーがこぼれますう、ですよ、
春なーのにー、
春なーのにー、
バスこねええええええええええええええ、
意外にバス、こねえええええええええええええ、
うわああああああああああああああああああああああああ。
 
 
  雨の音。
 
 
佐田原
すみません。
叫びすぎました。
心の中だけど。
心の中だけど、叫びすぎました。
ダメですよね、心の中でも、心の中でも叫ぶって良くないよね。
え、心の中で叫んだことってあります?誰に話しかけてるんだろう。
え、僕結構あるんですよね、こういう時とか、こういう、雨降ってて最悪な時とか、めっちゃ何かしらやらかした時とか、電車ででっかい川越える時とか、うわあああああああって。心の中でね。心の中で叫んでるんだけど、声には出さずね。実際声には出してないんだけど若干。なんか若干こう、口がね、、若干だけ口が開いちゃいますね、心の叫びといえども。
若干口開きつつの、若干、っていうよりガッツリめに、お腹に力入っちゃいますよね、余波がさ、心の中の叫びの余波がさ、身体にも影響しちゃうってわけですよ、やってみましょうか?
、、、、。
いきますよ?
、、、、。
あ、なんかダメだ、いきますよ?とか言っちゃうとなんかダメだ。
、、、、。
あ、なんかダメだ、叫べなくなってきた。叫べなくなってきた。
今じゃない今じゃない。今、モードが高まってきてないからね、さっきまでバスこねえよどうなってんだ、雨冷えよ、どうなってんだ、どうなってんだどうなってんだって。どうなってんだゲージが限界突破しまくって叫んでたけど、心の叫び解説を心の中の自分が心の中の自分に話しかけることによって、なんか落ち着いちゃったなああああ、ってなわけ、わおわお、春だなあ、春雨だなああ、中華食いたい。
 
 
  アンナ、傘をたたむ。
  つまり、濡れ始める。
  佐田原、アンナの方を見ないんだけど、その様子を心の目で見てる。
 
 
佐田原
正気ですか?
 
 
  アンナ、傘を膝蹴りで折って地面に叩きつける。
  佐田原、心の目で見てる。
 
 
佐田原
これはー、隣にいちゃまずい人なんでしょうか?
 
 
  アンナ、目の前の道路にスマホをぶん投げる。
  スマホが車に踏まれる音。
 
 
佐田原
あ、
 
 
  アンナ、雨に濡れながら泣いている。
  佐田原、心の目で見ている。
 
 
佐田原
彼女のせいじゃない、彼女のせいじゃあないんだ、バスが来なかったからなんです、バスが来なかったから彼女がこうなってしまったんです、運転手さん、あなたは大罪人ですよ、運転手さんが予定通りの時刻にこのバス停に来てさえいれば、彼女こんなびしょ濡れにならずに済んだんだ。
 
アンナ
あなた、良い人ね。
 
佐田原
そう、良い人なんです。あ、え、あ、あ、え、あ、ええーと、なんで?
 
アンナ
心の中のあなたに心の中の私が話しかけているのよ。
 
佐田原
そんなバカなあ。
 
アンナ
心の中のあなたに、心の中の私が、心の中の声色で、心の中のSOSを、心の中のあなたの目に、心の中の中庭で、暖かな陽射しが照りつける心の中の中庭で、発し続けているのよ心の中のSOSを。
 
佐田原
心の外はいつも雨なのに、
 
アンナ
くだらない奴を捨ててやったわ。
 
佐田原
失恋ですか?
 
アンナ
またそうやって、いつも恋愛だの失恋だのに結びつける。
 
佐田原
え、だって、
 
アンナ
ウェ、ウェラ、ウィ、ワフィ、ム、シュラヒンナ、
 
佐田原
え、なんですか、
 
アンナ
ウェ、ウェラ、ウェ、ワフィ、ム、シュラヒンナ、
 
佐田原
え、なんですか?
 
アンナ
ゼリアンナ語の詩。
 
佐田原
ゼリアンナ語ってなんですか?
 
アンナ
雨はパセリが似合う。
パセリは海に浮かぶ。
だから遠く離れても、目をつぶって揺られていましょう。
 
佐田原
え、、、どういう意味ですか?
 
アンナ
寒い。
 
佐田原
傘、折っちゃうから。
 
アンナ
入れて、
 
佐田原
いやです。
 
 
  雨の音。
 
 
アンナ
え、入れてよ。心の中の傘に。
 
佐田原
あ、心の中の傘に?
 
アンナ
あ、うん、心の中の傘でいいから、
 
佐田原
あ、じゃあいいですよ、
 
 
  雨の音。
 
 
アンナ
暖かい。
 
佐田原
あ、まだ心の中の傘さしてないですけど。
 
アンナ
あ、まだなんだ。
 
 
  雨の音。
 
 
アンナ
あ、今、入ったんじゃない?今、心の中の傘に入ったくない?
 
佐田原
いや、待ってください、今、心の中の折り畳み傘を広げてるところです。
 
アンナ
心の中でさえ折り畳み傘なのね、心の中でさえ持ち運びやすさを重視しているのね。
 
佐田原
ああ、うまくいかない、心の中の折り畳み傘がうまく開かない。
 
アンナ
うん、もうなんでもいいから、普通に傘入れてくれない?
 
佐田原
ええええええええ、やだなあああああああ、ええええええええ、やだなあああああああああ。
 
アンナ
え、そんなやだ?
 
佐田原
え、だって自分で傘折っといてなんですか?それは?
 
アンナ
いや、うん、あるじゃない、情動的になることって人間誰しもあるじゃない?
 
佐田原
いや、ないっすよ、何言ってるんですか?
 
アンナ
やっちゃったなー、なんか一瞬情動的になって、ノリでスマホぶん投げて傘ぶっ壊しちゃったけど、やっちゃったなー、寒いもん、あー、あー、あー。
 
佐田原
え、心の中の笑い声、独特ですね。
 
アンナ
え、心の中の傘ってなんなの?
 
佐田原
いや、あなたが言い始めたんですけど、
 
アンナ
寒いんですけど。
 
佐田原
心の中が?
 
アンナ
どっちかっていうと心の外が、心の外が雨に濡れててめっちゃ今寒いんですけど。
 
佐田原
え、マジでなんで傘折っちゃうんですか?
 
アンナ
え、マジでなんでそんな頑なに傘に入れてくれないんですか?
 
佐田原
そうですね、なんか、あなたを見たら負けな気がするんですよ、今、雨に濡れて泣いてるあなたになんかアクション仕掛けちゃったら負けな気がするんですよ、なんだろう、なんかダメな気がするんですよ、関わってはいけないんですよ、私たち。バス停で同じバスを待ってる人って、ただそれだけのところからはみ出てはいけないと思うんですよ、私たち。
 
アンナ
でももうこうしてやりとりしてるじゃない。
 
佐田原
これは、心の中だから。
 
アンナ
え、なんで心の中で私たち、やりとりしてるの?
 
佐田原
知らないっすよ、あなたが話しかけてきたんでしょう、あなたが勝手に土足でズカズカと入ってきたんでしょう、僕の心の中の中庭の世界に、
 
 
  雨の音。
 
 
佐田原
うわあああああ、
 
アンナ
うるさい、うるさい、え、何何、うるさいうるさい、
 
佐田原
あ、やっぱ聞こえますか?
 
アンナ
やっぱ聞こえますか?って何、うるさいうるさい、何叫んでんの。
 
佐田原
あなただって今泣いてるじゃないですか?
 
アンナ
これは心の外だから、心の外の私は雨に濡れて泣きじゃくってて、心の中の私はあなたと喋っているわけだからうるさいのよ、急に叫ばれると。
 
佐田原
うわー。。。うわー。。。じゃ、これから僕どこに向けて叫べばいいんすか?
 
アンナ
いや叫んじゃダメでしょ。心の中だとしても叫んじゃダメでしょう。
 
佐田原
ま、そうっすよねー。
 
 
  雨の音。
 
 
アンナ
え、マジで傘、入れてくんない?
 
佐田原
買ってきたらどうっすか?心の中の貨幣で。
 
アンナ
おい、ふざけんなよ、心の中でボコボコにしてやっからな。
 
佐田原
バス来ないっすね、心の中のバスくらい来てくれてもいいのに。
 
アンナ
心の中のバスに乗って、心の中のiPodに電源入れて、心の中のイヤホンつけて、心の中の春の海にでも行きたいね。
 
佐田原
そして心の中のサーフボードに乗って、心の中のスキューバダイビング楽しんで、心の中のバーベキュー大会で肉とかジュージュー焼いたり、マシュマロジトーって焼いたり、余った心の中の玉ねぎで焼きそば作ったりして心の中の海を楽しむことができたらもしかしたら、もしかしたらあなたにも傘をさしてあげることができたかもしれないね。
 
アンナ
え、なんでそんな頑なに傘さしてくれないんですか?
 
佐田原
うわあああああああああああああああ。
 
 
  アンナ、驚いて佐田原見る。
 
 
佐田原
うわあああああああああああああああ、あ、間違えた、心の外で叫んじゃった、間違えた、いや!いやいや!間違えてない、これこそ、これこそ、俺の叫びだ!ふん!
 
 
  佐田原、傘を膝蹴りで折る。
  雨に濡れながら、
 
 
佐田原
うわあああああああああああああああ、心の中も外も、心の中も外も境界も上空も地中も海も、心の中の中庭も心の外のバス停も心の中のリビングも心の外のワンルームも俺の叫び声でいっぱいにしてやる、俺の叫び声でいっぱいにしてやんぞ、うわああああああああああ、バスこねえええええええええ、うわあああああああああああああああ、春だなああああああああああああああああああ。うわああああああああああああああああああああ。
 
アンナ
あの、すみません、
 
佐田原
ああああああああああああああ、
 
アンナ
あのう!すみません!
 
佐田原
ん、あ、え、ん、はい?
 
アンナ
あのう、よくないと思いますよ、こんな街中で大声あげたりするの。
 
佐田原
あ、え、
 
アンナ
よくないですよ、こんな街中で大声出して、周りの人に迷惑ですよ、わかりますよね?
 
佐田原
あ、はい、あ、え?、はい、
 
 
  アンナ、この場から去っていく。
 
  白い世界。世界は光で溢れている。
 
  一人残された佐田原のもとにバスが来る。
 
  佐田原、心の中のiPodを取り出して、心の中のイヤホンをつける。
 
  バスはいつも通り、駅方面へ向かう。
 
 
 
終わり。
 

劇作家Z氏の制作発表会見〜新頭町戯曲集について〜

 
インタビュアー
ええー、みなさま、本日はお足元の悪い暴風雨の中、ご足労いただきありがとうございます。本日は、我らが頭町戯曲集の創始者、ガッド、創造主、エキサイティングプログラムコーディネーターである劇作家Z氏が、みなさまに重大な発表があるとのことで、この制作発表会見を開かさせていただきました。どうぞどうぞよろしくお願いいたします。それでは、早速ですが、Z氏に登場いただきましょう、軽やかな拍手でお迎えください。
 
  ぱち、ぱち、ぱち、ぱち、
 
 
Z氏
なんなのなんなの、全然人来てないじゃん、
 
インタビュアー
まあまあ、
 
Z氏
しかも来てるやつ、なんなの、見たことあるやつじゃん、宝田明じゃん、
 
先生の発表が楽しみできちゃいました。
 
Z氏
なんだよなんだよ、いつもやってる頭町大学の講義と変わらないじゃん。
 
  パシャー、パシャー、
 
Z氏
眩し、
 
インタビュアー
カメラマンを雇いました、制作発表会見っぽく、
 
  パシャー、パシャー、
 
Z氏
眩しい眩しい、やめて、目つぶれる。
 
インタビュアー
フラッシュ十倍で頼んでおります、制作発表会見っぽく、
 
Z氏
何そのオプション、あと、カメラデカくね、
 
  パシャー、パシャー、
 
Z氏
音うるさい!
 
インタビュアー
全然人気ないんですね、Z氏、
 
Z氏
え、なんでなんで、新頭町戯曲集の制作発表会見だよ、みんな気になるでしょ、
 
インタビュアー
いや、気になる気にならないっていうか、そもそも頭町戯曲集の存在を誰も知らないのではと思いますよ、
 
Z氏
バカな!
 
インタビュアー
ありし日の三四郎小宮のリアクションやめてください、
 
Z氏
バカな!
 
  パシャー、パシャー、
 
Z氏
やめろよ、三四郎小宮の漫才中のリアクション写真撮るのやめろよ。
 
インタビュアー
本題入ってくださいよ。
 
Z氏
本題に、入りまーす。
 
インタビュアー
お、今日はやけにすんなりですね。
 
Z氏
会見だから、何故なら会見だから、気合入ってるから、一世一代の発表だから、
 
インタビュアー
もうタイトルで何をするか大体想定つきますけどね、
 
Z氏
ええー、諸君、諸君て言っても宝田明くんしかいないけど、諸君、私たちはこれまで、頭町戯曲集という戯曲集をここ、はてなブログに立ち上げ、架空の町、頭町に生活する人々を戯曲にしていくというコンセプトで活動してきました。戯曲の内容自体はあまり作り込みすぎず、一筆書きのように書けるもの、劇作家の素振り感覚、登場人物の蓄積、アイデア集のようなニュアンスの中で、上演を前提としないがゆえになんでも書けるという自由な空間設定でもって、この頭町戯曲集は続いてきました。
 
インタビュアー
最初は二週間に一回あげるって言ってたのに、途中から二週間どころか半年くらい上げてないですよね、
 
Z氏
うるさいんだよ、色々あるんだよ、学校入っちゃったんだよ!いや、待って、違うんだよ、書こうと思ったら書けるんだよ、だけど、なんなんだもん、明日やろーって思ったら、なんか忘れちゃうことが多くて、
 
カメラマン
明日やろうはバカヤローだ!
 
Z氏
びっくしりしたあ!お前も喋んのかよ!カメラだけ撮ってろよ、
 
  パシャー、パシャー、パシャー、パシャー、
 
Z氏
眩しい、眩しい、音うるさ、スピーカーに繋がってない?そのカメラの音、
 
インタビュアー
で、ですよ、今日はその頭町戯曲集が進化して新頭町戯曲集になるってことですよね、
 
Z氏
です!つまりー、ですね、今まで、僕一人でやってきた頭町戯曲集を共同で、何人かで稼働しようってのが今回のプロジェクト、新頭町戯曲集になります。僕がリーダーしているカハタレの人たちを中心に、他にも何人かお誘いしたり、やりたいって人いたら参加してもらって、複数人でこの町を形作っていくというのが本事業の大目玉っちゅーことですね、だっちゅーの。
 
インタビュアー
なんかすごいことになってきましたね、
 
Z氏
え、だっちゅーの無視された。
 
インタビュアー
うん、で、それから、
 
Z氏
ええーと、ですね、つまり、誰がいつ、何を書いてもいい戯曲集、素振り感覚、アイデア集、登場人物の蓄積などこれまでやってきた頭町戯曲集の感覚は継続して、戯曲ってスタイルであればほぼ何をしてもいい、エッセイっぽくしてもいいですし、今僕が喋っているようなインタビュアーくんとのやり取り書いてもいいし、講義してもいいし、批評書いてもいいし、歌歌ってもいいし、料理教室開いてもらってもいい、なんだろう、なになにシリーズみたいなコンテンツ化して行ってもいいし、全然単発で書きたい物語書いてもいいし、バラエティ豊かにね、なんでもやってもいい、超アナログなメタバース空間を戯曲で立ち上げようというのがこの新頭町戯曲集のコンセプトになります。だから、カラオケ、とか、学校とかコンビニとかファミレスとか、この町の空間をもとに書いてもいいし、私はこの人物を掘り下げたいって感覚で登場人物を中心に書いて行ってもいいかなと。もしくは、戯曲形態の模索、実験的な戯曲の発表場として変なこと書いてもいいですし、この新頭町戯曲集で描かれた中から、カハタレの次の公演に繋がる要素が出てきたら最高だなって気がしています。
 
インタビュアー
なるほど、場所、人物、町、コンテンツ、いろんな観点から考えられるってのはとっかかりが色々あって面白そうですね、あと、批評やエッセイを劇作でやる、うーんどうなるのか想像つきませんが、戯曲にしがみついてる泥臭さがあっていいですね、
 
Z氏
うーん、つまりあれじゃん、こういう制作発表の場も戯曲になってくわけじゃん、なんか昔の人っていうか、小説家とか、一応戯曲とかもチャレンジしてるんだよね、面白いから面白くないかは別として、うん、そうね、なんかこの形態でできることってもっといっぱいあるんじゃないかって思ってて、つまり行為の記録だけでできてる文芸ですよ、肉声になるかもしれない言葉だけでできてる文芸ですよ、もっと演劇以外の人にも楽しんでもらっていいんじゃないかと思うんだけど、どうしても戯曲って上演ありきなものとして捉えられてしまうので、間口をね、ボンボン押し広げていこうとね、だから、戯曲書いたことない人もぜひ参加してもらえたら嬉しいですね、そしてもちろん戯曲書いてきたいって人にとってはなんだろう、誰かに読まれる機会、少なくともカハタレの人たちは読むので、あー、つまりこうだ、戯曲って本当面倒な媒体で、上演がないと書けないんですよ、いや、書けるんだけど書かない、書ききれない、一部のすごい人は上演がなくても書き切るんですけど、つまり何か発表の場がないと書けない、だけどやっぱ書けば書くほど、会話の感覚なり、リアリティの線引きなり、自分の尺度がわかっていくものなので、気軽に発表できる場としての戯曲集、素振り感覚の戯曲集、ついでに町づくりっていう、ま、そういうのを目指していますね、
 
質問いいでごわすか?
 
Z氏
はい、宝田明くん、君、ごわす口調だったっけ?
 
先程、登場人物の蓄積も継続して行なっていくと言ってましたが、登場人物を繰り返し登場させる、つまり手塚治虫スターシステム的なものや、ロシア演劇のストックキャラクターって俳優の起用方法など、若干意味合いは異なるんですが、これまでの頭町戯曲集は登場人物の贅肉作り的な要素が強かったように思います。しかし、それ、共同でやるってのは、同じ人物を違う作家が書くってことになるってことでしょうか?
 
Z氏
さすが宝田明くん、頭町大学の最優秀生徒なだけあるね、いや、このインタビュアーくんほんと、見習ってほしい、君がインタビュアーになって欲しい。
 
インタビュアー
うるさいんですよ、そろそろ僕にも名前をつけてくださいよ、
 
Z氏
大丈夫大丈夫、インタビュアーくんもいいとこあるよ、アイス差し入れしてくれたり、
 
インタビュアー
そんなどうでもいいこと褒めないで、っていうか僕、戯曲に書かれないところでアイス差し入れしたりしてたんだ!
 
Z氏
話戻しまーす、結論から言うと、同じ人物を違う作家が書くってことをどんどんやっていけたら楽しいと思ってます、登場人物をゲームキャラクターのように、マリオカートクッパ選ぶとかそう言う感覚で、今日はこの人物を掘り下げてみるか、とか、この人物のモーニングルーティン書いてみるかとか、この人物とこの人物を掛け合わせてみたらどうなるんだろうって、そう言う発想で共有されている人物たちの贅肉を増やしていきたいですね、
 
そこででごわすよ、気になるには、別の作家が書いたら、その登場人物は別の人物になるんでないかってことなんです、名前は同じでも、作家の文体や作風が変わるとその登場人物をその登場人物として繋ぎ止める要素が、そうですね、例えば、サザエさんとかちびまる子ちゃんとか複数の作家がいるけどちゃんとマルちゃんはマルちゃんじゃないですか、あれって多くは絵、アニメって要素、声、同じ声優、どうせわたしゃなになにだから、って口癖だとか、作家が変わってもその人物がその人物を保てる複数の要素がある気がしていて、だけど、戯曲って文字だけでごわすよ、そして今の私のごわす口調のように特徴的な語尾を意識して書いてみると、面白いっちゃ面白いかもですが、途端にある種のリアリティがなくなってしまうように感じるでごわす、アニメキャラなら成立するかもだけど、そういう世界ばかり書きたいわけではないでごわすよね、だからそろそろ私のこのごわす口調もそろそろやめて欲しいんでごわすが、
 
Z氏
宝田明くん、まず感謝を述べよう。君がこの発表会見の場にいてくれたこと、非常に助っているでますでごわすと。うーん。そこなんですよね、つまりこれは結構永遠の課題かもですね、文体が自立する共同劇作ができないのはここに起因します。だけど、まあ最初の方は実験段階としてやってみていいんじゃないかと思ってる。いや、意外に気にならなかったりするかもしれませんし、そう、ここ難しいけど、人間って多面的じゃん、ある日は親切さにあふれてあばあちゃんの荷物持ってあげるけど、次の日にはペットボトルを缶のみのゴミ箱に入れちゃったりするとかそういう部分含めて、登場人物の一貫性をそこまで厳しく取り仕切ろうとは思ってないです。作風が変わればその中の人物も別人に見えるかもだけど、喋り方の癖とか、思考の癖とか、何に興味持ちがちだとか、やってしまうことだとか、少なくともその人物に関する戯曲はインプットして、登場させるみたいなことはしたほうがいいかなと思ってます。あー、でもあれだなあ、最近天野天街の演劇「田園に死す」観て、ガラッとこれまでの思考が覆る感覚もありまして。あー、どうしよう、脇道それるかもだけどま、いいか、いや、つまりあれじゃない、登場人物の演技で戯曲はできていくって思ってたんだけど、違うかもなって、
 
インタビュアー
ええええええーーー、違うんですか!!
 
Z氏
え、違わないんだけど、全然違わないんだけど、待って待って、つまりね、そうじゃない方法もあるんだなって、それだけじゃないんだねって、
 
インタビュアー
うん、まあそりゃそうでしょう、
 
Z氏
あ、そりゃあそうなんだ、あ、まあつまりね、天野天街面白かったのは音なのよ、音の連鎖でセリフできてるのよ、
 
インタビュアー
ああー、
 
Z氏
これって登場人物主体じゃなくて、劇の世界観主体のセリフなんだなって思ったのよ、語尾と語頭が連なって、出来上がってく、いや、待って、セリフ→劇空間、劇空間→セリフ、どっちが先かわからないけど、少なくとも「田園に死す」では一番最初のシーンで、時計壊れてますか?壊れてますね。っていうこれだけのやり取りを執拗に繰り返すことで出来上がった劇空間があって、もちろん音響映像照明含めて、セリフが連鎖してく、そのセリフの連鎖がさらに劇空間を深めていく、相互矢印なものを感じたんだよね、つまり登場人物のセリフだけじゃないよね、劇空間さえつくりあげれば自然とセリフが連なっていくっていうものもあるよねって、これまで考えてきたこととはちょっと違うかもしれない、いや、違わないか、主体がどっちかなだけの気もするんだけど、そんな要素もある気がしていて、ま、そういうふうなものもね、試せたら面白いよね、きっと、
 
  パシャー、パシャー、パシャー。
 
Z氏
なんでだよ、なんでこのタイミングで写真撮るんだよ、空気読めよ、ええー、あと、なんかあります?
 
インタビュアー
そうですね、今までの頭町戯曲集も一応、この人物は歌歌う劇みたいなコンテンツ化してるものもありましたけど、新頭町戯曲集はそういうもの増やしたいのかなって印象受けたのですが、
 
Z氏
なんかね、批評とかね、そのう、批評とかね、なんだろう、批評じゃなくてもいいんだけどレビューとかね。いや、この劇観た喋りたい、とか、この映画観た、このYouTube観た喋りたいみたいなのができる場であってもいいかなと思うんだよね、だから、今喋ってる僕って、現実の僕とは全然違うんだけど、重なる自分の要素もある、いわばアバターじゃん。だからみんなアバター的登場人物を作って喋るみたいな雑な構造の戯曲ができても面白いかなと、劇作家Zの他に、科学者Yとか、傍観者Sとか、なんか面白そうじゃん、目指せエセメタバースですよ。うーん。あと絶対もっと喋ってくべきこといっぱいあると思うんだけどなんだろうな、あ、で、これ、ブログなので、コメント欄あるので、戯曲についてのフィードバックっていうか感想でいいけど送れるシステムを作っとく、いや、これ一番重要で、やっぱ何も返答こないのが一番持続できないんだなと思って、相互にモチベーション高めるシステムを形成していけたらと思ってます、あとそうだ、ここに出てくる中から来年の短編演劇公演の演目を形成できたらいいなあという目論見もありますね、あとなんかあるかな、駆け足で終わらせようとしてるけど、絶対言いたりてないことあると思うんだけど、ま、いいや、
 
インタビュアー
あれ、これそろそろ終わる感じですか?
 
Z氏
すみませんちょっと東洋医学の勉強しないといけないんで、そろそろ終わりまーす、ああーっと、なんでなんで、興味ある劇作家の方、もしくは戯曲書いてみたいって方、全然演劇やったことないけど戯曲書いてみようかなって方、匿名でもペンネームでもいいですし、なんでもいいので、興味ある方はいつでも連絡ください、kahatarekahatare@gmail.comまで、やり方や、ルールなどちゃんとまとめたものを作ろうと思っていますので送ります。4月くらいから始めようと思ってます、終わりでーす。お疲れ様でしたー。
 
カメラマン
さ、最後になんかポーズを、
 
Z氏
ポーズ?
 
  Z氏、少し悩み、
 
Z氏
だっちゅーの。
 
 
  パシャー、パシャー、パシャー、パシャー、パシャー、パシャー、パシャー、パシャー。
 
 
終わり。

スマホ教室2024

●登場人物紹介
奈良井さん、謎の女、だったが、今回は彼女の全貌に迫る。
 
 
  スマホ教室
 
  六人座ることができるテーブル、椅子、ホワイトボード。
  奈良井、ホワイトボードの横で、喋り始める。
 
 
奈良井
本日はスマホ教室2024にお越しいただきありがとうございました。日本も2024年となりましたが、ますます、ますますスマホが手放せない世の中となってきております。皆様一緒にスマホを使いこなしましょう!やんややんやー、っというわけで、ワタクシ、ナビゲーターを務めさせていただきます、奈良井、奈良井美澄と申します、どうぞよろしくお願いいたしますー。それではですね、皆さん、まず、簡単な質問なんですけれど、スマホスマホって、ご存知でしょうか?スマホって簡単にいうと略語なんですけど、なんの略か分かる方いますか?ええ、そうですね、あなた、緑の液状の方、どうでしょう。
 
ドロドロした液状の生物1
ああう、あああう、ああ。
 
奈良井
あああー、存じ上げない、大丈夫です大丈夫です。存じ上げない方にも簡単に使いこなすことができるのがスマホとなっていますので、大丈夫ですよ、ご安心ください、
 
パサパサしたビニール状の生物1
ファア、ファアファファファファファ、ファアアアア、
 
奈良井
え、スーパーマーベラス堀越学園、スーパーマーベラス堀越学園、略して、スマホ、そんなわけあるかい、そんなわけあるかいですよ、どんな堀越学園なんですか、スーパーマーベラス堀越学園って、小林幸子でも通ってるんですか?
 
パサパサしたビニール状の生物1
ファファ、ファファファファファファ、フアアアア、
 
奈良井
え、小林幸子知らないんですか、紅白歌合戦でめっちゃ華やかな服着て歌う人ですよ、ええ、皆さん、紅白好きな世代かと思っていました。
 
パサパサしたビニール状の生物1
ファア、ファファファファファファ、
 
奈良井
なるほど、ペニッサリー宴ガニ松山みたいな人ねって、誰ですかそれ、ペニッサリー宴ガニ松山、芸人ですか?
 
パサパサしたビニール状の生物1
ファフ、
 
奈良井
あ、歌手なんですね、
 
パサパサしたビニール状の生物1
ファファファファファファ、ファフファーファ
 
奈良井
え、カニのドレスを着て、古の国への帰路をメロディにのせて歌う歌手、なんですかそれ?、こわ、カニのドレスって、あのカニですか、あのカニでできたドレスってこと?こわ、、怖いけど、確かに小林幸子感ありますね、海の幸、だけにですか、、え、ちょっとこれは、本当に先に進まないので、この辺で、質問コーナー失礼します。スマホってのは、スマートホンの略です、つまり、スマートなホン、ホンってのは電話ですよ、スマートに使える電話って意味ですね、分かりますか?あ、電話くらいは分かりますよね?
 
ゴチャゴチャした糸状の生物1
てーーーーーーーーーー、
 
奈良井
あ、そうなんですね、昔、食べたことがある、うーんどうでしょうか、電話って食べ物ではないと思うのですが、それって本当に電話だったのでしょうか、いや、そうですね、電話だったとしても使い方間違っています、うーん、そうですね、電話くらいは分かってきて欲しかったですね、スマホ教室ですし、うーん、ま、でも大丈夫です大丈夫です、使い方自体は簡単ですので、すぐに慣れますから、電話ってのは、そうですね、離れた人と喋れる機械になります、もう今や、全世界どこからでも通話できるようになりましたね、目まぐるしい、目まぐるしい人類の進歩ってわけですよね、でね、でねでね、昔の電話って備え付けだったわけ、もう本当、本当に昔の電話は村中の一軒の家だけ電話持っててみたいな、みんなその家で借りて電話するみたいな、それがそれが、どんどん普及して普及して、公衆電話ってのができて街中電話だらけになったと思ったら、携帯電話ができてもう家からとか関係なくみんな一人一台持って電話できるようになって、ガラケーってのが普及した時代なんかですね、電話するだけじゃなくて、逆パカっていう、そうですね、ガラケーってのはパカパカ折りたためる携帯電話だったんですが、本当にブチギレた時だけ、本当にブチギレた時にしかやっちゃいけない行為なんですが、そのパカパカ折りたためる携帯電話を逆方向に無理やりパカっと割るというなんていうんですか、感情表現の媒体としても機能するようになっていきます。つまり、電話できるだけでなく、ブチギレた時に使えるツールとして、付加価値がどんどんどんどん追加されていくわけですな、その果て、最たる果てとして今、皆さんが使いこなそうとしているのがスマホになります、もう電話だけじゃなく、インターネット、メール、映画も見れるし、音楽も聞ける、キレた時ぶん投げれるし、ハンコ押す時に下敷きにできる、そんな便利の集合体、世の中のありとあらゆる便利を詰め込んだ小さな長方形、これがスマホ、スマートホップということになります。あ、間違えた、スマートホンでした、スマートホップってなんだ、そんなホップ見てみたいですね、スマートホップスマートステップスマートジャーンぷ、はい、それではそれではですね、実際、みなさん、一緒に使っていきましょう、実際のスマホをお配りします。
 
 
  奈良井さん、スマホを配る。
 
 
ガチガチした石状の生物1
ガリガーリー、ビビンバ。
 
奈良井
そうですね、これがスマホです、見たことないですか?、みんな使ってると思いますが、
 
ペラペラしたチラシ状の生物1
のうひんぺんほーん、
 
奈良井
なんだただのポポロホ入れかって、なんですか、ポポロホって、
 
サラサラした砂状の生物1
あ、あへ、
 
奈良井
うん、慌てないで、慌てないで落ち着いて、みんなで、みんなで一緒にやりましょう、まずですね、今皆さんにお配りしたスマホ、画面真っ暗になってますよね、あ、違います違います、そっち裏面で画面じゃないです、画面って、わからないですか?、なんていうのかな、液晶ついてる方なんですが、液晶っての分かりませんよね、そんなわけないでしょ、そんなスマホの横の部分見ても音量スイッチしかありませんよ、こっちです、こっちこっち、そうそっち、あ、石状の方、頭に乗せるものではないのでとりあえず手に持ちましょうか、そうですそうです、あ、利き腕にもよりますが、ああ、こっから説明した方がいいか、利き腕にもよりますが、基本姿勢は、右利きなら左手に持ち、右手の指で画面を操作するってのが基本姿勢となります、こうです、左利きの人は、逆、分かりますか?、あ、砂状の方、持てないですか、サラサラしてるから?、あー、大丈夫です大丈夫です、今の時代音声で操れたりしますので、あ、石状の方液晶壊してるじゃん、壊しちゃったらダメですよ、ああー、不良だなあ、みなさん、皆さーん、聞いてください、スマホってのは壊したらダメなんです、だからですねそこのお二人スマホでキャッチボールしないでください、壊しちゃダメですよ、あ、違います違います、スマホを偶像化して崇拝しないでください使い方間違ってます、糸状の方食べなーい、食べませんよ、電話は食べ物じゃありませんよ、うーん、弱ったなあ、逆パカしたいんだけど、スマホって逆にパカれないのが問題なんですよね、この辺はガラケーから一歩退化したとこですね、あ、違いますよ、トランプタワーみたいにしないでください、砂状の方泣かなーい、触れないくらいなんですか、世の中には触れたくても触れられない距離感の恋人未満達がうんとやまのようにいるんですから気にしない気にしない、え、待って待って、石状の方スマホ粉々にしてんじゃん、何してるんですか、もう、それ、粉ですよ、いや、無理ですよ、流石に粉では電話できないですよ、弁償してー、流石に、うわああああああああああああああ、お焼香みたいにスマホの粉スマホに振りかけないで、崇拝しないで、え、ポポロホに似てる?、えっへっへっへ、、ポポロホってなんなんですかー、美味しいんですか?あー、もう無理、もう本当、無理です、え、食ってみろって、何言ってるんですか、美味いわけないでしょ、
 
  
  奈良井、スマホをかじる、
 
 
奈良井
歯、痛え、歯、痛えじゃん、
 
ゴチャゴチャした糸状の生物1
てーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
  
 
終わり。
 
 
 
 
 

 

劇作家Z氏とインタビュアー君による公開講座6〜気遣いの幽霊をただただただただ振り返る〜

「劇作家Z氏とインタビュアー君による公開講座6〜気遣いの幽霊をただただただただ振り返る〜」
 
●登場人物紹介
劇作家Z氏、バンホーテンのアイスココアが好き。
インタビュアー、利きティッシュができる。
 
●前回までのあらすじ
劇の歩行速度について、Z氏の悲しい過去(毎晩スラムダンク見てた)を元に考えた。
 
 
 
キーンコーンカーンコーン
 
 
Z氏
いやあ、初めましての方は初めまして、2度目ましての方は2度目まして、何度目かましての方は何度目かまして、どうも、地位も名誉も名声も富もかなぐり捨てた孤高の荒野の劇作家、Zです。今日も頭町大学から講義頑張ります!
 
インタビュアー
孤高の荒野の劇作家だったんですね、Z氏って、
 
Z氏
そしてこちらが、いまだに名前も決まっておらず、ダラダラ、頭町という超チンケな仮想空間でインタビュアーをしているインタビュアー君です。どうぞよろしく。
 
インタビュアー
本当に久しぶりですね、私って存在がここにいることが奇跡だと思えてきましたよ。
 
Z氏
まあまあまあまあ、いやああ、忙しかった。
 
インタビュアー
でしょうねえ、仕事しながら学校行ってるって言ってましたもんね、前回。
 
Z氏
っていうかっていうかよ、演劇の本番してたから先週まで、
 
インタビュアー
え、演劇の本番?、やってたんですか?、え、なんで僕誘ってくれないんですか?、僕こそ観に行くべきでしょう。こうやってインタビューしてるんだから、
 
Z氏
いや、だって、場所、I袋だし、頭町からは流石に行けないかなって、
 
インタビュアー
いや、行きますよ、I袋、全然行きたかったですよI袋、I袋ウエストゲートパーク好きっすよ、マコチン、マコチン、ってキングに憧れてこの世界入ってきたんですから、
 
Z氏
この世界ってどの世界よ、あ、いいやいいや、答えないで答えないで、全然進んでいかなくなるからいいやいいや答えなくて、つまりね、先週まで僕はKタレの第一回本公演「KづかいのY霊」の上演があったわけ、それで激くそ忙しかったわけ、だけど、楽しかったあ、もう、抜け殻ですね、魂抜け気味ですよ、いや、すごいね、やっぱ演劇って楽しいね、でも流石に、疲れた、疲れたけど、色々本番して考えなきゃなあってこともあって、あ、そうだ、頭町あるじゃない、全然更新してないし、せっかくだから使っとこっかなって、わざわざここにやってきたってわけよ。
 
インタビュアー
うわあ、都合の良い恋人みたいな感じでこの場所使うのやめてほしー。
 
Z氏
ていうわけでお久しぶり、元気してましたか、学生諸君、
 
学生A
おめえ、学費返せよ、
 
Z氏
相変わらず、威勢がいいなA君、学費?、そんなもん俺の手元には一切入ってきていないんで返す学費なんてないよ、その代わり、楽しい話をしてあげるよ、激作、演技、演出に関する楽しい話さ、
 
インタビュアー
なんでこの人わざわざ自分からハードル上げるんですかね、
 
学生C
先生、お久しぶりでごわす。
 
Z氏
おうおう、優等生の宝田明君じゃないか、君そんなゴワス口調だったっけ?
 
学生C
そうでゴワスよ、今日もバリバリメモ取らせてごわしますでゴワスよ、
 
Z氏
取りたまえ!メモをどしどし取りたまえ!しかしこれ、コピペやろうと思ったらできるけど、手を動かしてなんぼですからね、人間、手を動かしてなんぼですよ、
 
インタビュアー
本題入ったらどうですか?
 
Z氏
うるさいなあ、僕のペースでやってるんだから邪魔しないでもらえる?、ほら、レストランでもあるでしょ、前菜とかスープとかあってのメインが来るんだから、鍼灸も同じらしいよ、前菜の施術があって、主訴の施術って、ちゃんと流れで組み立てるのが重要らしいよ、
 
インタビュアー
へえ、鍼灸もそんな流れがあるんですね、デザート的な施術もあるってわけですか?
 
Z氏
そうそう、めっちゃ重要よ、しめだからね、あまーくしめないと完璧な施術にはなんなないってことですかね、いよおおおおおし、前菜終わり、
 
インタビュアー
無茶苦茶雑だなあ、
 
Z氏
メインメイン、メイン行きますよー、
 
インタビュアー
今日はなんの話ですか?
 
Z氏
気遣いの幽霊について振り返ります。
 
インタビュアー
自分の演劇についての振り返りを大学の講義で!斬新だ!
 
Z氏
ま、こんなもんですよ、人生なんて、いやはや、何から話していきまっしょいか、何からがんばっていきまっしょいか、
 
インタビュアー
懐かしい、若かりし頃の鈴木杏の姿が昨日のことのように目に浮かびますよ、
 
Z氏
相武紗季とか出てたよね、相武紗季、最近全然見ないね、
 
インタビュアー
結婚したんですかね、全然知らないですけど、って、がんばっていきまっしょいの話はいいんですよ、メインメイン、メイン料理行っちゃってください。
 
Z氏
、、、カバチタレってなんだっけ?
 
インタビュアー
メイーーーーーーン、メイイイイーーーーーン、行ってください、メインに、どうぞ。
 
Z氏
いやはや、そうですね、僕も時間ないですからね、今手塚治虫ブッダ読んでて、これ早く読み切らないといけないから、話すね、ええと、何から、話していこうかな、まず、そうね、戯曲、これね、はい、これ、戯曲、
 
 
インタビュアー
戯曲あげちゃってるやん、
 
Z氏
プライドも何もないからね、読んでもらったほうがいいし、
 
インタビュアー
ほーう、これは、また、Z氏にしては、長いの書ききりましたね、
 
Z氏
そーう、もっと、褒めて、もっと、褒めて、ってそんなどうでもいいやり取りは置いといて、ですよ、まずね、、まず、何から話していこうか、、ゴーゴリね、つまり、ゴーゴリの「外套」って小説を出発点にしたわけね、外套の最後からしりとりみたいな形で、現在の物語を始めているわけ、つまり「外套」は万年九等官、アカーキイ・アカーキエヴィチ・バシマチキンが外套を極端な節約生活のもと手に入れるんだけど、その日の夜のパーティの帰り道追い剥ぎにあって、取り返すすべなく、扁桃炎で熱出して亡くなって、幽霊になって出没して、人々の外套奪って、なんかさる有力者の外套がしっくりきていなくなるって、よくわからん終わり方するんだけど、今作「気遣いの幽霊」は幽霊になるまでの物語を丸々省いてて、幽霊になってからの物語に仕立ててあげているわけです。つまり「外套」の最後の方を始まりにしているから、しりとりですよね、そして、このしりとりって感覚、どこかで聞いたことありませんかね?
 
インタビュアー
しりとり?、ジャルジャルですか?
 
Z氏
全然違います、つまり、アミダクジ式よね、後藤明生です。え、ジャルジャルてそんなネタあったっけ?まあ、いいや、いやあああ、今回ね、面白かったのは、あれね、アフタートークで、劇作家演出家の島村さんがこの公演を俳句的だって見てくれたことですね、で?ってなる演劇、そんな感覚で作ってなかったのだけどすごくしっくりきた。逆にでもなんで俳句的って言葉にそんなに納得いっていしまうのかちゃんと考えねばならんとも思った。で、ずっとわからないでいる。いや、もちろん島村さんの説明わかりやすくて、松尾芭蕉奥の細道取り上げて場所にフォーカスした話や、尾崎放哉の句、「なんにもない机の引き出しを開けてみる」を持ち出して、日本人の根底に本当は何にもないのに、なんかあるはずだって思ってることによる気遣いの鍋パが展開されるって話もすごく面白かった。で、俳句ってなんだろうって思ってたんですよね、俳句って言われてパッと浮かぶのって季語っすよね、俳句の基本ルール季語使うですもんね、で、この戯曲において季語ってなんなんだて思ったんすよ、ていうかそもそも季語ってなんなんだって、思ったんすよ、で、あ、こりゃ、ゴーゴリが季語なのかもしれないなと。
 
インタビュアー
ゴーゴリが季語?、どういうこと?、人って季語になるんですか?
 
Z氏
うん、そうねそうね、どういうことってなるよね、僕もなってる、でも待って、つまり、後藤明生後藤明生ゴーゴリカフカドストエフスキーや太宰や芥川や谷崎や永井荷風やもう、あらゆる小説を元に小説書いたわけですよね、彼が言う「千円札文学論」、つまり、なぜ小説を書くのか、それは小説を読んだからだ、ってなるほどーとなるわけですが、確かにそうですよね、ゴーゴリ読んだからこの作品できたわけであって、もっと言うと、後藤明生読んだからできてるわけですよ、今回の舞台、上京してから様々なものが結実してできてて、やっとスタート地点立ったねっていろんな人に言われて、泣いちゃったけど、そのうちの一つは、後藤明生です。つまり、後藤明生って俳句的に言えば、「外套」を、もっと言うと「ゴーゴリ」を季語として扱ってるってことなんだと思ったのね、元々俳句雑誌編集してて、今劇作家友達の上田さんって人と話してて感動したことがありましてね、僕が俳句に興味持ち始めた時に話してくれたことなんですけどもね、季語ってのは良いよって話で、先人たちが何回も何回も詩に使ってきた言葉が季語なんだと、先人たちのシミにシミに染み尽くしたものが、季語に値する言葉に備わっているって、まあこんな言葉は使ってなかったんだけど、このようなことを上田さんが言ってて、感動したんですが、つまり季語使って俳句作るってことは、それらの歴史の中にくっつくわけですよね、その言葉に新たな染み込み成分を含ませることになるわけでしょう、そういう意味で、後藤明生が代表作「挟み撃ち」において「外套」、いや、もっと言うと「ゴーゴリ」を季語として使ったってことではないかと思ったのね、や、俳句的に見た時にね、なんも言ってないよ、長々となんかエピソードトークとか挟んでしちゃったけど、これまでのくだり、実は実際的な発見としてはほぼほぼ何にも言っていない、ただ、小説を読んだから書くのだという後藤明生の考えと、俳句における歴史?、って言い方は大きすぎてどうなのかわからないけど、いろんな人がその言葉に染み込ませてきた大きな流れの中に仲間入りするって俳句の考えが、なんとなく一致したような気がしたわけ、そう考えてみると、シェイクスピアチェーホフイプセンベケットも、今でも上演される古典戯曲って、季語化してるんじゃないかなと思ったのね、現代ではそれを使ってどういう風に大きな流れの中に仲間入りするか、演劇、小説、俳句、いや、なんだってそうなのかもしれないんだけど、季語的なものが関与してるんじゃないかと思ったわけ、ああ、話、壮大すぎるな、
 
インタビュアー
なんか、壮大すぎるけど、大丈夫ですか?今日?
 
Z氏
わかんない、心がどうにかなっちゃってるよ、ま、でも現在地、見えてきてるよね、前回も話したけど、自分のしてきたこと、言葉にすることでこれから何がやりたいか見えてくるって精神でいるので、なんでも喋ってくつもり、一つは、俳句、もしくは怪談にも関わるのかもしれないけど、もっと勉強したい。すればするほど、死んでもわかんないかもしれないけど、演劇って何かに近づける気がしてる。で、そうね、今回の舞台も、冬の公園のベンチから始まって、夫婦の家の中、フォーの店、井の頭公園、カラオケ、鍋パ、善福寺川沿い、環八通の交差点、とあらゆる場所があって、その中で島村さんが冬の公園のシーンで出てくる空き缶のプルタブをプーンと鳴らしているとこ、まさに俳句って言ってくれたんですが、つまりそういうことだよなあって、そんなもん物語の流れから見たら絶対に必要なものではないんだけど、俳句はそれを詩にできるでしょう。というか俳句は得意だと思う、そういうの、だけど演劇にもその可能性があるって思ってるわけ、そういうどうでも良いかもしれない現象を立体的に、体験的にもっと遊び尽くして良いんじゃないかって考えてるってことなんだけど、あと戯曲書く時にその登場人物がいる場所を想像できているかってすごく重要なことだと最近思ってる。そこに何があるのか、その場所で何が起こりうるのか、人間ってそういうことでしか会話していなくないかとも思うんですよね、、なんかエピソードトークしてる時に、前までカツ屋だったとこが潰れてなくなってるって時に、そのエピソードトーク遮ってしまってでも、あ、カツ屋なくなってるって言っちゃうとこってあるやない、その場の驚きが会話を食い尽くしてしまうことってあるやない、演劇作っていくと、どうしても物語の流れを重視してしまうので、その場で何が起こりうるか疎かになってしまう感覚があって、本筋のために、俳句的なものが捨てられる感と言いますか、そこらへん、うまく言えないけど、もっと楽しみたい、つまりゴーゴリの話に繋がるんだけど、ゴーゴリ面白いのは、そんな細かい描写要らんやろってところで、何故か関西弁出ちゃってますが、あれ、おかしいな、僕はこの世界では頭町出身の劇作家ってことになってるけど、何で関西弁出ちゃってるんだろ、
 
インタビュアー
大丈夫です、そんなこと誰も気にしてませんから、続けて続けて、
 
Z氏
あ、ゴーゴリね、つまりゴーゴリの話ね、まりさんとのアフタートークでもちらっと話したんですが、登場人物の、細かい描写、何でそんなとこ描写してるの?ってやつ、すごく好きで、ペトローヴィチの嗅ぎタバコ入れの柄とか、アカーキイって名前がつけられるまでのやり取りとか、さるおえらがたの口癖、厳格!厳格!とか、登場人物の際立たせ方、上手いというか面白いというか、その一文で、ちゃんと紹介するよりその人物を分かった気になれるものがすごいって話だったんだけど、ゴーゴリ伝って本読んでたら、ゴーゴリは朗読が上手かったって描写があるのよね、で、ぽろっとアフタートークで喋った後に、じわじわと実感してきたのが、やっぱりゴーゴリって小説というかお話を披露するって感覚で書いていると思うってことなのよ、パーティやらで披露してる感覚あると思うんだよ、つまりゴーゴリの小説って、目の前に観客がいるんじゃないかって思ったってことね、これ、じわじわとめっちゃ発見なんだけど、小説って読み手は想像するけど、観客じゃないじゃない、読み手と観客の違いってなんだろうって話になってくるんだけど、少なくとも観客って場をつくるんですよね、朗読してる時の雰囲気は朗読者だけじゃなく、観客との共同作業でできるわけ、だから随所にユーモアっていうのかな、漫才でいうつかみとか、あと、物語の線と離れて、現実世界からの目線でのツッコミみたいなものも入れて、少しでも観客を楽しませようとしているところがあると思う、これがゴーゴリにおける語りの小説の仕組みなんでないかなあって、書いているというより、語ってる、もっと言うと、お客さんにお話を披露している、こーれ、ジワジワと個人的にはすごい発見で、
 
インタビュアー
読み手と観客は違うって話面白いですね、でもその話で言うと、演劇も観客を想定してつくられますよね、
 
Z氏
なんだろうなあ、ゴーゴリの朗読って感覚とちょっと違うというか、ま、落語とかに近いのかもしれないんだけど、あと、子供がお母さんやお父さんに絵本読んでもらう感覚というか、なんだろう、純粋にお話を話す、それを純粋に楽しめる、ってものといわゆる一般的に今作られてる演劇はなんか違う気がするんだけど、よくわかんないけど、いいや、今日時間ないから、他にも話すこといっぱいあるから、
 
インタビュアー
ブッダ読まないといけないですもんね、
 
Z氏
えっと、なんの話したっけ、俳句の話したよね、で、ゴーゴリも話した、それでね、それでそれで、あ、そうそう、演出の話ね、戯曲の話にもなるか、あ、そうだそうだ、今回の舞台、幕張って、俳優が基本位置にいるって前回の「犬、呪わないで」や「Kちゃん怪談」、あと「ひょうひょう」って三月にした短編公演を全部混ぜこぜにしましたってつくりになってて、ああ、どっちから話そう、ここですでに話したいことが枝分かれしそうなんだけど、ま、とりあえず戯曲の話からいこう、つまり、「犬、呪わないで」の夫婦が出てるわけ、同じ名前で、手塚治虫スターシステムって考えをやってみたいってのと、ワークショップしてくれた、あああああ、ワークショップの話ももっとしたいね、いや、待て、一瞬で終わらせる、ワークショップしてくれた横尾さんが、スタニフラフスキー時代のロシア演劇の話してくれてたんだけど、スタニフラフスキーが色々今に繋がる演劇の革命してくれたってことなんだけど、それまで、ストックキャラクターってキャスティングの考えがあったわけらしいのね、つまり、王様役やる王様っぽい見た目の俳優、ヒロイン役やるヒロインっぽい見た目の俳優、お調子者ぽい見た目の俳優、って劇場が雇ってて、こういう役はこの人に任せるって、精神性関係なく、見た目でこの人はこの役って割り振られていた、って話、つまり、それやると他の役できなくなるし、色々あって、キャラクターをストックするって考えがなくなっていったらしいんだけど、なああんか、今後使えるんじゃないかって、スターシステム、ストックキャラクター、共同劇作をする上で重要な概念だと思いはじめている、つまり内容の共有じゃなく、登場人物の共有化、これが一つなんか鍵になるんじゃないかしら、ってところで、はーい、枝分かれした、分岐点に戻って、演出の話ね、
 
インタビュアー
いつにも増して生き急いでますね、どうしたんですか?今日、なんかあったんですか?
 
Z氏
え、聞いてよー、もうしんどいんだよー、学校毎週テストなんだよー、なのに映画出演するんだよー、それで、勉強しないといけないのに、現実逃避なのかなんなのか頭町来て喋ったり、ブッダ読んだりで日曜終わっちゃうよー、うわーあああああああああ、ま、いいや、早く終わらせよ、
 
インタビュアー
感情が錯綜してますね、今回、
 
Z氏
演出の話ね、色々言われたけど、一番考えなきゃいけないなあって思って一切考えられていないのが、結局初期のチェルフィッチュだよねって言われたって話、うーーーん、でね、そっからは逃れられないのかあと思いつつ、つくってる感覚として、チェルフィッチュ意識一切ないんですよね、だからなんなんだろうって、伝聞の伝聞って、これ、後藤明生の長女の松崎さんがやってるアーリーバード・ブックスから文フリとかで発売しているCD、後藤明生文学論講義『吉野葛』で話していることや、後藤明生プラトンの「饗宴」だとかについてあらゆる本で語ってることの演劇的実践になるわけだけど、以下でCD買えます、面白いので是非。
 
 
つまり、伝聞の伝聞の伝聞による歪みの面白さでつくられたものなのよ、チェルフィッチュここに来てちゃんと読み返したいなって思ってから読みなおせていないんだけど、入り口ではチェルフィッチュ全く意識してなかったわけ、結果的に現れてくるのものが似てくるってことなのかもしれないんだけど、ここ、でも実際何が違うんだろってところはちゃんと考えないとなあて思いつつ、全然わからないでいる。全然わからないでいるのでなんか思ったことある学生いたら教えてくださいね、っていうか飲みに行きたい、カラオケ行きたい。
 
インタビュアー
え、え、何、急にカラオケ行きたくなってる?
 
Z氏
カラオケは行きたいんだけど、あと演出ね、演出で気づいたこと言うね、
 
インタビュアー
軌道修正が速い!
 
Z氏
今回、僕は出演せずで演出って立場で外から見てて気づいたことね、つまり、演出ってルールをつくることかもしれないって学んだわけよ、枠って言い方でもいいかもしれない、僕はこれまで演出してこなかったから、俳優と戯曲書くのはしてきたけど演出は実際そこまで自信ないんだけど、俳優も演出家でなきゃいけないって考えとかもあるし、なんか、そうね、つまり、今回というか最近の僕は舞台の絵画的なものにこだわっているわけで、こう動いてここで喋って欲しいってくらいしか俳優に言ってないのね、あ、あと、今回意識の速さが重要な劇だったので、意識早く進めて欲しい、とかそういうとこしか言っていない、細かく細かくこうしたほうがいいんじゃないかってのは基本提案みたいな形ではするけど、動きの動線とテンポってルールさえ守ってくれたらあとは基本どう演技してもいいよってスタンスだったわけ、それでみんないい演技してくれたから本当、俳優に救われたってことなんだけども、つまりこのルールの中で遊んでね、楽しんでねってゲームみたいなもので、演出家によっては、このルールが厳密に組み立てていく人もいれば、ルール全然ないみたいな人もいるし、って時に、でも、どっちもそこまで変わりないんじゃないかって気もしてきたわけね、どんなにたくさんルールをつけられても、その中のどこかしらには余白があって、役者にしか操れない領域があるって気がしてて、逆にどんなにルールがなくても、ここでは出ていないといけないとか、そもそも、セリフってものがある時点でかなりのルールだと思うんだけど、で、でね、演出家の設定するルールと役者の設定するルールで演技はできるんじゃないかって思ったのね、演出家と違う形で役者はルールを設定しているんじゃないかって、こーのへん、僕は役者としての実感として喋ってるわけでないので、役者の人たちからの話を聞けたら嬉しいなと思いつつ、あと、話したいことなんだ!なんだと思う?
 
インタビュアー
いや、僕に訊かれましても、
 
Z氏
あとは、、そうね、音楽劇をつくりたかった。音楽を使わない音楽劇、アンケートに音楽みたいだったって感想あって、嬉しかった。以上。
 
インタビュアー
え、それだけ?、音楽劇の話、もっとしたほうがいいのでは?
 
Z氏
疲れましたー。ブッダ読みますー。
観に来てくれた方、気にかけてくれた方、ありがとうございましたー。
解剖学の試験のため、脳神経の復習に入りますー、今日も長々とありがとうございましたー。
 
 
 
 
キーンコーンカーンコーン。

新幹線のみかん

新幹線のみかん
 
  新幹線、お盆、混んでいる。
 
ですよね、新幹線、お盆とか、年末とか、連休とか、混みますよね、僕は、一人で、座っていたわけで、実家から東京に帰ろうと、ね、
 
ナノカ
うん、私、は、前の方で、一人で、座っていて、
 
二人席なんだけど、一人で座っていたわけで、この人も、二人席なんだけど、一人で座っていて、つまり、互いに隣に空席があるってことなのね、
 
ナノカ
なんだろう、何を考えていたのだろう、私は実家で、嫌なことがあったわけでもなく、めっちゃ楽しかったわけでもなく、義務として、年に一回はちゃんと帰っとかないといけねえかねって義務として、義務を果たして、なんだろう、何を考えていたのだろう、疲れていたことは確かなのね、新幹線、って、疲れますよね?
 
新幹線、うん、疲れるね、新幹線乗るまでが疲れるね、あのお土産屋とか食べ物屋とか、密集してる待合スペースを潜り抜けてくるだけで疲れるね、
 
ナノカ
あと自由席、
 
そう自由席疲れるね、人多すぎて座れないんじゃないかって不安を常に背負わされたままなの疲れるよね、かといって、指定席にしても、なんか間違えて、なんかのはずみで、指定の電車に乗れないなんて事態が発生するのではないかって不安で疲れるよね、
 
ナノカ
そこまでは考えないけど、
 
あ、そこまでは考えないか?
 
  早苗、雅紀、乗ってくる。
  雅紀、早苗、大量の荷物を持っている。
 
早苗
あ、ここー、ひとつづつ空いてる。
 
雅紀
あいあいさー、
 
  雅紀、荷物を荷だなにスムーズに乗せて、ナノカの隣に座る。
  早苗、タツミの隣で荷物を荷だなにモタモタと乗せようとしている。
 
雅紀
大丈夫?
 
早苗
えー、手伝ってえ、
 
雅紀
もうー。
 
  雅紀、早苗のもとへ、
 
あのう、
 
早苗
はい?
 
変わりましょうか?
 
早苗
え?
 
変わりましょうか?席?
 
早苗
え、いいんですか?
 
あ、いいですいいです、僕そっち移動しますよ、
 
  と、タツミ、準備始める。
 
早苗
え、ありがとうございます。
 
雅紀
うわー、いい人ー。ありがとうございます。
 
  と、雅紀はナノカの上の荷だなに置いた荷物を移動させる。
 
  タツミ、ナノカの隣にそそくさと座る。荷物は少ないらしい。
 
  早苗と雅紀、隣り合って座る。
 
  あー、やっと落ち着けた、ってあの新幹線の自由席に座った直後の雰囲気を放ちながら、ヒソヒソと喋り合っている。
 
  しばらくの間。
 
 
あーーーーー、いいことしたなああああああ、って清々しい気持ちになりたかったのに、なんだろう、いいことしちゃったなあああああ、って後悔みたいなものがあって、それは、きっと、隣に、変わった先の席の隣の人が、あ、うわ、あ、なんだ、結構、なんだ、いいな、雰囲気、好きだな、いいなって人で、あ、うわ、あ、なんだ、あ、うわー、今の親切の一部始終をもちろん見られていたかー、ってな、わけで、ここから名古屋、静岡、新横浜と親切人間のイメージで、この、あ、なんか、いいなって人の隣でガタンガタンと無言を続けないといけない状態になったわけで、あ、いや、別にいいんだけど、別になんも気にすることないんだけど、ああああーー、いいことしちゃったなああああああって、でもしなくてもよかったなあああああ、って後悔、でもないんだけど、どうでもいいんだけど、そんなこと考えていたところでね、
 
雅紀
あのう、
 
と、さっきの、多分夫婦の、夫のほうが、
 
雅紀
あのう、
 
って、はなしかけてきて、はい?
 
雅紀
これ、良かったらどうぞ、
 
って、良いか悪いか考えさせる時間もなく、薄いビニールに入ったみかんを5個、渡されていて、その人は颯爽と僕が元々座っていた席に戻って行って、ああ、ありがとうございます。
 
  タツミ、みかんを一つ手に取る。
 
めっちゃ見られてて、なんか、隣の人、めっちゃこっち見てて、もちろん、顔、見れないから、どんな顔してこっち見てるのか、わかんないんだけど、めっちゃこっち見ていて、みかん、なのか?俺、なのか?それともそもそも見てはいないのか?俺を通り越した先の通路を挟んだ三人席スペースの人を見ているのか、少なくともこっち側を見ているのは確かだなあって思いながらみかんを剥いているのね、俺の両手、あ、これ、まずいか、みかんの匂いプンプンさせちゃうか、あ、あんま良くないか、新幹線の自由席でみかんの匂いプンプンさせちゃうのは流石にマナー違反か、そんなわけないか、みんな駅弁とかめっちゃ食ってるよな、みかんぐらいなんてそのよな、いや、でもめっちゃ見られてる、めっちゃ見られてるのは確かぞよ、この圧は、一応、一応、謝っとくか。あのう、すみません、
 
ナノカ
え?
 
すみません、みかんの匂い、プンプンさせちゃって、
 
ナノカ
いえいえ、大丈夫ですよ、わたし、めっっっちゃみかん好きなので、
 
あ、めっっっちゃみかん好きなんですね、好きでもなく、めっちゃ好きでもなく、めっっっちゃみかん好きなんだったら、流石に、あれだな、あげといたほうがいいよな、って5個あるし、みかん、いります?
 
ナノカ
いいんですか?
 
って食い気味に、いいんですかって言われたわけだけど、え、この人ちょっとみかんくれるかもっておもってたくない?って一瞬だけ疑惑の念を持ってしまったけど、いいよいいよ、もちろんもちろん、いいよいいよ、一緒にみかん食べましょうよ、つまらない帰路、つまらない風景、つまらない新幹線内のああ、疲れたって雰囲気漂う車内を僕らのみかんのフレーバーでリセッシュさせてあげましょうよ、とまではもちろん言ってないけど、ああ、どうぞどうぞ、
 
ナノカ
ありがとうございますー。
 
  タツミ、ナノカ、並んでみかんを剥いている、
 
関係性を持ってしまうってことが、どれだけ面倒くさいことか、僕はわかっていて、しかしながら、興味本意で、全然知らない人に話しかけてみたい欲望はやっぱり常にあって、それは、この人が、なんかいいから、とか、そういうアレだけじゃなくてね、例えば、銭湯で、俺の住んでるアパートの近所の銭湯で、京極夏彦の文庫本を湯船浸かりながら読んでるロン毛のお兄さんがいたのよ、で、これが、よく会うのよ、頻繁に見かける、こっちは、あ、京極兄さんだってもう勝手に名前つけてるからね、アンテナ張ってるから、すぐ察知するわけ、街中とかでも会ったことある、あ、京極兄さんだって、でも、向こうは俺のこと知らない、ここで、やっぱり、話しかけてみたい欲望が生まれるわけだけど、いやちょっと待ってよと、俺別に京極夏彦のこと全然知らないし、怖い人だったらどうしよう、変な勧誘されたらどうしよう、いや、そもそも、一度話しかけてしまったら僕たちはもう、元の関係には戻れないぞよ、銭湯で会うたびに何か話しかけなければならない義務みたいなの背負ってしまうかもしれません、て、なんだろう、面倒さ、と興味、との引っ張り合いのもと、もちろん、面倒さ、が勝ってしまうわけで、どうでしょうか、この場合、みかんをあげてしまったってかなり、面倒なことでもあるような気がしないでもないのですが、
 
ナノカ
剥き方、うまいですね。
 
あー、昔から、これだけは自信あるんですよ、ってああ、かなり面倒なことになってる。剥き方、下手ですね、
 
ナノカ
ええー、そういうこと言います?全然知らない人に向かって、
 
って、あ、楽しい、このやりとりなんか楽しい、
 
ナノカ
お名前とか、聞いてもいいですか?
 
あ、やばい、面倒な渦のど真ん中に引き込まれていってしまいそう、タツミです。
 
ナノカ
ナノカです。
 
あ、楽しい、めっっっちゃ楽しい、名前言い合っただけなのにめっっちゃ楽しい。
 
ナノカ
なんか、いいですね、親切して、みかんもらって、それ、なんか、共有してもらえて、めっっちゃ美味しいし、
 
めっっっちゃ楽しい、うわ、めっっっっっちゃ楽しい、うん、めちゃいいですよね、なんか、こんな気分、初めてで、
 
ナノカ
めっっちゃレアですよね、めっっちゃレアな時間に今、いる気しません?
 
わかる、わかるけど、例えば、これが、深夜の公園とか、夕暮れの海とか、なんかめっっっちゃなんでもできる時間と場所だったらもっと僕らはめっちゃハジけることもできたと思うんだよね、風とか感じて、うわ今生きてるー感感じて、それこそ、ワンチャン、恋仲とかもありえたかもしれない、だけど、今、新幹線だしね、整えられたクーラーの風感じても何にもならない、夕陽に叫びたいけど、こんなとこで叫んだら大変だよね、連行されちゃうでしょ、駅員に、だけどめっっちゃ楽しい、めっっっちゃ楽しかったはずなのに、もちろん、ね、ガタンガタンと沈黙が続いていて、みかん、食べて少し話しただけで、僕らは、互いの名前とみかんの向き方の上手さだけを知り合っただけで、ガタンガタンと、沈黙が続いていて、あのう、もう一個、いります?
 
ナノカ
いやあ、流石に、それは、悪いです。
 
あ、はい、どうも。
 
 
  無言が続く。